武満徹作曲賞

審査結果・受賞者の紹介

2021年度

審査員

© Philippe Gontier
/ Editions Salabert

本選演奏会

2021年5月30日[日] 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:阿部加奈子、東京フィルハーモニー交響楽団

審査員パスカル・デュサパン氏は当初会場で本選演奏を聴き、最終審査を行う予定でしたが、新型コロナウイルス感染症に係る入国制限措置の影響により来日できませんでした。それに伴い、5月30日開催の本選演奏をパリのパレ・デ・コングレ・ド・パリにて、高音質・高画質の通信を用いて聴き、審査いたしました。

受賞者

第1位

根岸宏輔(日本)
雲隠れにし 夜半の月影
(賞金120万円)

第2位

ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラ(イタリア)
BREAKING A MIRROR
(賞金80万円)

第3位

ヤコブ・グルッフマン(オーストリア)
TEHOM
(賞金50万円)

ミンチャン・カン(韓国)
影の反響、幻覚…
(賞金50万円)

審査員:パスカル・デュサパン 講評

(2021年5月30日 パリ/パレ・デ・コングレ・ド・パリにて収録)

結果を発表する前に、それぞれの作品について演奏順に一言ずつ述べたいと思います。

根岸宏輔さんの《雲隠れにし 夜半の月影》は、形式の流れが分かりやすく自然な方法で表現されていて、楽しめました。音型やフレーズは曲全体を通じて有機的に展開し、巧みにオーケストレーションされ、すべての楽器グループに存在感をもって現れていました。楽器のジェスチャーに対するすぐれた感性および敬意が感じられ、武満徹のスタイルにとても近いと思いました。

ミンチャン・カンさんの《影の反響、幻覚…》では、旋律のパターンの設計が気に入りました。オーケストラの過剰さはなく、むしろシンプルで美しいジェスチャーがやわらかく活き活きと、つねにコントロールされた形で表現されていました。オーケストラの形式はとても優美で、音色が濁ることもなく、美しい、洗練された和声空間が生み出されていました。

ヤコブ・グルッフマンさんの《TEHOM》では、作曲者が全力を傾け、純粋なインスピレーションと、意識的にリスクを取ってオーケストラの表現の限界に挑戦している点が気に入りました。オーケストラをよく知った上でのきわめてヴィルトゥオーゾ的な書法、力強い真の抒情性、そして題材におけるある種のラディカリズムが見られました。

ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラさんの《BREAKING A MIRROR》では、形式の展開がつねに明瞭かつミニマリズム的な手法で示されていました。オーケストレーションは風通しがよく透明感があり、各楽器グループの扱いに長けていて、しばしばむきだしの音色や圧縮されない豊かな和声が聞かれました。題材は曖昧ではなく、うまく設計され、とても存在感を感じました。

それでは、審査結果を発表いたします。

第1位 根岸宏輔:《雲隠れにし 夜半の月影》 賞金1,200,000円
第2位 ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラ:《BREAKING A MIRROR》 賞金800,000円
第3位 ヤコブ・グルッフマン:《TEHOM》 賞金500,000円
第3位 ミンチャン・カン:《影の反響、幻覚…》 賞金500,000円

訳:後藤菜穂子/文責:東京オペラシティ文化財団

受賞者のプロフィール

第1位
根岸宏輔(日本) Kohsuke Negishi
雲隠れにし 夜半の月影

1998年、埼玉県本庄市生まれ。2020年第37回現音作曲新人賞、併せて聴衆賞を受賞。同年、第31回朝日作曲賞(合唱組曲)を受賞。日本大学芸術学部音楽学科作曲・理論コース(作曲)を卒業後、現在は同大学大学院修士課程に在籍し、伊藤弘之氏に作曲を師事している。

受賞者の言葉
2021年度武満徹作曲賞第1位になりました根岸宏輔です。
今回ありがたいことに初演の機会をいただき、リハーサルから本番までの数日間、非常に多くのことを学ぶことができました。このような貴重な経験をさせていただけたこと、心から感謝しています。
阿部加奈子さんや東京フィルハーモニー交響楽団の皆様の音楽に対する姿勢は本当に素晴らしく、4作品すべてが素敵に響いていたと感じます。コンペティションという形ではありますが、良い順位がほしいということよりも、プロフェッショナルな演奏家を相手に学習できることや、他のファイナリスト3名の作品が完成されていく様子を間近で見れることに喜びを感じました。
実際にデュサパン氏や他のファイナリストの方々にお会いできなかったことは残念ですが、同じ演奏プログラムに並んだことや、お互いの音楽に触れたことはたしかに大きな意味を持っていると思います。
また今回の厳しい状況下でも、厳重な管理と対策によって、このようなコンサートが開催されるということは、文化や芸術を守るというだけでなく、発展させるという意味でも非常に重要であり素晴らしいことだと思います。
演奏家の方々はもちろん、東京オペラシティ文化財団さんやハッスルコピーさん、そのほか大勢の皆様のご協力のもとでこの作品は完成しました。この作品に関わってくださったすべての方々に感謝しています。ありがとうございました。
第2位
ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラ(イタリア) Giorgio Francesco Dalla Villa
BREAKING A MIRROR

1986年、ミラノ生まれ。作曲をパオロ・リモルディに師事し、2017年ジュゼッペ・ヴェルディ音楽院修士課程を修了。2018年よりフィエーゾレ音楽院の特別コースに在籍し、ファヴィオ・ヴァッキに師事している。エンニオ・モリコーネが審査員長を務めたミケーレ・ノヴァーロ国際作曲コンクール2018にてファイナリストに選出されマメーリ賞を受賞。2020年中央ヨーロッパ弦楽四重奏団が主催する作曲コンクールにおいて、ペーテル・エトヴェシュ現代音楽財団特別賞を受賞。ミラノ・スカラ座管弦楽団フルート奏者のロマーノ・プッチにより2作品の録音を行った。またアルバ・ローザ・ヴィエトル作曲コンクール2020/2021(アムステルダム)のファイナリストに選出されている。
http://www.giorgiofrancescodallavilla.com/

受賞者の言葉
皆さん、こんにちは。今この瞬間、皆さんにお話しできてとても嬉しいです。なぜなら、私にとってとても特別な瞬間だからです。私は夢を持っていました。なぜ過去形で話すかというと、その夢が今日、現実となったからです。その夢は、オーケストラのための作品を書き、演奏してもらうことでした。でも、ときに現実が期待を上回ることがあります。まさか、指揮者の阿部加奈子さんと東京フィルハーモニー交響楽団というすばらしいオーケストラによって演奏してもらえるとは想像さえしていませんでした。
さらには、ここからは武満徹作曲賞の第2位の受賞者としてお話ししますが、この作曲賞は若い音楽家にとってもっとも重要な賞であり、受賞できて本当に、本当に嬉しいです!しかもこの作曲賞は、私にとってもっともすぐれた重要な作曲家のひとりであり、大きなインスピレーションを与えてくれた武満徹を記念した賞で、その上、大作曲家であるパスカル・デュサパン氏に選んでいただきました。さきほどデュサパン氏にお目にかかることができてたいへん光栄でした。私を選んで下さったことを、デュサパン氏に御礼申し上げます。それだけではなく、今回の作曲賞を実現するためにご尽力くださったすべてのスタッフの皆さんに御礼申し上げます。私がとても重要な人物であるように対応してくださいました。
現代音楽、すなわち現代の作曲家たちが生み出す音楽が今後も世界中に広まっていくことを心から願っています。音楽は人間の上級の言語といえます。イディオムがわからなくても音楽を理解することができます。音楽には人種の違いもありません。私が今回与えてもらった可能性を、将来他の若い作曲家たちも与えられるよう願っています。
はじめにお話したように、これは私の夢の到着点です。ここ10~15日間の出来事は凝縮されてあっという間でした。と同時に、これは私にとって新しい出発点でもあるように感じます。この道を突き進むエネルギーを感じています。皆さん、どうもありがとうございました。そして近い将来にお会いできますように。さようなら。
訳:後藤菜穂子
第3位
ヤコブ・グルッフマン(オーストリア) Jakob Gruchmann
TEHOM

1991年、ザルツブルク生まれ。ザルツブルク・モーツァルテウム大学及びグラーツ国立音楽大学にて、作曲をアレクサンダー・ミュレンバッハ、ゲルト・キュール、ヨハネス・マリア・シュタウトの各氏に、音楽理論をエルンスト・ルートヴィヒ・ライトナー、クリスティアン・ウッツ、フランツ・ツァウンシルムの各氏に師事。2012年ザルツブルク連邦州音楽部門の奨学金を得る。2014年からグスタフ・マーラー大学(旧:グスタフ・マーラー音楽院)にて教えている。2019年マルセイユで開催された”ARCO”作曲部門において給費生に選出された。2020年ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団による個展で2作品が演奏されるなど、現在までに70作品以上を作曲している。
http://www.jakobgruchmann.com

受賞者の言葉
このたび、武満徹作曲賞の本選演奏会に私の作品《TEHOM》が選ばれ、演奏されたことを嬉しく思います。皆さんに申し上げたいのは、この偉大なコンクールが若い作曲家にとっていかに重要な機会であるかということです。このように大編成のすばらしいオーケストラによって作品が演奏される機会は、現代音楽ではほとんどありません。今から一年以上前にこの作品の最初の一音を書き始めたときのことを思うと、今日、この作品を聴くことができたのは大きな感動であり、作曲家としての自分にとってもっとも大切な経験のひとつだと言えます。その過程において、多くのことを学び、成長できたと思います。
とりわけ感謝しているのは、事務局とのコミュニケーションがとても円滑に行なわれ、なんでも質問でき、たくさんのサポートをいただけたことです。東京フィルハーモニー交響楽団と指揮者の阿部加奈子さんには、私の作品に息吹を与えて下さり感謝いたします。また、パスカル・デュサパンさんにも、このコンクールのためにご尽力いただき感謝申し上げます。また、事務局の皆さんにも厚く御礼申し上げます。私たちが来日できないか最後まで努力してくださり、その後も私たちがなんとか演奏会に参加できるように力を尽くして下さいました。
このコンクールが今後も多くの作曲家にとってインスピレーションとなることを確信しております。そして、2021年の作曲賞に参加できたことを心から嬉しく思います。
訳:後藤菜穂子
第3位
ミンチャン・カン(韓国) Minchang Kang
影の反響、幻覚…

1988年、韓国ウルサン生まれ。ソウルのハニャン(漢陽)大学校にて作曲を学び、スンマ・クム・ラウデ最優等を得て卒業。2014年学内にて「その年の若い作曲家」に選ばれ、その演奏会で第1位を獲得した。同年ISCM韓国による第42回パン・パシフィック・ミュージック・フェスティバルに参加。2019年よりストラスブール音楽院の修士課程に在籍し、ダニエル・ダダモに師事している。アンサンブル・イマジネールやタナ四重奏団と共演。またストラスブール音楽祭にて作品が選出され、その作品がフランス・トロワ放送局の演奏会で演奏された。

受賞者の言葉
皆さん、こんにちは。はじめにパスカル・デュサパンさん、オーケストラの奏者の皆さん、指揮者、そして私の作品を実現するために時間と力を注いでくださったすべての方々に感謝申し上げます。 武満徹作曲賞は私にとってすばらしい経験であり、この印象深いイベントに参加できたことは私の作曲家としての人生を豊かなものにしてくれました。ファイナリストのひとりに選ばれたことをたいへん嬉しく思います。新型コロナウイルス感染症のために日本を訪れることができなかったのはとても残念でしたが、パリから参加できたことは良い経験になりました。私のオーケストラ作品が世界有数のオーケストラによって演奏されたことはとても光栄ですし、私の勉強や今後の作品に大いに役立ってくれると思います。どうもありがとうございました。
訳:後藤菜穂子

[受賞者コメント収録]
根岸宏輔:2021年5月30日 東京/東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアルにて
ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラ、ヤコブ・グルッフマン、ミンチャン・カン:2021年5月30日 パリ/パレ・デ・コングレ・ド・パリにて

ON AIR

本選演奏会の模様はNHK-FMで放送される予定です。

番組名:NHK-FM「現代の音楽」
2021年6月20日[日]午前8:10 - 9:00
(根岸宏輔:雲隠れにし 夜半の月影、ヤコブ・グルッフマン:TEHOM)
6月27日[日]午前8:10 - 9:00
(ジョルジョ・フランチェスコ・ダッラ・ヴィッラ:BREAKING A MIRROR、ミンチャン・カン:影の反響、幻覚…)

*放送日は変更になる場合があります。
NHKラジオ https://www.nhk.or.jp/radio/
番組ホームページ https://www4.nhk.or.jp/P446/

お問い合わせ

公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
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