プロジェクトN

project N 86
諏訪未知 SUWA Michi

2022.4.16[土]─ 6.22[水]

《ハミング》
《ハミング》
油彩, キャンバス
65.2 × 65.2 cm
2022
身体感覚からの表現 ── 諏訪未知の絵画

諏訪未知の絵画は、そのほとんどが正方形のキャンバスに描かれている。ピンクやオレンジなどももちいられるが、概して色彩は抑制された滋味のあるものが多い。ことさら具体的なモティーフを明示するイメージはなく、単色(モノクローム)の矩形のなかに幾何学風の形象(イメージ)が配置されている。なかには、画面を4つに分割した作品や、左右(あるいは天地)が対称に描かれた作品もある。万華鏡を覗き込んだかのような画面では、イメージは重力から解放され、その結果、作品は、どの向きで展示してもよさそうな錯覚を与える。
幾何学風の形象といっても、純然たる幾何学形態ではない。直線にしても曲線にしても、あるいは矩形にしても円にしても、決して無機的なものではなく、随所に手描きのたどたどしさを露呈している。そのためか、諏訪の画面はみな、穏やかな筆致や暖色系の彩色とも相俟って、しっとりとした不思議な温もりのようなものを漂わせている。

正方形のキャンバスは、真四角な窓を連想させる。よく知られているように、イタリア・ルネサンス期の建築家で人文学者のアルベルティは、その『絵画論』(1435年)のなかで、絵画を「壁に開いた窓」になぞらえた。「窓」の向こう側には、風景画であれば、こちら側の室内からみえる外界の景色が広がり、宗教画や歴史画であれば、日常の現実とは異なる非日常の神話の世界が出現することになる。
もっとも、不思議な温もりのある諏訪の正方形の画面は、窓よりも、むしろハンカチやスカーフを想起させるかも知れない。陰影も遠近感もない画面は、平坦(フラット)なまま、奥行きを頑なに拒んでいるようにみえる。おそらくそれは、濃淡やコントラストをはじめ、色面の大きさや形状など、綿密に計算された賦彩の効果によるものに違いない。こうして諏訪の作品では、すべてのイメージが等価に描かれ、地と図、背景と対象の関係がきわめて曖昧に表現されている。

《影》

《影》
油彩, キャンバス
65.2 × 65.2 cm
2022

たとえば、《影》と題された作品のきっかけは、「周囲に盛土をする事と穴が空く事は同義か」という興味だったという。画面中央のストライプの斜線が入った青色の部分が「穴」、それを取り巻く褐色の部分が「盛土」にあたるのだろう。とはいえ、作品をみるかぎり、この青い部分(穴)と褐色の部分(盛土)は、どちらが地でどちらが図なのか、前後(遠近)すら判然としない。
2020年に諏訪は、KAYOKOYUKIで「3つの世界」という個展を開催している。これは、ユニークなだまし絵(トリック・アート)で知られるM.C.エッシャーの代表作のタイトルからとられたもので、水の中と外の2つの世界に、その境界の水面がつくり出すもう一つの世界を加えて名づけたものだ。『絵画論』のなかでアルベルティはギリシア神話のナルキッソスの物語に言及するが、影といい、水面といい、いずれも絵画の起源にまつわるテーマであるのは興味深い。

諏訪の制作は、自分の足元を見下ろす視点から始まると言われる。もっとも、これはいささか誤解を招く表現で、実際に足元にモティーフを置いて制作するという意味ではない。諏訪によれば、「ふとした瞬間に当たり前だと思っていた事に小さな亀裂が入る時の、足元に穴が空くような感覚」を意識して制作することだという。誰もが知っている地球の自転という事実と、夜空を見上げたときに星が動いていると感じる身体感覚とのズレ。知識と知覚、科学的知識と知覚的知識、合理的思考と感覚的判断の間に生じる、裂け目のような混沌とした領域が、諏訪の作品制作にとって重要な契機になっている。
アルキメデスの原理やニュートンの万有引力の法則を引き合いに出すまでもなく、日常の何気ない出来事からの気づきや洞察が、科学の進歩や発展に寄与してきた例は枚挙にいとまがない。その一方で、膨大な情報が日々押し寄せる多忙な現代人の感受性は、知らず知らずのうちに麻痺し、退化しているのかも知れない。諏訪が日常のささやかな疑問から紡ぎ出すさまざまな形象はさながら、かけがえのない真実を懸命に見つけ出そうとする、文字どおり手探りの探求のように思われてならない。

ギャラリー展示風景1 ギャラリー展示風景2
ギャラリー展示風景3 ギャラリー展示風景4
展示風景

諏訪未知
1980 神奈川県生まれ
2003 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業
2005 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻油画研究領域修了
神奈川県在住
   
主な個展
2006 「四辺形のモチーフ」, ギャラリー21+葉, 東京
2008 「新世代への視点2008」, ギャラリー21+葉, 東京
2011 「Michi SUWA exhibition」, A-things, 東京
2015 「ドローイング/interior」, A-things, 東京
2016 「interior」, gallery21yo-j, 東京
2019 「island」, gallery21yo-j, 東京
2020 「凧の回転, 水の落下」, アズマテイプロジェクト, 神奈川
「3つの世界」, KAYOKOYUKI, 東京
2021 「Michi SUWA exhibition」, ガレリア フィナルテ, 愛知
「Solid Objects」 , gallery21yo-j, 東京
   
主なグループ展
2007 「インターナショナルワークショップ」, レミゼン・ブランデ, デンマーク
2012 「行為の触覚 反復の思考」, 上野の森美術館, 東京
2016 「仮設と星屑」, A-things, 東京
2018 「絵画の現在」, 府中市美術館, 東京
「TAMAVIVANT II 2018 Dissémination-散種」, 多摩美術大学アートテーク・ギャラリー, 東京
2020 「VOCA展2020 現代美術の展望-新しい平面の作家たち-」, 上野の森美術館, 東京
「VIVIDOR-人生を謳歌する人-」, アズマテイプロジェクト, 神奈川
   


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2022.4.16[土] ─ 6.22[水]

開館時間:11:00 ─ 19:00(入場は18:30まで)

休館日:月曜日(ただし5月2日は開館)
入場料:企画展「篠田桃紅展」の入場料に含まれます。

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

開館日時

  • 2022年5月27日[金]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2022年5月28日[土]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2022年5月29日[日]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2022年5月30日[月]
    本日は休館日です
  • 2022年5月31日[火]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2022年6月1日[水]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2022年6月2日[木]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00

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