武満徹作曲賞

審査結果・受賞者の紹介

2008年度

審査員

© Wonge Bergmann

本選演奏会

2009年5月25日[日] 東京オペラシティ コンサートホール
指揮:中川賢一、アンサンブル・ノマド

今回のみ、ライヒ氏の強い希望により「未発表のアンサンブル作品」が対象。

受賞者

第1位

松本祐一(日本)
広島・長崎の原爆投下についてどう思いますか?
(賞金100万円)

第2位

トーマス・バレイロ(メキシコ)
La Noche de Takemitsu
(賞金80万円)

第3位

ダミアン・バーベラー(オーストラリア)
God in the Machine
(賞金60万円)

中谷 通(日本)
16_1/32_1
(賞金60万円)

左より、ダミアン・バーベラー、トーマス・バレイロ、
スティーヴ・ライヒ、松本祐一、中谷通の各氏
photo © 大窪道治

審査員:スティーヴ・ライヒ 講評

まずはじめに東京オペラシティ文化財団の方々に厚く御礼申し上げたいと思います。特に今回私を招聘して頂くにあたって大変なお仕事をして頂きました国塩哲紀さんに心から御礼申し上げます。そして理事長はじめ多くの方々に御礼申し上げます。そのおかげで私もここに立っていることができますし、アンサンブル・モデルンやシナジー・ヴォーカルズ、演奏家の方々、アンサンブル・ノマドの方々に演奏をお願いすることができました。ありがとうございます。

まず東京オペラシティ文化財団の方々から有り難くも審査員のお話を頂いた時に、最初はお断りしようと思ったのです。しかしながら、二度考えまして、オーケストラということですと私にはちょっと無理だと思ったのですけれども、もしかすると私の考え方でもって東京における音楽シーンのある種の変化に私なりに寄与できる面もあるかもしれないと思い直し、アンサンブルにして下さいと。つまりオーケストラのように第1ヴァイオリンが18人、第2ヴァイオリンが16人といったようなものではなく、アンサンブルにして、ただし、そこにエレクトロニクスを交える形が望ましいという風にお答えしたのです。

というわけで、今回ステージ上に音楽家が並んでいるだけではなく、サンプラーであるとか、シンセサイザー、それから極端な楽器としては小太鼓が置いてあって、その下に縦の筒のようなものが置いてあったのですが、あそこでエレクトロニクスを使って振動を送っているのです。その振動で上の小太鼓が鳴るように作られている。こういったものまで皆様に経験して頂くことができたわけです。

たとえば今日、東京の楽器店に皆様がお越しになると、そこにある楽器でまず目に飛び込んでくるのは、クラシックの楽器よりも前に電気を使ったあるいは電子的な楽器、エレクトロニクスの楽器なのではないかと。これはむしろロックンロールのために元々発展してきたのかもしれない、あるいはロックンロールにまつわる楽器です。ところが、こういったエレクトロニクスというのは私の考えでは、現代のフォークミュージックの一種なのではないか。そうやって考えれば、クラシック音楽の長い伝統の中で、バッハであったりあるいは20世紀のストラヴィンスキーやバルトークもそうですけれども、そのフォークミュージックというものを重視したのではないか。その伝統の中に実はあるのではないかと思います。

さてここから本日皆様にもお聴きいただきました曲、そして作曲家について私なりにお話したいと思います。まず東京オペラシティ文化財団から2つのダンボール箱にいっぱい入るほどの譜面とCDを頂いたわけです。私の記憶では76作品、候補作として頂いたと思うのですが、そこから本当に何度もスコアを見て、読んで、そしてCDを聴かせて頂いて、今日の4人の方々を選ばせて頂きました。演奏順に私が今日感じたことを申し上げます。

■ ダミアン・バーベラーさん 《God in the Machine》
サンプリングをお使いになっているわけですけれども、私の心にある、一番世界でサンプリングされたミュージシャンというのは、ソウルミュージックのジェームズ・ブラウンではないかと思うのですけれども、なんとバーベラーさんはモンテヴェルディの音楽を何百年も後に蘇えらせた。まるでこのホールの中にモンテヴェルディの幽霊が漂っているような感触があった。その感触があるのも何故かというと、非常にバーベラーさんが繊細な耳をお持ちで、ご自分の音楽と、そしてモンテヴェルディの音楽を高度なかたちで合致させた、融合させたからだと思います。したがってハイファイ(Hi-Fi)があからさまに訴えかけてくるのではなく、自分の背後からそれがじわっと迫ってくるような印象を受けました。

■ トーマス・バレイロさん 《La Noche de Takemitsu》
ご存じのように武満さんご自身もギターが大変お好きな方でした。そして、バレイロさんはギタリストであります。そして、彼は二つのエレクトリックギターを今回の曲のためにお使いになったわけですが、これも私自身も非常に合点がいくことで、現代のフォークインストゥルメントと言っていい楽器をよくぞ使って下さったという思いが致します。そしてエレキギターとクラシックギターのテクニックを両方とも存分にお使いになって、特に曲尾では美しいハーモニクスが演奏されたわけですけれども、これはもちろん偶然のように鳴ったものではなくて、彼の繊細な耳が音楽を紡いでいった、その当然の帰結としてそれがあったと感じます。

■ 松本祐一さん 《広島・長崎の原爆投下についてどう思いますか?》
このタイトルを初めて目にした時、私はやはりそこで一旦立ち止まってしまいました。この曲で使われている、とくに2つのテクニックについて申し上げたいと思います。一つは品詞ですね。文法構造の名詞であるとか動詞であるとか、品詞というものに着目されて、それぞれの品詞に対してある音高を当てられた。それでシステムを作られた。しかもそれだけではなく、スピーカーを二つ配して、日本語の音が一方から出て、もう一方から英語が出ると。それぞれにもちろん品詞があって、その品詞が出てくる順番は異なっているわけです。残念ながら私が所属する国家が、あなた方の国家というか日本という国家に原子爆弾を落としてしまったわけですけれども、それがちょうど対置される形になっております。そしてそれが徐々に移行していくわけですが、システムを作る、ある音楽を作るときに非常に知的にシステムを作るというのは、良い作曲家の一つの条件であると思います。しかしそれだけではなく、これが第二の点だと思われますが、それを非常にエモーショナルな力強い情感に結びつける。ただインテリジェントな音楽ではなく、それが心に結びつくというところに非常な強さを感じました。

■ 中谷 通さん 《16_1/32_1》
中谷さんはチューニング、調律ということに着目されて、皆さんもお聴きになったように、それはよくやるドレミファソラのラの音のチューニングではないわけです。非常に普通ではないチューニングを使っている。ピアノの音などのチューニングとは違うということが一聴してお分かりになったかと思います。ただし日本という国のチューニングについてここで言及すれば、雅楽の音のチューニングはピアノで再現することはできないわけです。笙や尺八では可能かもしれません。しかしピアノではできない。これは元々のスケール観というか調律そのものが違うわけです。ところが、現代の楽器であるエレクトロニックなものを使えば、前もって異なるチューニングに楽器自体をセットすることができるわけです、電子的に。それでピアノの鍵盤であれば、ピアノと同じように弾いても、出てくるチューニングが自ずと変わるものになる。これに合わせて今度は金管楽器であるとか弦楽器を調律していけばよい。昔よりもこういったことがやりやすくなっています。ジョン・ケージがプリペアードピアノで道を開いた事だと思いますけれども、現代においてはこれはもっとやりやすくなっているのではないでしょうか。

これから受賞者の方々、受賞について申し上げることになるのですけれども、その前にもう一言やはり申し上げておくべきなのは、たまたま私がここで審査をしていて決めなければならない立場なのですけれども、本当のところを言えば私に決めることはできないものです。これは時間のみが本当の歴史を作っていくのであって、私にできることは“今日私が考えることはこうです”ということ。あとは皆様と歴史が作っていくことです。

第3位の方々のお名前を読み上げさせて頂きます。演奏順です。ダミアン・バーベラーさんの《God in the Machine》、第3位を授与させて頂き、日本円で60万円をお渡ししたいと思います。そしてもう一人、中谷 通さんの《16_1/32_1》に、第3位を授与させて頂き、60万円をお渡ししたいと思います。
第2位は、トーマス・バレイロさんの《La Noche de Takemitsu》に選考させて頂きました。そして80万円をお渡ししたいと思います。
第1位は、松本祐一さんの《広島・長崎の原爆投下についてどう思いますか?》に決めさせて頂きました。賞金として100万円をお渡ししたいと思います。

受賞者のプロフィール

第1位
松本祐一(日本)
広島・長崎の原爆投下についてどう思いますか?

1975年11月3日神奈川県横浜市生まれ。茨城大学工学部電気電子学科卒業。電源制御機器開発会社の研究員を経て、IAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)に入学。コンピュータ音楽等を学ぶ。卒業後、情報科学芸術大学院大学助手に着任。その後、同校のシステム管理嘱託員。そして現在、東京芸術大学美術学部先端芸術表現科研究助手、名古屋芸術大学音楽学部非常勤講師。作曲を早川和子、三輪眞弘に師事。アンケートを行い、その回答の文章から音楽を作るアンケート・アートを中心に、アーティストのサポートや、数多くの映像作品に楽曲を提供。

受賞者の言葉
ありがとうございます。本当に今日演奏して下さったアンサンブル・ノマドの方々、音楽監督の佐藤紀雄さん、音響担当の有馬さん、スタッフの方々と、アンケートに答えてくれた回答者の皆さんにお礼を言いたいです。ありがとうございました。あともう一つ、お手元にアンケートがあるかもしれませんが、ぜひアンケートにご協力下さい。次の作品に使いたいと思います。
第2位
トーマス・バレイロ(メキシコ)
La Noche de Takemitsu

1976年8月31日、メキシコシティ生まれ。まずギターを習い始め、地元の音楽学校で作曲理論とギターを学ぶ。2002年よりフルブライト奨学金を得てサンフランシスコ音楽院へ留学し、ギターをデイヴィッド・タネンバウム、即興演奏をデュージャン・ボグダノヴィチに師事し、2002年修士号を取得。クラシック・ギタリストとして、また室内楽やジャズ奏者としてもメキシコやサンフランシスコを中心に活動。また、民俗音楽グループの一員としてフランス、スペイン、オランダ、中国、日本、アメリカへ演奏ツアーを行っている。現在、メキシコの母校などでギターや理論の教鞭をとるかたわら、コンサート、映画や演劇のための作曲活動を展開しており、メキシコ国立自治大学博士課程在籍中。

受賞者の言葉
ありがとうございます。皆様のおかげで本当に楽しいうれしい経験をさせて頂きました。とても尊敬するライヒさんに感謝申し上げたいですし、この機会に出会うことができた3人の作曲家の方々、良い音楽と良い友に出会うことができました。さらに、東京オペラシティ文化財団の方々、そしてアンサンブル・ノマドの方々、中川さん、ギターをお弾きになった佐藤紀雄さん、本当に私の曲に色々と付き合って下さって協力して下さいました。そして東京のこの聴衆のみなさん、本当にありがたく感じております。どうもありがとうございます。
第3位
ダミアン・バーベラー(オーストラリア)
God in the Machine

1972年6月30日、ブリスベン生まれ。クィーンズランド音楽院にて修士課程を首席で卒業し、2006年よりシドニー音楽院にてマイケル・スメタニンに師事し、現在博士課程在籍中。2001年、シドニー交響楽団のレジデント・コンポーザーに選ばれる。彼の作品は、オーストラリアやヨーロッパでも頻繁に演奏、録音、放送されており、委嘱も多数。2003年ユネスコ国際作曲家会議にて作品が推薦される。オーストラリアのイアン・ポッター作曲フェローシップを得て2006年から1年間で、室内オペラを含む7作品を作曲。

受賞者の言葉
この一週間、本当に楽しい経験ができました。まず、演奏家の方々があんなにも注意深く、細心の注意を払って、そしておそらく関心を抱いて下さって、リハーサルをして、そして演奏して下さって、本当にうれしいです。指揮をなさって下さった中川賢一さん、アンサンブル・ノマドの皆さん、本当に心より御礼申しあげます。そして東京オペラシティ文化財団の皆さん、そして国塩さん、本当に大変なオーガナイゼーションの労をとって下さいまして心よりありがたく感じております。審査員のライヒさん、そしてここで出会うことになった他の作曲家の皆さん、当然賞が決まるまで心の中でそれぞれ皆ナーバスだったんですけれども、それにも関らず友情を育むことができて本当にうれしく思っております。どうもありがとうございます。
第3位
中谷 通(日本)
16_1/32_1

1979年12月22日愛知県名古屋市生まれ。和光大学人間関係学部人間関係学科卒業。1996年にフレット可動式の微分音ギターを製作。1998年よりロックグループ、ジャズオーケストラ、集団即興グループ等で活動する。2000年に南北インドとスリランカを巡り、デリー滞在中にディルルバ(インド古典擦弦楽器)を習う。自作した楽器に、19弦ジャワリ付きギター、共鳴弦のみからなる共鳴させるための楽器、純正律ギターなどがあり、2001年よりこれらの楽器を使ったソロパフォーマンスを行う。2007年に第24回現音作曲新人賞入選。

受賞者の言葉
まずは演奏家の方々に本当に心から感謝申し上げます。アンサンブル・ノマドの方、指揮者の中川さん、音響監督の有馬さん、かなり難しい要求をしたのですけれども、本当に素晴らしい演奏で応えて頂いて、本当に感謝しています。ありがとうございます。それから、スティーヴ・ライヒさんにも勿論チャンスを与えて頂いたこと、こうやって演奏する機会を与えて頂いたこと、その事に対して本当に感謝しております。ありがとうございます。これだけの方に聴いて頂いたこと、それも本当にうれしく思っております。小さいライブハウスとか、バーだとか、クラブだとか、そういうところで演奏する時に、お客さんがゼロの中で演奏することもよくありましたので、これだけの方の前で自分の作品を聴いて頂けたこと、本当に感謝しております。東京オペラシティ文化財団の方々、それから他にも音響スタッフの方々なども含め、多くの方々が関わられていると思いますけれども、すべての方に感謝申し上げます。どうもありがとうございました。

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