コンポージアム2007
インタビュー

[インタビュー2]
アーヴィン・アルディッティ インタビュー

© Philippe Gontier

西村朗 弦楽四重奏曲全4曲に挑む
アルディッティ弦楽四重奏団
アーヴィン・アルディッティにきく

今回のコンポージアムでは、西村朗氏の弦楽四重奏曲全4曲が一晩で演奏されます(5月21日公演)。この作曲者、演奏者にとっても初の試みを前に、アルディッティ弦楽四重奏団のリーダー、アーヴィン・アルディッティ氏にメール・インタビューで抱負をうかがいました。





西村さんとはどのくらいのおつきあいになりますか? 何かおもしろいエピソードがあればお願いします。

西村さんに初めて会ったのは、1990年3月にカザルスホールで《ヘテロフォニー》を弾いた時でした。あの曲自体はすでに半年前に香港で弾いていましたけどね。

冗談を言い合うような仲になったのがいつからかは思い出せませんが、たぶん最初の出会いの時からだと思います。私たちはお互いの恰幅のよい体型についてよく冗談を言い合っていました。彼が「僕は“でぶ”だから君たちカルテットのメンバーと一緒にはタクシーに乗れないね」などと言ってね。腹立たしいことに、ここ数年で彼はかなり体重を落とし、スリムになりました。彼は奥さんのためにやせたなどと言うのですよ。私の妻は…、待たされていますね…。

あなたにとって西村作品の特徴、面白さ、演奏面での醍醐味は何ですか?

西村さんの弦楽四重奏曲は、演奏者の技術と理解力への挑戦です。時々現れる非常にシンプルなメロディをいかに演奏するか。そしてそれらをいかに、より打楽器的な身振りで咀嚼していくか。彼のメロディは、西洋ロマンティック様式ではなく、東洋の伝統音楽の知識を持ってなければ演奏できません。

何年も前、ある中国の作曲家とリハーサルした時、彼はまったく自分の要求を私たちに伝えることができないでいました。すると、彼はいらいらした面持ちで、『君たちは世界最高の現代音楽カルテットかもしれないが、中国の音楽の演奏方法をわかっていない』と言い放ったのです。これはアルディッティ弦楽四重奏団の力を最大限に引き出す方法ではありません。西村さんは違います。彼は、その物静かな態度で、彼が望むことを私たちに正確に伝えるすべを知っているのです。あとは私たちがやるだけです。

初めて西村氏の弦楽四重奏曲第1番《ヘテロフォニー》を演奏された時の印象は?  また第2番、第3番それぞれについての感想もお聞かせください。

西村朗とアルディッティ弦楽四重奏団のメンバー

《ヘテロフォニー》は、彼の人と音楽を知る素晴らしいきっかけになりました。私は、それまで武満徹さんと細川俊夫さんの作品を知っていましたが、たちまち西村さんの曲に魅了され、日本の新しい知性を体験するとてもよい機会となりました。

アルディッティ弦楽四重奏団は、さまざまな幅広いスタイルの音楽を演奏することを目標にしてきましたが、西村さんの曲は私たちの欲求に完全にかなうものでした。当時私たちはヨーロッパの前衛音楽の中で非常に窮屈な思いをしていました。そこに現れた西村さんの音楽の強いアピール力は、まさに未知との遭遇だったのです。

私は彼の音楽はどんな聴衆の心もつかむことができると確信しています。現代音楽や音楽史の知識など必要ありません。それは20世紀音楽史の重要性を否定するという意味ではなく、西村さんは今日の音楽界で確固たる位置を占めているということを述べたいのです。

《光の波》(第2番)は、とてつもない超絶技巧作品で、世界中の聴衆を唖然呆然とさせる曲です。この曲がわれわれのために書かれることになったとき、私が「弾くのが難しい曲を書いてくれ」とリクエストしたためでしょう。これは彼をおもしろがらせるための冗談でもあったのですが、同時に、彼を《ヘテロフォニー》より技術的にチャレンジングな曲を書くよう仕向けたことは確かです。

《エイヴィアン》(第3番)は、どちらかというと熟思的な曲です。《光の波》の後、まだ別の曲が現れるとは!

新作を含め西村作品4曲を1度に演奏するという今回の企画は、ASQにとっても初めてのことだと思いますが、どのような期待をお持ちですか?

私は作曲家が何を考えているかを知ることが好きです。そのためには、あらゆる角度からその作曲家の音楽の輪郭をつかむことが最良の方法なのです。私はいろいろな作曲家たちと何度もそのような作業を行なってきました。しかし、西村朗という刺激的な知性とはこれが初めてになります。新作はきっと「もう一つ別の」キャラクターとなるに違いありませんし、その初演をお聴きいただくのはこの上ない魅力です。今度のコンサートは、西村さんにとっても、私たちにとっても、間違いなく喜ばしいものになるでしょう。

例えば東海道線が横浜、名古屋、大阪を経て走る、というような進み方ではないことは確かですね。振り子の振りがだんだん大きくなって、横だけでなくいろいろな方向に振れてきている感じがします。「マントラ」とはチベット仏教やヒンズー教でいう「聖なる祈りの言葉」です。自分の内にあるマントラを、オーケストラの響きと旋律で表現したいと思いました。3月にドイツのロイトリンゲンで世界初演される予定で、コンポージアムで日本初演されます。

東京オペラシティArts友の会会報「tree Vol.61」より