武満徹作曲賞

審査結果・受賞者の紹介

2013年度

審査員

© Hanya Chlala /
Arena PAL
ハリソン・バートウィスル(イギリス) Sir Harrison Birtwistle (United Kingdom)

本選演奏会

2013年5月26日[日] 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:工藤俊幸、東京フィルハーモニー交響楽団

受賞者

第1位

マルチン・スタンチク(ポーランド)
SIGHS ─ hommage à Fryderyk Chopin
(賞金100万円)

第2位

小林純生(日本)
The Lark in Snow
(賞金80万円)

第3位

ホワン・リュウ(中国)
Zwei Landschaftsbilder
(賞金60万円)

神山奈々(日本)
“CLOSE” to you to “OPEN”
(賞金60万円)

左より、神山奈々、小林純生、ハリソン・バートウィスル、
マルチン・スタンチク、ホワン・リュウの各氏
photo © 大窪道治

審査員:ハリソン・バートウィスル 講評

みなさん、まず最初にこの審査員という仕事について一言お話させてください。私が思い出せる限りで、これは最も難しい仕事のひとつです。それにはたくさんの理由がございます。絵画のコンクールの審査を務める場合は、その絵自体を見て審査することができます。それから最近イギリスでは食べ物がブームになっていて、その食べ物のコンテストの場合は、味わえばいいわけです。ところが音楽の場合、作曲の場合は、譜面を見るとそこには記号が書いてあるだけなんですね。音は全く聴こえないわけです。東京のレストランのショーウィンドーを見ているようなものなんですね、食べ物の素晴らしいミニチュアがありますけど、それは食べ物そのものではないわけです。全て教えてくれるのですけれども、味は教えてくれないわけですね。味を想像するしかないわけです。 それで、スコアから音を想像するのも、同じ難しさがあるわけです。

ところが私の場合、ある日、家のドアのところに大きな2つの段ボール箱が届いて、その中には100近くの非常に複雑なオーケストラ作品のスコアがあったわけです。客観性という名前の帽子を被って、私自身のもともとの好みを一旦脇において、主観的に見ないように努める必要がありました。私自身の考えというのをとにかく一旦排除しようと。それで全てのスコアをじっくりと見て、そのスコアの側が自分の方に入ってくる、そのチャンスを各スコアに与える必要があると、そのことをすごく意識しました。確かに私は人生の殆どを、譜面というものを見て一生過ごしてきたわけです。だからその場合も同じ問題になるということですけれども、それは自分の作った音の記号で、他の人のものを見るというのは全く違う経験です。したがって、完全に譜面だけから理解することはやはり無理でした。出来る限りそこに近づこうと努力したつもりです。各スコアを少なくとも必ず15分、非常に集中して見ようと、それを自分に課しました。ボックスで97個のスコアが届いたときから、全部を必ず1回見るまでにだいたい2ヶ月間かかりました。やはりいくつかのものは「これはちょっと無理だ」と早い決定をしたものも正直に言ってありました。それでもまだ40位の作品が残ったわけです。ところがそのあとが本当に大変だったのです。なぜなら、それらは違ったスコアに見えながらやはり非常によく似たものが多かったんですね。しかも非常によくできているんですね。 非常によくできていて、非常に似たものの中からどうやって選ぶのか、そこが難しかったです。

残った40位のスコアを2つの種類に分けたのですけれども、その2つというのがどういう性格のものであるかを申し上げたく思います。もちろんそれは黒白のはっきりしたものではないわけです。芸術においてはそんなにはっきり決められないことがある。しかしながら選ぶ立場からすると、何らかの秩序、オーダーが必要だったわけです。

1つ目のグループというのは、「ロスコ的な山」という風に呼びました。もちろんそれはマーク・ロスコの絵画であるとか、それらについて追求しているということではないですけれども、あくまで自分個人のわかりやすい名前としてロスコ的という言葉を使いました。もう1つのグループの方は、なかなかそういう1つの性格付けをするのが難しい。なぜかというと、もう1つのグループというのは、それぞれが何らかの意味で個性的な曲の集まりだからです。1つ目のグループについてですけれども、実は音が非常に密に書かれている、そして多層的になっている。マルチレイヤーになっている。その一方で曲がリネア(線的)な感じ、ラインで展開していく、進んでいく感じがない。また、メロディーをもとにして進んでいく感じがない。こういう感じの曲が非常に多くて、それが今の音楽の常套的な、クリシェ的なものになっているのか、それも私は実ははっきり判断できないということを正直に申し上げます。今日みなさまにお聴き頂いた1番最初の曲と1番最後の曲は、私の今のカテゴリーで言うと、ロスコ的な部分がある曲だと思いました。

ここからはあえて客観性という帽子を脱ごうと思います。それでやはり自分の主観を述べたいと思います。この舞台に私が選ばせて頂いた4作品というのは、客観性で絞った上で、最終的に主観で選ばざるを得なかった。そして残ったのがこの4作品です。何が主観かと言うと、やはり最終的なところでは、自分は(あるいは人は)、自分が聴きたい音楽を聴きたいのだと思います。これはやはり正直で、むしろ誠実なことなのではないかと。自分が聴きたいというのは、自分が作曲家である以上、自分もこんな曲が書けたらなあと思う気持ちが生じる曲だということです。4作品の全ての部分で自分もこういう風に書けたら…と思ったわけではないですが、少なくともそれら全ての曲の中には、自分がこう書けたらいいなと思う要素があったわけです。だからここに選ばせて頂きました。

ロスコ的ではない作品について先程申し上げませんでしたが、神山奈々さんの《"CLOSE" to you to "OPEN"》ホワン・リュウさんの《Zwei Landschaftsbilder》、これがより物語的な(文学の物語とは違いますが)、ある種の展開がある方向の音楽だと思います。特に《Zwei Landschaftsbilder》については、2つの絵画作品を見て、それでリネアな物語が生じるというのはちょっと矛盾したようなところがある気もするんですけれども、それにも関わらずやはり選びました。

まずホワン・リュウさんの作品からお話させて頂きます。まず作品を拝見したときに、「ヤング・ハンド」が感じられると(これは若者の手という意味ですね)、若いスピリットがそのままにじみ出ている楽譜であると思いました。曲のタイトルについて申し上げると、時にやはりタイトルをつけることが難しいなと思います。例えば絵画についてのタイトルをつけると、ムソルグスキーの《展覧会の絵》についても思うのですけれども、タイトルについての音楽という風に人が聴いてしまうのではないかと。ムソルグスキーの作品などは、タイトルがなくて、むしろ純粋に音楽として聴いた方が面白いのではないかと思うわけです。今日実際にホワン・リュウさんの作品を聴くことができ、そして実際に見ることもできました。これは大事なことです。この作品について批判する点も実はあります。しかし、非常に創意工夫に富んでいる。これは確かなことです。この作品は、エクスポジションの部分、提示部的なところが永遠に続いていくようなイメージを持ちました。その提示部からまた別の提示部が提示されるということが、常に驚きを感じさせるんですね。ところがそれはべつに、別の曲の寄せ集めではなくて、それらの部分がお互いに関連しているんですね。

次に神山さんの作品について申し上げたいです。この曲にも、スコアを読んだ段階から「ヤング・ハンド」を感じたんですね。それで今日聴いてみて、やはりその私の直感は正しかったと今は思っています。この《"CLOSE" to you to "OPEN"》は、曲の始まり方が《Zwei Landschaftsbilder》と当然異なります。もちろん特筆すべきことは、ソロ・ヴァイオリンとピアノの部分です。それが曲に、さらに曲の外側から別のパースペクティヴ(見方)を与えて、それが曲の中で、ある種の登場人物となり動いていくという展開があったと思います。この曲について非常によかった部分ですけれども、不協和的な、非常にクロマティック(半音階的)になりがちな音・音楽と、かなり単純なハーモニーでできていて協和的な部分、これを混ぜるというのは難しいことだと思うんですね、実は。ひとつの音楽作品の中で、それが非常によくできていると感じました。それからもうひとつは、オーケストラの色々な楽器の使い方の良さです。多少伝統的なイディオムの使い方があったかもしれませんが、それが非常に良い耳で選ばれ、書かれていて、しかも各楽器が徐々にディヴェロップしていく様子がひとつの旅になっていて非常に良かったと思います。この2つの作品には共通したひとつの欠点がやはりあると思うんですね。私は長い間音楽教育にも携わってきたのですけれど、そこで感じたことと同じなのです。それは何かと言うと、曲の一番最初にテンポ記号をつけるのですけれども、(ところが音楽というのはテンポを変えるという意味ではないのですけれど、)曲の中で微妙なニュアンスを伴って、速度が心とともに揺れるはずだし、そうあるべきだと思うのです。しかし、あの書き方だとどうしても指揮者が同じテンポで、機械的に振りがちになってしまう。メトロノームのようになるきらいがある。そうすると、ニュアンスに耳を傾けることが少し無くなってしまうんですね。そこが少し難しいところではないかと思いました。

たとえば《"CLOSE" to you to "OPEN"》について例を挙げて申し上げたいと思います。この曲にはおそらくユーモアとして成立する部分があったと思うのです。ところがまず第一印象として、元々のテンポが私の感覚からすると遅すぎるのではないかと。もう少し速いテンポ設定でも良かったのではないかと元々感じていたのですけれども、実際に聴いてみて、やはりユーモアになるべきところに何かの指示をスコアの中に指揮者に対してもう少しつけておいてもよかったのではないかと。そうすれば指揮者がそれを感じ取って、テンポを揺らすなり、あるいは何かのサインを受け取ったのではないかと思うんですね。

残りの2曲について申し上げましょう。これらを先ほど「ロスコ的な」と申し上げましたけれど、別の言い方をするとフリーズしたような曲という風に(私のなかではそういう言葉を使っているんですけれども)、たとえば今日の他のもう2つの曲に比べるとスタティックな部分がやはりあると思うんですね。これは、これらの曲が動かないという意味ではないです。ただし、円環状になっている、循環的になっていると感じるわけです。循環するときにホイール(車輪)が動いていくというようなイメージを使いたいのですけれども、車輪が回転する速度と、音楽、あるいは車の行く距離とが違うんですね。車輪が速く回転していても、実は音楽はゆっくりであったりする。そういう点でフリーズだと申し上げます。いま特にその車輪のことを感じたのは、一番最後に演奏されたスタンチクさんの《SIGHS ─ hommage à Fryderyk Chopin》についてですけれども、その前に小林さんの《The Lark in Snow》について申し上げます。

小林さんの曲とスタンチクさんの曲には共通するミニマルな点があると思うんですね。そのミニマリズムというのは伝統の中から取れるものを取って来て、それをミニマルに調理するわけですけれども、ここで気をつけたいことがあります。それは伝統の中から取って来たときに何かそこに加えないと味が悪くなる。ミルクからクリームを作るという例で説明しますけれども、ミルクからクリームを取ってしまうと味が悪くなっている。だから何か加えなければいけない。小林さんの作品、これは車輪がよりゆっくりと回転している音楽です。途中からやや速くなって、もう少し多くの距離を稼ぐようになりますけれども。車輪が速くなっていくし、少し地面をより多く捉えていくのですけれども、スタンチクさんの作品は、車輪が速い割にはわざとゆっくり進んでいくところがある。それともう一つ気づく点なのですが、ある意味で非常に名技性を要求されるところがある曲です。各楽器を使っていくうちに音型が徐々にある種のディヴェロップになっていくのですが、それが私の言葉では「マイクロ・モーメント」という感じがして、それらの楽器のさまざまな技法がお互いに上積みされていく。しかし全体としてはスタティックであると、こういう特質があると思います。ただし、こういう風に山のように色々なものを重ねていくときの注意点があります。それは聴き手がどうしても一つのものしか聴こえなくなる恐れがある。たとえば作曲家であっても、歌を聴く時に、4声で歌っているのか、5声で歌っているのか、なかなか聴き分けられないはずです。もちろん、だからこういう風に書くなというわけではありません。ひとつのもの(oneness)に収斂されてしまうことがあるということです。その上で、非常に名技性がある曲で、それは音楽の意識の点での(awarenessの点での)名技性があると感じました。

そして小林さんの曲ですけれども、こちらはスタンチクさんの曲のそういう点とは逆で、詩的な極端主義というものを感じました。それは色々ある音の素材を極端に切り詰める。それで美しく聴かせる技法が使われたと。特にフルートです。弦楽以外のものが全て消えてフルートがさまざまな異なった声を出す、これが良かったと思います。そして逆にこの曲のテンポは、私には少し速すぎるテンポで演奏されたのではないかと感じました。これ以上申し上げることはありません。

残念ながら私は自分の判断を言わなければなりません。先ほど最初にお話しした2つの作品《"CLOSE" to you to "OPEN"》《Zwei Landschaftsbilder》に対して、それぞれ3位という賞をお与えしたいと思います。《The Lark in Snow》に対しては2位をお渡ししたいと思います。《SIGHS ─ hommage à Fryderyk Chopin》を1位だと考えたいと思います。ありがとうございました。

通訳:後藤國彦(作曲家)

受賞者のプロフィール

第1位
マルチン・スタンチク(ポーランド) Marcin Stańczyk
SIGHS ─ hommage à Fryderyk Chopin

1977年11月16日、ポーランドのウェンチツァ生まれ。ウッチ大学法学部を卒業後、ウッチ音楽院でジークムント・クラウゼに、聖チェチーリア音楽院で イヴァン・フェデーレに師事。その後、IRCAMのCURSUS1で更に学んだ。また、ダルムシュタット国際音楽研究所、リーディング・パネル・IRCAM、ロワイヨモン財団、ジャーウッド財団、ラウレンスカントリイ財団、ヴィトルト・ルトスワフスキ財団などの様々な団体から、賞や奨学金を受けた。現在、ポーランド政府、シンフォニア・ヴァルソヴィア、ワルシャワ国立歌劇場から2013/2014シーズンの作品を委嘱されている。
http://marcinstanczyk.com/

受賞者の言葉
最初にこの武満徹作曲賞にお呼び頂いたことに感謝いたします。これは本当に作曲をする者にとって何とも言えない素晴らしい機会です。私がこういうことに参加できること自体がうれしいのです。何人かの方々にお名前をお読みしてお礼を申し上げたいと思います。まず、東京オペラシティ文化財団の田口理事長、ほか職員の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。そしてもちろんサー・ハリソン・バートウィスル氏、私たちの曲を読んでくださり、聴いてくださり、コメントしてくださったことに感謝いたします。実は4年前にバートウィスル先生にお会いしたことがあります。それはイギリスで開かれた、オペラを書くための講座でした。ただしバートウィスル先生はたった1日の、それも午後だけいらして、そして15個の短いエチュードを聴いてコメントおっしゃるというそれだけでした。バートウィスル先生のご助言というのは、あまり複雑すぎる音楽はやめてくれということでした。それで私は今回、バートウィスル先生が審査員だということで、武満徹作曲賞に参加するかどうか少し躊躇ったのですが・・・。ただ、私はもう35歳で年齢制限ぎりぎりだったのです。実はバートウィスル先生はもう一言アドバイスをおっしゃっていたんですね。それはcomplicatedとcomplexの違い(両方とも複雑なという意味)を意識しなさいと。この2つの違いを意識するということは、私にとって、作曲をする者にとって、最も大事なアドバイスのひとつだったと思っています。そして東京フィルの方々、そして指揮者の工藤さんに本当に感謝したいと思います。私の楽譜は少し込み入っていたものだったのですが、しかしそれを丁寧にリハーサルし、演奏してくださって、一番良い姿でこの舞台で表現してくださったことに感謝いたします。そしてこのオーケストラの方々は、最初のリハーサルの時から私が何を説明するか耳を傾けてくださって、本当に熱意をもってそのように演奏しようとしてくださったのです。最後になりますけれど、それは決して一番小さなということではないですが、今日ここに集まってくださった方々、そういう方々のために作曲者は音楽を書いています。そして現代の音楽がこうして生きている、生きていられるということは、聴いてくださる方々のおかげなので深く感謝を申し上げます。そして最後は個人的なことですが、私は初めて日本という国に参りました。人々はたいへん親切で、いろいろな意味で私にとって忘れることのできない素晴らしい経験になりました。みなさまに本当に感謝申し上げます。ありがとうございました。
第2位
小林純生(日本) Sumio Kobayashi
The Lark in Snow

1982年12月29日、三重県生まれ。1985年から音楽教育、特にピアノと作曲を中心としたレッスンを受ける。作曲を湯浅譲二と伊藤弘之に師事。日本 音楽コンクール、ICOMS国際作曲コンクール、国際尹伊桑作曲賞、国際作曲コンクールSYNTHERMIAなどのコンクールで入賞、入選。武生国際音楽祭をはじめとする国際音楽祭にも招待されている。作品はピアノソロから大編成のオーケストラなど多岐にわたる。

受賞者の言葉
まず指揮者の工藤さんと演奏家の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。僕の曲は聴いた感じは聴きやすいという印象があるかもしれないのですが、演奏が非常に難しくて、演奏家の方々にかなりの負担をかけている曲です。ですが、演奏家の皆さんの熱心な取り組みによって、僕が求めていた音楽というのが実現しました。
この曲は元々弦楽オーケストラのために書き始めたもので、それは武満徹の代表曲でもある《弦楽のためのレクイエム》にあやかりたいという気持ちで書き始めたものです。ちょうどこの曲を書き始めたのが20代後半という年齢で、武満徹が《弦楽のためのレクイエム》を書いていた年齢とほぼ同じでした。それで将来作曲家としてやっていけるのか不安もあったのですが、こうやって僕が一番望んでいた武満徹作曲賞の場で演奏して頂けて嬉しいです。最後に今日はわざわざ聴いて頂きありがとうございました。
第3位
ホワン・リュウ(中国) Huan Liu
Zwei Landschaftsbilder

1983年3月11日、中国の唐山市生まれ。1999年より作曲専攻で天津音楽院の付属学校に入学。2002年〜2007年、北京の中央音楽学院(学士課程)でウェンチェン・チンに師事。 2008年にベルリン芸術大学(ディプロマ課程/修士課程)に入学しヴァルター・ツィンマーマンに師事、2010年から現在は、マイスターシューラーの学位を得て、ツィンマーマンに師事し続けている。作品は、室内楽、オーケストラ作品、映画音楽、子どものための音楽と多岐にわたり、それらは中国、オランダ、ドイツ、エジプトで演奏され、受賞もしている。

受賞者の言葉
まず感謝の言葉を述べたいと思います。バートウィスルさん、指揮者の工藤さん、東京フィルハーモニー交響楽団の方々、東京オペラシティ文化財団の方々、そして今日聴いてくださっている方々に感謝申し上げます。この武満徹作曲賞について初めて話を伺った時、こういう場に来られるということができる、夢がかなうことだなと思いました。このような所に招かれる形で来ることができ、豊かな経験をさせて頂いたことを本当に感謝します。
私は初めて日本に来ました。中国人として一言申し上げたいと思います。このような賞の場、私がこの場に立たせて頂いていること、これが世界に対して示される素晴らしい例の一つだと思います。音楽と言うのはやはり国境が無いのだと。いろいろな他の事に制限されるものではないのだと。政治的なものであるとか、色々なものがあると思いますが、偏見無しに聴いて頂けるのだと、そんな風に感じました。私にとっては音楽というのは一つの島です。それはハーモニー、調和のある島でそこにいる人々が皆仲間なのです。ありがとうございました。東京で素晴らしい時を過ごすことができました。
第3位
神山奈々(日本) Nana Kamiyama
“CLOSE” to you to “OPEN”

1986年1月16日、群馬県前橋市生まれ。東京音楽大学付属高等学校を経て、同大学作曲指揮専攻(作曲 芸術音楽コース)を卒業。2010年、同大学大学院修士課程を修了。第79回日本音楽コンクール作曲部門第3位(2010)。近年は、音楽における認知心理学について興味を持ち、作品の中で実践することを試みている。また、邦楽器のための作品にも積極的に取り組み、自身も鶴田流薩摩琵琶、長唄三味線の演奏、語りを学んでいる。近年の作品には《6つのヴィオラのためのAtrE》(2008)、《“tOkyO” in the bOx》(2010)などがある。これまでに作曲を有馬礼子、西村朗、細川俊夫の各氏に師事。

受賞者の言葉
私が作曲家になりたいと思い、勉強し始めてから15年が経ちました。東京で学び続けることを私は選んだのですが、その結果、いわゆる現代音楽というすごくアカデミックな音楽を書くことができるようにはなれなかったのですが(勉強の仕方も悪かったのだと思いますが)、この場所で心から尊敬できる先生方や、友達に出会い、さまざまな音楽から刺激を受けて今日も真剣な気持ちで音楽と向き合うということができています。私はこういう状況に心から感謝していますし、誇れるものだと思っています。もし音楽の神様がいたとしたら、私に与えてくれたものというのは、音楽を好きで居続けられる環境だと思います。なので、私は一人でも多くの、近くにいる人にとにかく本当に面白いと思って頂けるものを書ける作曲家になりたいと思っています。「なんだか訳が判らないけれどもっと聴いてみたい」と思って頂ける、それが大事かなと今は考えています。その結果、私がこれから書いていくものは自分が憧れていたものとかけ離れてしまうかもしれません。でも、もはやそれでもいいと思う覚悟ができています。ですから信念を貫き通してやっていきたいと思いますし、もちろんまだまだ勉強を頑張りたいと思います。最後になりましたが、日本の現代音楽を取り巻く難しい現状のなか、このような機会を作って下さった東京オペラシティ文化財団の方々に、私達作曲家は感謝します。それから私の曲を選んだ下さったバートウィスル先生、ありがとうございます。また新しい曲に真摯に取り組んでくださった演奏家の方々、興味をもってこの場に足を運んでくださった客席の皆様に心から感謝申し上げると共に、この気持ちを音楽でお返しできるように学び続けていきたいと思います。本当にありがとうございます。
ON AIR

本選演奏会の模様はNHK-FMで放送される予定です。

番組名:NHK-FM「現代の音楽」
2013年6月22日[土]午前6:00 - 6:55/6月29日[土]午前6:00 - 6:55
(2回にわけての放送)
*放送日は変更になる場合があります。
NHKオンライン http://www.nhk.or.jp/
NHK-FM https://www.nhk.or.jp/fm/
番組ホームページ https://www4.nhk.or.jp/P446/

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