インタビュー
Interview

美術大学で写真を学んでいるモデルの相川茉穂さんに、石元泰博展をご覧いただきました。一つ一つの作品を丁寧に1時間半以上かけてご覧いただいたあと、新鮮な目線で、展覧会の感想を語ってくれました。

東京オペラシティアートギャラリー(以下T):今回の石元展、かなり展示点数が多く盛りだくさんだったと思うのですがいかがでしたか?

相川茉穂(以下M):コロナの影響もあって、今ネット上で写真展を開催する人が多く、インスタグラムなどでも作品を発表することができますよね。
でもプリントした写真を生で観るのはやはり体感として良いなと、展示を観ながら思っていたんです。ところがものすごい展示数で、こんなにたくさん作品があるなんてすごい!この感覚は美術館に来ないと絶対わからないですね。

T:特に気になった作品はありますか?

M:最後の展示室にあった伊勢神宮の作品です。

それから、初期作品で多く見られた建築や車など正面から撮影している作品が印象的でした。そしてそれらすべて構図が決まっていて、どうしてバチッと構図が決まるのかとても興味深く観ることができました。

T:茉穂さんは写真を勉強されているんですよね。普段どういう写真を撮っているんですか?

M:スナップばっかり撮っていました。でも最近は写真を撮ることよりもむしろ古いネガを整理したり記録写真についてずっと考えていたんです。写真の良いところはネガとして長く残っていくところだと思うんですが、ちょうど機会もあって「記録として残す写真」についてずっと考察していたんです。でも今回、時間をかけて写真を焼くという作業をして完成された石元さんの作品郡をたくさん観たら、私も久しぶりに暗室作業をしたくなってしまいました。

T:今はデジタル主流なのでそういった手作業から少し離れてしまうこともありますよね。
石元さんは依頼を受けて建築の写真を撮るとき、プリントと一緒にフィルムもすべてクライアントに渡していたそうなんです。それって写真家の皆さんにお聞きするとびっくりされるんですが、デザイナーが原画一式クライアントにお渡しすることを考えると、石元さんは感覚的にデザイナーに近い人だったのかな、というようにも思います。

M:最後の展示室にあった「かたち」をテーマにしたエリアを見ていても、デザイン性が高く、造形物がとても好きな人だったのかなと思いました。人の顔、輪郭、建物、すべての造形物そのものにすごく興味を惹かれていたことがよくわかりました。
「こういうふうに造形物を観ているんだな」と、その時の状況がよく理解できました。

  • 《かたち(和太鼓)》 1957年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

  • 《かたち》 1973年
    ©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

T:「かたち」のコーナーは、実は撮影年代は60年代もあれば80年代、90年代の作品もあって、制作年はばらばらなんです。でも結局やりたいこと、撮影したいものは初期の頃に造形物を撮影していた頃と同じなのかもしれません。

M:初期の頃の造形物に対する目線がずっと根底にあるのかもしれませんね。
石元さんご自身がとても興味の幅が広いですよね。人も建物も食べ物も街もなんでも撮っている。でもすべて「石元さんらしさ」が出ていると思います。仕事写真ですらその「らしさ」が出ていますよね。

T:そうですね、人物のポートレートにも石元さんらしさが出ていますよね。
ところで、人物ポートレートというと石元さんはあまり女性を被写体にしていないんですよ。

M:確かに少ないですね。でも彫刻などの造形物と一緒に女性のヌードを収めた作品がありましたね。女性の柔らかさやフォルムさえも造形物として写真に収めているのかなと思いました。だからこそ潔く写真に収められているのかもしれません。

T:他に印象的な作品はありましたか?

M:この作品はとても印象的でした。まるでグラフィックですよね。

《東京街》 1953-57年
©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

それから定点で撮ってるのに実験的なこの作品。
大判をずっと構えていたんでしょうか。今だったらなかなか難しと思うんです。

《シカゴ 街》 1948-52年
©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

T:茉穂さん、どうやって撮ったかもわかるんですね、すごい。

M:東京で撮影した作品でしょうか、石元さんが写り込んでいる一枚があったんですが石元さんが大判を持って構えている姿を想像できてすごく面白かった!

《東京 街》 1980年代
©高知県,石元泰博フォトセンター/高知県立美術館蔵

空を写した作品も、雲を待ってたのかな、どういう姿で待ち構えていたのかな、とか考えると展示を観ていてさらに面白くなってくるんですよね。

日本の写真界の中では知名度は高いですが、もっといろいろな方に観て欲しいですね。これはネットやSNSでは体験できないですからぜひ会場に足を運んで実際に観ることがすごく大切だと思います!

相川茉穂(あいかわ まほ)

  • 1999年生まれ。神奈川県出身。都内美術大学(写真専攻)在学中。2020年秋からモデルとしての活動をスタート。モデル以外にも自身のディレクションにて、ファッションやアートなど様々なジャンルを通して表現活動をしている。
  • Instagram @mahoaikawa3