COMPOSIUM 2008 featuring Steve Reich コンポージアム2008/スティーヴ・ライヒを迎えて
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スティーブ・ライヒ インタビュー
取材:東京オペラシティ文化財団
2008年2月18日 電話にて

 

■5月21日と22日のコンサートのプログラムについて、また各作品についてコメントをお願いします。

ライヒ: 新しい作品とよく知られている作品を組み合わせた、たいへんすばらしいプログラムになったと思います。

2006年作曲の《ダニエル・ヴァリエーションズ》は、声楽とアンサンブルのための作品で、聖書の「ダニエル書」と、アメリカのジャーナリストで2002年にパキスタンで殺害されたダニエル・パールの言葉をテキストにしています。ヴァイオリニストでもあった彼は、世界各地で出会った音楽家とジャズやブルーグラスのセッションを楽しんでいました。この作品に特徴的なストリングスのパートに、彼への追悼の思いを込めています。

《18人の音楽家のための音楽》は、すでに東京で演奏されていますが、「もう一度聴きたい」と思っていただける作品と思います。1978年にこの録音がリリースされると、クラシックの音楽家からデヴィッド・ボウイ、ブライアン・イーノに至るまで、さまざまな人たちの反響を呼びました。グラミー賞を受けたこのディスクは、現在までに20万枚以上のセールスを記録しています。

《プロヴァーブ》は、中世・ルネサンス音楽及び現代作品のスペシャリストとして有名なポール・ヒリアーのリクエストで1995年に作曲しました。ソプラノ3、テノール2、ヴィブラフォン2、そしてバロックオルガンのサンプル音をインプットされたサンプリング・キーボード2という編成です。テキストは、私がコーネル大学で勉強したルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインの短い一編、「人間の一生をみたしているものは、なんとちっぽけな考えなんだろう」で、これは私にとって完璧なテキストです。これらの言葉に肉体を与えたのが《プロヴァーブ》と言えます。15分ほどの長さのこの作品はまた、12世紀ノートルダム楽派の音楽家ペロタン ── 彼は西洋で最初に4声の音楽を書き、個々の音が長く引き伸ばされた、まるでスローモーションの映画のような、際立って特徴的な音楽を生み出しました ── へのオマージュでもあります。

《ドラミング》パート1は、1971年の作品で世界中で演奏されていますが、私自身、以前にもアンサンブル・モデルンと一緒に演奏したことがあり、とてもうまくいきました。今回も楽しみにしていてください。

■今回出演するアンサンブル・モデルン、シナジー・ヴォーカルズ、ブラッド・ラブマンは、いずれもあなたの作品の優れた解釈者として知られています。少し詳しくご紹介いただけますか。

ライヒ: 21年ほど前、私はオーケストラのために書くことをやめました。私には第1ヴァイオリン18、第2ヴァイオリン16などといった編成は必要ないからです。ヴァイオリンなら1人から3人で充分で、それ以上の人数はサウンドを厚ぼったくしてしまいます。
また、私の音楽がバロックや中世の対位法による音楽に通じるものがあり、声部をよく聞かせるために、小さい編成が大切だと気づいたことも重要なポイントです。ヨーロッパには小編成の優れたアンサンブルが多くありますが、なかでも私自身もっとも共演機会が多く、個々の奏者を尊敬し、また友人のように近しく感じているのがアンサンブル・モデルンです。

シナジー・ヴォーカルズは、合唱、声楽の伝統をもつイギリスから生まれたすばらしいグループです。彼らは絶妙なピッチ、リズム感をもち、ヴィヴラートを用いず、マイクを使いながらきわめて自然に歌うことができる優れた音楽家たちです。リーダーのミカエラ・ハスラムは、さまざまな作曲家の音楽に合わせて、さまざまな歌手たちを組み合わせています。私の師であるルチアーノ・ベリオも彼らとよく仕事をしていました。そういえば彼らは、最近もニューヨーク・フィルと一緒にベリオの《シンフォニア》を演奏していました。

ブラッド・ラブマンは、若手のアメリカ人指揮者のなかでもっとも優秀な一人です。彼自身作曲家であることもあって、新しい音楽をよく知っていますし、どのようなスタイルの音楽にも対応できる能力があります。私の作品はもちろん、私とはまったくタイプの違うラッヘンマンの作品を指揮して、信じられないほどすばらしいコンサートをモデルンと成し遂げ、みなを驚嘆させました。

■「コンポージアム2008」と武満徹作曲賞の審査について、抱負をお聞かせください。

ライヒ: なにしろ私自身、ずいぶん長い間日本で演奏していませんから、アンサンブル・モデルンとのコンサートをとても楽しみにしています。日本ではたくさんの方が私のCDを買ってくれていて、私の音楽に興味を持ってサポートしてきてくださっているのを知っていますし、彼らが楽しんでくれているかどうか反応を直接感じることができるので、自然とまた日本に行きたいという気持ちになります。

そして、私自身初めてとなる作曲コンクールの審査です! これまで私が作曲の審査を引き受けたことがなかったのは、興味をそそられなかったからです。今回、「オーケストラ作品ではなく、エレクトロニクスを含むアンサンブルのための新しいタイプの作曲コンテストをしたい」という私の要望が受け入れられたことで、初めて心が動かされました。このような応募条件を設けたことで、今回の本選演奏会で発表される作品は、これまで聴いたことのない音楽、そしておそらく、いま我々が生きている時代をより正確に反映する音楽となると思います。コンポージアム2008を締めくくるこの演奏会で、きわめて多様な音楽が共存するいまの世界を、見事に映し出すコンポジションを聴いていただけると思っています。

 

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