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2022年度 武満徹作曲賞 受賞者決定(審査員:ブライアン・ファーニホウ)

Update:2022.05.29

2022年度「武満徹作曲賞」は、2022年5月29日[日]東京オペラシティコンサートホールにて本選演奏会が行われ、受賞者が下記の通り決定しました。

ファーニホウ氏は当初会場で本選演奏を聴き、最終審査を行う予定でしたが、「新型コロナウイルスの感染状況が続く中、自身の健康面や年齢的な問題に伴う重症化リスクの高さや長時間に及ぶフライトの負担を懸念し、在住するアメリカからリモートで本選審査を行いたい」という本人の申し出により来日を断念し、アメリカ・スタンフォード大学にて高音質・高画質の通信を用いて本選演奏を聴き、審査いたしました。 また審査結果は公演当日の演奏終了後、ファーニホウ氏がリモート上で発表いたしました。

ブライアン・ファーニホウ

【審査員】
ブライアン・ファーニホウ(イギリス)
Brian Ferneyhough (United Kingdom)

[本選演奏会]
2022年5月29日[日] 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:篠﨑靖男、東京フィルハーモニー交響楽団

【受賞者】

  • 第1位
    室元拓人(日本)
    ケベス ─ 火群の環
    (賞金140万円)
  • 第2位
    アンドレア・マッテヴィ(イタリア)
    円の始まりと終わりの共通性
    (賞金100万円)
  • 第3位
    オマール・エルナンデス・ラソ(メキシコ)
    彼方からの冷たい痛み
    (賞金30万円)
  • 第3位
    メフメット・オズカン(トルコ/ブルガリア)
    管弦楽のための間奏曲《無秩序な哀歌》
    (賞金30万円)
2022年度 武満徹作曲賞授賞式

左より、アンドレア・マッテヴィ、メフメット・オズカン、ブライアン・ファーニホウ、室元拓人、オマール・エルナンデス・ラソの各氏
photo © 大窪道治



審査員:ブライアン・ファーニホウ 講評

皆さん、こんばんは。2022年度武満徹作曲賞審査員を務めておりますブライアン・ファーニホウです。79の作品と向き合い、時には全く異なる美的な資質とオーケストラという複雑で豊かなメディアへのアプローチに触れることは、光栄であると同時に、少なからぬ挑戦でした。

長大なオーケストラ作品の作曲は、それが要求する努力と計画の量からして、好きでなければ到底できないような愛の労働です。その作品を宿してから生まれるまでにかかる長い懐胎の時間は、形式と連続性を保証する方法を始めとして、作曲者が採用する創造的な戦略のうちにいくつかの形で自ずと反映されます。

数々の応募作品の選考を通して考えたのは、既に実証済みのオーケストラのテクニックやテクスチャーを重視するあまりに、冒険性が疎かになっていることがままあるのではないかということでした。実際にこれらの作品の多くは、そういう意味で極めて確実で慣用的ではあるのですが、その代償として個性が弱くなっているようにも見受けられました。

とはいえ、言うまでもなく、一人の人間が客観的な評価を下すということなどできるわけがありません。私はそれぞれの作品の意図と思われるものと、それが最終的な作品にどの程度反映されているのか、という点のバランスを取ることに全力を尽くしました。

この度は新型コロナウイルス感染症の関係で、この素晴らしいイベントに参加できず大変申し訳なく思っています。並外れた組織力と揺るぎない忍耐力を終始発揮して下さった主催者の東京オペラシティ文化財団に心から御礼を申し上げます。感謝してもしきれない程にお世話になりました。また素晴らしい音楽家たち、そしてもちろん指揮者、そして何よりも作曲家たち自身に心から感謝します。もし自分次第で決めても良いのであれば、一回のコンサートではなくて、少なくとも三回はコンサートを開催したいと思います。それだけ私は歳のいった作曲家として、若い才能との出会いに大きな価値を感じているということです。このコンクールが長く続きますことを祈っています。

私は武満徹さんをあまりよく知りませんでしたが、香港で開催されたISCM(国際現代音楽協会)の音楽祭で審査員を務めた際に出会いました。魅力的で控えめな人だなぁと思ったことを覚えています。ここでちょっとした逸話をご紹介したいと思います。作曲家というのは、それほど服装に気を遣わない人が多いということは皆さんもお気づきでしょう(笑)。私自身、30年来ネクタイを締めていません。音楽祭のある晩、私たちは一緒に盛大な夕食会に出席することになったのですが、ネクタイを締めなければ参加できないということで私はすっかり動揺してしまいました。というのも、私はネクタイを持ち合わせていなかったからです。武満さんは私のその落ち着かない様子を見て、「ちょっと待っていて」と言い残して、またホテルの部屋まで上がって行きました。しばらくして降りてくると、ネクタイを差し出して、親切なことにその晩の会食のためにそのネクタイを私に貸してくれたのです。私の知る限り、ネクタイを一本だけではなく二本も荷物に忍ばせて旅行する作曲家は彼だけです。ということで、徹さんありがとう。

ではここで本日演奏された4曲についてもう少し述べたいと思います。今日の演奏順に申し上げたいと思います。

まず室元拓人さんのさんの曲ですね。これは私のメモしたノートから読み上げます。「立体音響的なオーケストラの配置を想像力豊かに使い、ドラマティックなやりとりと高い透明性を実現している。身振りとテクスチャーの局所的なタイミングには説得力はあるが、冗長なエンディングはそれに比べると少し弱いように感じる。楽器それぞれのリソース、力を、確信をもって生かすことで全体的な色彩感を新鮮なものにしている。」

次にアンドレア・マッテヴィさんの《円の始まりと終わりの共通性》について。「和声とソノリティ、その響き方に関するセンスが優れている。予測可能な範囲に収まることなく、意外性を担保しながらも、全体的な形式をうまく維持している。素材が多様で直接的にそのまま繰り返すことなく、新しい文脈を構築しており、作曲者が自分の手法の可能性を熟知していて、厳格な形式的計画の必要性をよく理解している印象を受けた。」

次にオマール・エルナンデス・ラソさんの《彼方からの冷たい痛み》について。「私は個人的にバランスと音色をより繊細に操作するために作曲のパレット、つまり色彩の範囲を制限するという作曲家の判断を歓迎する。曲の冒頭から私たちは、音の内側に焦点を合わせて聴くように求められていることが明らかだ。これは形式的な前提を意図的に放棄していることを意味する。垂直的な配置の流れをどのように理解したのかぜひ作曲家に訊いてみたい。複雑なリソースとしてのオーケストラを非常に注意深く精巧に使っている。」

そしてメフメット・オズカンさんの管弦楽のための間奏曲《無秩序な哀歌》。「この作品はその音世界においても、またテクスチャーが提示されては織り交ぜられる方法においても、多くのリスクを負っている。それはとても良いことである。しかし、この無秩序な側面が形式において効果的に展開されているかは疑問である。おそらくドラマティックな緊張感を強調するために、セクションの長さをもっと変化させることができたのではないか。カデンツの休止は私にはありきたり過ぎて、それによって緊張感が失われてしまったように思われる。」

さて、それでは選考の結果を発表します。賞金は4つに分けることにしました。まず同率3位が二人います。3位の賞金はそれぞれ30万円です。3位管弦楽のための間奏曲《無秩序な哀歌》を作曲されたメフメット・オズカンさん、そして《彼方からの冷たい痛み》を作曲されたオマール・エルナンデス・ラソさんです。

次に2位《円の始まりと終わりの共通性》を作曲されたアンドレア・マッテヴィさん。賞金は100万円です。そして今年の第1位は、賞金140万円のプレミアムをつけて《ケベス ─ 火群の環》を作曲された室元拓人さんを選びました。皆さんおめでとうございます。そしてお疲れ様でした。

通訳:樅山智子/文責:東京オペラシティ文化財団

受賞者のプロフィール

第1位
室元拓人(日本) Takuto Muromoto
ケベス ─ 火群の環

1997年、京都府京都市生まれ。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。現在、同大学院音楽研究科修士課程作曲専攻在学中。学内にて、安宅賞、同声会賞受賞。2020年「一柳慧プロデュース フラックス弦楽四重奏団来日公演」において、公募により作品が選出、演奏される。同年、第37回現音作曲新人賞入選。2021年、第90回日本音楽コンクール作曲部門第3位。2022年、第11回JFC作曲賞入選。これまでに、作曲を平松良太、小倉啓介、鈴木純明の各氏に師事。作品は、藝大フィルハーモニア管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、フラックス弦楽四重奏団、アンサンブル・アンテルコンタンポランなど国内外の個人、団体によって演奏されている。(公財)クマ財団5期生。

【受賞の言葉】
皆様、こんばんは。室元拓人です。私は今日、この東京オペラシティで武満徹作曲賞本選演奏会の舞台に立つことができ、そして素晴らしい初演をして頂けたことに、心から感謝しています。
またリハーサルでは、指揮者の篠﨑靖男さん、東京フィルハーモニー交響楽団の皆様と共に音楽を創りあげていくという、とても豊かな経験をさせて頂きました。そしてファイナリストのアンドレアさん、オマールさん、メフメットさんからは、彼らの音楽や美学を学びました。こうしたかけがえのない体験を、今後の糧としていきたいと思っています。
さて今作は、自身3作目となるオーケストラ作品でした。この作品では新しいチャレンジをしたこともあり、完成までに多くの苦労と同時に楽しさがありました。私自身が興味を持つ音響や音のジェスチャーを素直に表現できたと感じており、そうした作品をブライアン・ファーニホウさんに選んで頂けたことが大変嬉しく、身に余る思いです。
最後になりましたが、この作曲賞に関わって下さった全ての方にお礼を申し上げます。このような素晴らしい機会をセッティングしてくださった東京オペラシティ文化財団の皆様、パート譜を作成していただいたハッスルコピーさんに、心より感謝申し上げます。また、日ごろから励ましご指導いただきました先生、応援してくれた家族と友人に、この場をお借りして感謝を述べたいと思います。最後に、今日この場に立ち会って下さった聴衆の皆様、今日聴いていただいたことを励みにこれからも頑張ってまいります。本当にありがとうございました。

第2位
アンドレア・マッテヴィ(イタリア) Andrea Mattevi
円の始まりと終わりの共通性

1986年、トレノ生まれ。作曲家兼ヴィオラ奏者。作品はミヴォス弦楽四重奏団、バーゼル・シンフォニエッタ、クラコヴィア・シンフォニエッタ、MDIアンサンブル、L’arsenaleアンサンブル、アルテル・エゴ・アンサンブル、デダロ・アンサンブル、アンサンブル・ヴィントクラフト、インターアンサンブル、アンサンブルAdMサウンドスケープなどで演奏されており、ボルツァーノ・トレント・ハイドン管弦楽団基金などからも委嘱されている。ソリストとして、また室内楽やオーケストラとの共演も多く、RAI国立交響楽団、ペトルッツェリ劇場管弦楽団などと共演している。彼の音楽の特徴は、共存する様々な時間の層の出現と、表現の明るさを求めるソノリティとテクスチャーの構造的な並置にある。

【受賞の言葉】
皆さん、こんばんは。武満徹作曲賞本選演奏会に参加することができて、大変光栄に思います。このコンクールのファイナリストになることは、作曲家にとって大変重要な一つの目標であり、私自身ずっと憧れてきたことです。武満徹は私が若い頃初めて知った現代作曲家の一人でした。多大なサポートをして下さった主催者の皆様、審査員のブライアン・ファーニホウさん、彼の言葉やコメントは私にとってとても大きな意味がありました。東京オペラシティ文化財団理事長の松山保臣さん、大変な仕事をして下さった指揮者の篠﨑靖男さん、東京フィルハーモニー交響楽団に感謝の意を表したいと思います。武満徹作曲賞、そして私の作品に関心をもって配慮をして下さった全ての方々に感謝しております。そして、作曲家としての私の仕事を強く信じてサポートしてくれた私の家族と婚約者のナウシカに心から感謝いたします。ありがとうございます。

通訳:樅山智子

第3位
オマール・エルナンデス・ラソ(メキシコ) Omar Hernández Lazo
彼方からの冷たい痛み

1989年、メキシコ・シティ生まれ。ホスエ・アマドルのもとでギターと作曲のレッスンを受けた後、国立高等音楽学校でホセ・ルイス・カスティージョのもと作曲の学位を取得し、同時にヘルマン・ロメロとサムエル・セディージョに師事。音楽や音から生まれる、詩、素材の性質、作品の形式、それらの社会に及ぼす影響に特別な関心を寄せている。彼の作品はウィルフリド・テラサス、オトニエル・メヒア、アンサンブル・リミア、アルディッティ弦楽四重奏団、アンサンブル・セプロミュージック、アンサンブル・アルス・ノヴァなどによって演奏されている。

【受賞の言葉】
聴くということは人間にとって超越的な活動です。それによって私たちは自己を離れて他者になろうとすることが可能になり、思考の柔軟性を高めて、世界に生息するための新しい方法を見つけることができます。聴くことを促す人間的な実践は極めて重要です。だからこそ私はこのたび、武満徹作曲賞のファイナリストになれたことを大変ありがたく思っています。
現代において最も素晴らしい音楽思想家の一人であり、作曲を通して勇気と強度を体現されてきたマエストロ、ブライアン・ファーニホウ氏に感謝を申し上げます。そして、大きな熱意を持って音楽と音響にコミットしてくださったマエストロ篠﨑靖男氏、そして東京フィルハーモニー交響楽団の皆さま、ありがとうございました。深い専門性を持ってサポートしてくださり、敬服するほどに寛大な東京オペラシティ文化財団の皆様、そしてハッスルコピーの皆様に感謝の意を表したいと思います。
このような機会に恵まれたことは今でもまだ信じられないくらいです。ここに至るまでの旅は学びと喜びに満ちた素晴らしいものでした。そして今、こうしてここに皆様と一緒にいられることを光栄に思います。皆さんのこの美しい国、そして人々のやさしさや思いやりを知ることができてとてもうれしいです。
最後に、私を支えてくれた家族や先生、友人たちに感謝したいと思います。彼らから多くのことを教わりました。彼らなしでは私はここにいないでしょう。ありがとうございます。

通訳:樅山智子

第3位
メフメット・オズカン(トルコ/ブルガリア) Mehmet Ӧzkan
管弦楽のための間奏曲《無秩序な哀歌》

1987年、ブルガリアのクルジャリ生まれ。家族とトルコに移住した後、音楽教育を受け始める。ウルダグ大学州立音楽院のピアノ科に合格。同音楽院を卒業後、ミマール・スィナン藝術大学国立音楽院で作曲を学ぶ。彼の様々な室内楽曲やオーケストラ作品はトルコ、ロシア、ドイツ、ベルギー、タイ、ブルガリアで演奏されている。オーケストラとバリトンのための作品《Lunatic's Lay》で、第9回Nejat F. Eczacıbaşıコンクールのファイナルに進出している。現在、イスタンブール工科大学トルコ音楽国立音楽院の講師を務める。

http://www.mehmetozkan.site/

【受賞の言葉】
皆さんこんばんは、この美しい演奏会で、私たちと感動を共にしてくださった皆様に感謝いたします。お楽しみいただけましたでしょうか。
武満徹とブライアン・ファーニホウという二人の偉大な作曲家の名前を冠する賞をいただき、大変光栄に思います。あらゆる作曲家が彼らの作品や考え方から多くのことを学んできました。ですからこの気持ちは言葉にすることができません。
このように重要な作曲コンクールにおいて、ほかのファイナリストたちの素晴らしい曲と並んで、賞に値するものとして私の曲を選んでくださったファーニホウさんに感謝いたします。今日は本当に忘れられない素晴らしい経験になりました。
作曲家は誰もが、曲を演奏してくれる人たちから勇気をもらって作曲しています。私は今回東京フィルハーモニー交響楽団の皆様が演奏してくれるのだと思いながら作曲しました。そういう意味では、今日の演奏を聴いてくださった観客の皆様はその勇気の証人です。マエストロ篠﨑靖男氏、そして東京フィルハーモニー交響楽団の錚々たるアーティストたちに素晴らしい演奏をしていただいたことに感謝いたします。私の作品が、このような優秀で活躍されているアーティストたちのレパートリーになることは特別な名誉です。
また、パンデミックの状況下でいつでもすぐにメールを返してくださり、どんな些細なことでも躊躇なくサポートしてくださった組織全体に感謝の意を表したいと思います。 さらに、今日この場にゲストをお迎えすることができて光栄に思います。コルクット・ギュンゲン駐日トルコ大使、そしてトルコ共和国大使館の皆様。ご来場いただきありがとうございました。
また、今日ここで応援してくれた私の友人たちにも心から感謝します。最後に私の最初の観客であり、最初の評論家でもある最愛の妻へ、どこまでも果てしなく支えてくれて本当にありがとうと伝えたいと思います。

通訳:樅山智子



【オンエア情報】

本選演奏会の模様はNHK-FMで放送される予定です。

番組名:NHK-FM「現代の音楽」

2022年7月10日[日]/7月17日[日] 午前8:10 - 9:00
(当初の予定から変更になりました/2回にわけての放送)

*放送日は変更になる場合があります。

NHKラジオ https://www.nhk.or.jp/radio/
番組ホームページ https://www4.nhk.or.jp/P446/
【譜面審査時のブライアン・ファーニホウのコメントなど】
ニュース&トピックス「2022年度 ファイナリスト決定」(2021.12.2)
〈コンポージアム2022〉「2022年度 武満徹作曲賞本選演奏会」公演詳細ページ
「武満徹作曲賞」トップページ 次回:2023年度武満徹作曲賞 審査員:近藤 譲

お問い合わせ:東京オペラシティ文化財団 Tel.03-5353-0770

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