武満徹作曲賞 審査結果・受賞者の紹介

2015年度

カイヤ・サーリアホ

【審査員】
カイヤ・サーリアホ(フィンランド)
Kaija Saariaho (Finland)

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[本選演奏会]
2015年5月31日[日] 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:渡邊一正、東京フィルハーモニー交響楽団

【受賞者】

  • 第1位
    セバスチャン・ヒッリ(フィンランド)
    リーチングス
    (賞金75万円)
  • 第1位
    イーイト・コラット(トルコ)
    [difeʁãs]
    (賞金75万円)
  • 第2位
    ファビア・サントコフスキー(スペイン)
    存在の絵
    (賞金75万円)
  • 第2位
    トーマス・ヴァリー(オーストリア)
    ループ・ファンタジー
    (賞金75万円)
2015年度 武満徹作曲賞授賞式

左より、トーマス・ヴァリー、イーイト・コラット、カイヤ・サーリアホ、セバスチャン・ヒッリ、ファビア・サントコフスキーの各氏
photo © 大窪道治

審査員:カイヤ・サーリアホ 講評

「武満徹作曲賞」はユニークで権威ある賞です。尊敬してやまない素晴らしい同僚たちに続いて、審査員の任に預かりましたことを光栄に存じます。さらにはこの会期中に日本の音楽家および聴衆の方々と私の音楽を分かち合うことができましたことも、この上なく幸せなことでした。東京オペラシティ文化財団を始めとする皆様方には信頼を寄せていただき、審査員としての責務を果たす上でご尽力を頂きましたことを感謝申し上げます。
今年のコンクールには151のオーケストラスコアが送られてきました。全てを精査することは容易な作業ではありませんでしたが、そのスコアは世界中の若い世代の作曲家たちがどのような音楽的興味を抱いているかを如実に示してくれるものでもありました。
本日の本選に4作品を残すことが求められました。私の選択基準ははっきりしています。オーケストラ作品として明らかに熟達した域にあり、イマジネーションに富んでいること。そして管弦楽法的に新しい息吹を感じさせる作品です。
なかでも音楽様式に対する理解と認識、そして和声の扱い方、オーケストラ楽器の使い方にとても興味を惹かれました。今日におけるオーケストラ作品に対する皆様それぞれの視野が開けるような、そんな作品を見出したいと考えました。実際に私の基準を満たした作品は、うれしいことに4作品よりも多くありました。ですから4つに絞り込むのはもっとも大変な作業となりました。
私自身今回、芸術コンクールにおけるヒエラルキー、順位付けに対して信を置き難いことを再認識いたしました。ジャン・シベリウスよりクロード・ドビュッシーのほうが才能があった、あるいは葛飾北斎よりレオナルド・ダ・ヴィンチのほうが偉大な画家だった、などという権利が誰にございましょうか。すべての芸術家は唯一無二の存在であり、単純に比較できるものではありません。
しかしながら最終的に4つの作品が私の机の上に残りました。その時点で私は作曲者名もそれぞれの出身も知りませんでした。ただ国による様式のようなものが分かったと思っていたのですが、いざ選ばれた作曲家に関する情報をいただいてみると、なんとスペインの作曲家の方を除いて、すべて間違っていたことに気づかされました。これは今日の音楽がいかにインターナショナルであるかを示すものであると同時に、若い作曲家の方々が学びの時点でいかに旅をしているかということも示すものです。
私は音楽が文化圏をも越えることができることを再認識できてうれしく思いました。困難を抱える世界のなかにあって、私たち芸術家そして芸術愛好家は、自らの国際的なつながりを積極的に用いて、寛容・平等・平和といった信念と理想を声高らかに推し進める必要があります。私たちはこの惑星の資源を守り、分かち合う優しさを持たねばなりませんし、すべての人々が自由で人間としての尊厳を保たれる生活を得られるように行動しなくてはなりません。

ここで本選に残られた方々の作品について、短くその特徴について、本日のコンサートで演奏された順序でお話しさせていただきます。

■セバスチャン・ヒッリ(フィンランド):リーチングス
その形式上の設計とその具現化に驚かされました。音楽には方向性がありながら、驚きもまた存在し、幅広くさまざまな音楽的な特性のなかで、感情的にも満ち足りたものがございました。作品の最後の最後まで音楽がその鮮度を失うこともありませんでした。

■ファビア・サントコフスキー(スペイン):存在の絵
独創的で首尾一貫したオーケストラの世界を見出しています。この作品は綿密なプランに則ったものであり、忍耐と繊細な音のイマジネーションが繰り広げられました。きめ細かい霊的な細胞が、巧みに力強いオーケストラのトゥッティへと成長していったのです。

■イーイト・コラット(トルコ):[difeʁãs]
他に類を見ないような思い切った形式、そして音楽的コンセプトが印象的な作品でした。この作品は作曲家の意図を伝えるべく、詳細に記譜がなされていました。時間が細かに指示されていながら、小節で区切られた音楽というよりは、グラフィックな意思表示にも長けているものを感じました。

■トーマス・ヴァリー(オーストリア):ループ・ファンタジー
作品の初めに提示された楽想に基づく、執拗なまでの創意に富んだバリエーションの連続です。この作品には物理的なエネルギーが溢れ、作曲者のオーケストラ楽器に対する優れた、かつ実際的な知識が見てとれました。

私自身が自らこの4つの作品を選びました。ゆえに4つとも、そして4人の作曲者ともにたいへん才能豊かであることは間違いなく、しかし同時にその長所は異なるものでもあります。そしてたいへん賞賛に値する作品でした。これらの作品はすべてオーケストラ作品の未来を担うものと言っていいでしょう。
最後の最後までなかなか結論が出ませんでした。今年は4位および3位はございません。2位を分かち合うのは、ファビア・サントコスフキーさんとトーマス・ヴァリーさんです。1位を分かち合っていただくのは、セバスチャン・ヒッリさんとイーイト・コラットさんとなります。そして賞金総額は4人で均等に分けていただくこととなります。

通訳:久野理恵子 文責:東京オペラシティ文化財団

受賞者のプロフィール

第1位
セバスチャン・ヒッリ(フィンランド) Sebastian Hilli
リーチングス

1990年5月20日、ヘルシンキ生まれ。シベリウス音楽院で作曲をラウリ・キルピオ氏に師事し、卒業後交換留学生として1年間ウィーン国立音楽大学でミカエル・ジャレル氏に師事。現在、シベリウス音楽院の修士課程でヴェリ=マッティ・プーマラ氏に師事。作品はオスロ、ウィーン、ニューヨーク、コペンハーゲン、エスビア、ドレスデン、フライブルク、ヘルシンキなど様々な音楽祭で紹介され、アヴァンティ!室内管、ザグロス、キュリオス・チェンバー・アンサンブル、エスビア・アンサンブル、Cikada、アンサンブル・ミザン、アンサンブル・ルシェルシュなどの演奏団体によって演奏されている。
http://www.sebastianhilli.com/

【受賞の言葉】
皆様、本日は私にとってとても特別な日となりました。私が作曲を始めたその日から「武満徹作曲賞」は私の夢でした。この作品は私が初めて手がけたオーケストラ作品であり、たいへんな時間と多くの睡眠を私から奪いました。しかしながら、この作品を通して、私は私自身の音楽的な考え方や表現というものが率直にできた作品ではないかと思っています。そしてこのコンクール経験ももうすぐ終わろうとしていますが、《リーチングス》という言葉にあるように、東京での素晴らしい経験がある地点に到達しようとしています。そしてこのコンクールに参加させていただいたことは、たいへん光栄なことであり、関係の皆様に感謝申し上げます。まずは東京フィルハーモニー交響楽団、指揮の渡邊一正さんに、たいへん素晴らしい心を込めた演奏に御礼申し上げたいと思います。この作品は演奏者各自にたいへん多くのことを要求するものでありました。そのなかで皆様が一生懸命演奏してくださったことに御礼申し上げます。そして和田俊介理事長をはじめ、東京オペラシティ文化財団の皆様には、たいへんな心温まるおもてなし、そしてこのコンクールを実現していただいたことに感謝申し上げます。私はオーケストラ作品を作曲することを奨励するこの素晴らしい企画に対して、本当に心から改めて感謝を申し上げたく思っています。そして審査員のカイヤ・サーリアホさんに改めて御礼申し上げますと同時に、素晴らしいコメントをありがとうございました。彼女の言葉のひとつひとつが私にとって大きなインスピレーションを与えてくれるものでした。そして私の作品が《リーチングス》、何かに届くという題名であるように、今日何かに届いたような、そんな気がいたします。ありがとうございました。

第1位
イーイト・コラット(トルコ) Yiğit Kolat
[difeʁãs]

1984年1月9日、アンカラ生まれ。「誠実で洞察力を持ったアーティスト」(ピーター・シェパード=スケアヴェズ)と評される彼は、2012年第7回アンリ・デュティユー国際作曲コンクール(第2位)、2013年エリザベート王妃国際音楽コンクール(ファイナリスト)などで受賞及び入選している。作品はSolistes de L’Orchestre de Tours、Nieuw Ensemble、タレア・アンサンブル、シアトル交響楽団、トルコ国立大統領交響楽団、パスカル・ガロワ、ドナティエンヌ・ミシェル=ダンサック、ピーター・シェパード=スケアヴェズなどによって演奏されている。現在、ワシントン大学の博士課程でジョエル=フランソワ・デュラン氏に師事。
http://www.yigitkolat.com/

【受賞の言葉】
皆様こんばんは。まずはこのコンクールを実現してくださった皆様方に御礼申し上げたく思います。今回東京オペラシティ文化財団の和田理事長をはじめとする皆様、これほど素晴らしいホストはなかなか類を見るものではありません。そして、渡邊一正さんが指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の皆様によって私の音楽には生命が与えられました。そして彼らの献身的な音楽に対する真摯な態度にもたいへん感銘を受けました。彼らとともに仕事ができたことをたいへん光栄に存じます。そしてカイヤ・サーリアホさんに御礼申し上げます。私どもの作品を見ていただけたということは、本当に私にとっては光栄なことです。そして何にも代えがたい素晴らしいアドバイスをいただいただけではなく、リハーサルの最中にもいろいろな言葉をいただくことができました。そして今夜ここに集ってくださった皆様方にも御礼申し上げたく思います。皆様のご支援あってこそ、この非常にユニークで類を見ない「武満徹作曲賞」は存在しているのだと思います。この「武満徹作曲賞」は日々音楽と格闘している作曲家にとっても貴重な出会いの場にもなっています。そしてそれを互いに切磋琢磨し、技を競い合う。そして自らの音楽的な術を磨きながら、同時に他者との関わり、社会との関わり、そういったもの全てと切れることなく繋がりつつ保つことができる。現代音楽はややもすると聴衆から離れた、隔絶された人工的な作り込まれただけのものというような批判を受けることもあります。しかしそういったなかでの「武満徹作曲賞」というのは若い作曲家に素晴らしい場を与えてくれるものであります。どうもありがとうございました。

第2位
ファビア・サントコフスキー(スペイン) Fabià Santcovsky
存在の絵

1989年4月4日、バルセロナ生まれ。10代の頃、クラシックギターやエレキギターを通して音楽に接し、それらの楽器を用いて作曲も試みるようになった。バルセロナ自治大学で物理学を専攻後、2009年カタルーニャ高等音楽院に作曲専攻で入学し、ガブリエル・ブランチッチ、マウリシオ・ソテロ、マネル・ロデイロ、マルコ・ストロッパ、ラモン・ラスカノ各氏から指導を受ける。現在、ベルリン芸術大学の修士課程においてダニエル・オットー氏に師事。
https://soundcloud.com/fabia-santcovsky/

【受賞の言葉】
今宵皆様方、なんともうれしい言葉しか私の口からは出てこないと思います。このようにとても豊かな音楽芸術といったものが溢れると同時に、これが組織として、そして企画として実現できているこのコンクールは、私にとって貴重な宝物のような存在です。この「武満徹作曲賞」は非常にユニークであると同時に、世界的に認知されているものです。それだけにここに立つことができたのは非常に光栄なことです。音楽、そして芸術というのは、それを支える人達がいなくてはならないものです。しかしながらそういったものがなく、厳しい状況に晒されているのも、世界中で現実です。そして今日ここに東京オペラシティ文化財団のもと、非常にこのホールは素晴らしい、驚くべき文化というものが根付いた素晴らしい場となっていることを感じることができました。そして、この素晴らしい場に私自身が立つことができたこと、ここにいることに本当に幸せを感じています。ここに謹んでサーリアホさんに御礼を申し上げたいと思います。彼女が自らの時間を割いて、そして審査に力を傾けてくださったこと、そしてその責任を持って選んでくださったことに、若い作曲家の一人として改めて御礼を言いたいと思います。そして、東京オペラシティ文化財団の和田俊介理事長には、この非常に意味深いイベントを実現してくださったことに心から感謝申し上げたいと思います。そして指揮者の渡邊一正さん、東京フィルハーモニー交響楽団による素晴らしい音色の数々、彼らのプロフェッショナルであり、そして献身的な音楽に対する姿勢、そこには作曲家が意図したものがしっかりと聴こえてきたと感じました。そして今日この壇上にいる私の作曲家の仲間である3人にも、ともに音楽を分かち合い、ここに集えたことに改めて御礼を言いたく思います。最後にこの東京の聴衆の皆様、皆さんが音楽を聴いてくださるからこその音楽です。本当にありがとうございました。

第2位
トーマス・ヴァリー(オーストリア) Thomas Wally
ループ・ファンタジー

1981年7月26日、ウィーン生まれ。ウィーン国立音楽大学、ヘルシンキのシベリウス音楽院で作曲とヴァイオリンを学ぶ。2008年国際music+culture作曲コンクール(アメリカ)第3位、2009年ヘルムート・ゾーメン作曲コンクール(ウィーン国立音楽大学)優勝。2009年と2012年に作曲のためのオーストリア政府奨学金を得る。2010年オーストリア教育芸術文化省から優秀アーティスト賞を、2012年作曲の分野で「ウィーン市振興賞」を受賞。作品はヨーロッパ各地、テヘラン、香港、ブエノスアイレス、ニューヨークで演奏されている。2012年から、ウィーン国立音楽大学で和声・対位法を教えている。

【受賞の言葉】
皆様方こんばんは。そして今日、私の夢が叶った、それも、まさか叶うとは思はなかった夢が叶ったということをお伝えしたく思います。ある朝私は見知らぬ電話番号が表示された携帯の呼び鈴で目が覚めました。私はてっきり、私が買ってもいない掃除機の感想を聞くアンケートのような電話がまたかかってきたのではないかと思いました。そこでその電話を放っておいたのです、そうしたらまた後日同じ電話番号からかかってきました。そしてその時にも答えなかったので、メッセージが留守電に残されたのですけれども、その留守電のメッセージを聞いた途端に、なんてひどいことをしてしまったのだろうと反省しました。それは掃除機会社からのアンケートではなく、なんと本選に残ったというお知らせだったのです。これが私の夢が叶い始めた最初の一歩でございました。そして、私にとっての夢を叶えるコンクールを実現してくださった東京オペラシティ文化財団に心から御礼申し上げたいと思います。若い作曲家に発表の場を与えてくれる、この素晴らしい機会を与えてくれたコンクール、和田俊介理事長をはじめとする皆様に、改めて御礼申し上げます。そして審査員を務めてくださったカイヤ・サーリアホさんに、私共、そして私たち若い作曲家たちの音楽、スコアを信じて審査してくださったことに御礼を申し上げるとともに、この素晴らしいホール、素晴らしい組織のもとで演奏されたことに御礼申し上げたく思います。指揮者の渡邊一正さん率いるところの東京フィルハーモニー交響楽団のプロフェッショナルで素晴らしい演奏にもたいへん感謝しております。その才能豊かな音楽にも感謝いたします。そして私の夢が叶ったことに、皆様に御礼を申し上げるとともに、聴衆の皆様、皆様があってこそ夢が叶ったと思います。皆様に改めて御礼申し上げたいと思います。そしてこのスピーチを聞いてくださったこと、ありがとうございます。(ドイツ語で)「Vielen vielen tausend Dank(たくさんたくさんありがとう)」。



【オンエア情報】

本選演奏会のもようはNHK-FMで放送される予定です。

番組名:NHK-FM「現代の音楽」
2015年 6月21日[日]午前8:10 - 9:00/6月28日[日]午前8:10 - 9:00

*2回に分けて放送されます。 *放送日は変更になる場合があります。

NHKオンライン http://www.nhk.or.jp/
NHK-FM http://www.nhk.or.jp/fm/
番組ホームページ http://www4.nhk.or.jp/P446/
ニュース&トピックス「2015年度 ファイナリスト決定」(2014.12.19)
(譜面審査時のサーリアホのコメントなど)
本選演奏会を含む「コンポージアム2015」について
「武満徹作曲賞」トップページ 次回:2016年度武満徹作曲賞 審査員:一柳慧

お問い合わせ:東京オペラシティ文化財団 Tel.03-5353-0770

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