武満徹作曲賞 審査結果・受賞者の紹介

2002年度

湯浅譲二

【審査員】
湯浅譲二(日本)
Joji Yuasa (Japan)

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指揮:高関 健、東京フィルハーモニー交響楽団

【受賞者】

左より、M.J.ウィリー、T.パウス、T.I.タジュディン、湯浅譲二、山本裕之、P.ココラスの各氏 photo © 大窪道治

左より、M.J.ウィリー、T.パウス、T.I.タジュディン、湯浅譲二、
山本裕之、P.ココラスの各氏 photo © 大窪道治

より創造的な音楽文化の可能性を育むため、東京オペラシティ文化財団が世界の次代を担う若い世代に新しい音楽作品の創造を呼び掛ける「武満徹作曲賞」。2002年度審査員は、現代日本を代表する作曲家湯浅譲二氏です。今回は世界31カ国122作品から、2001年11月の譜面審査で5作品を選び、本選演奏会で上記受賞者を決定いたしました。

審査員:湯浅譲二 講評

今日の5曲を選ぶ前、譜面審査時に全作品を選考していた時、この5曲と技術的には対等の曲もありましたが、今日選ばれた5曲は、明確な音楽的イメージとピクチャーを持っているものでした。プログラムに掲載した私のメッセージの中で、「たとえ技法的には多少幼くとも、音の時間的構造物として、明確な主張をもつものばかりである。」という件りがありますが、これら5曲は技法的にはまったく幼いということはありません。

第一にそれぞれのオリジナリティを最も重要視したので、お聴きの通り、5曲とも個性的なものばかりになりました。その中で順位を決めるのは大変でしたが、5人の作曲家はみな35歳以下で私の歳の半分にも満たないので、作品の意図と、リアリゼーション、将来の可能性を考慮して選びました。結果として、ファイナリスト5人の方すべてに賞を差し上げたいと思います。

3位のウィリー氏は、ド(C)の推移、倍音上の色々な工夫がされており、今まで聴いたことのあるような、全く普通の音楽のスタイルとは違うものを持っていると思います。ただ、譜面を見ていたとき、ハ長調の高次倍音まで使い、オーケストラの色々な側面が出てくるわけですが、これはもしかしてマジカルな魅力がもっと出るかと思いましたけれど、その意味ではもう一歩でした。恐らく、音の音域というか、レンジの変化を考えればもう少し面白くなったのではないかと思います。しかし、このアイデアでオーケストラを書き通そうとした努力、意欲、勇気には敬意を表したいと思います。

2位のパウス氏は、ドイツ人なのでゲシュタルト、つまり風貌とか様相、造詣といいますか、音のかたちを変容していく(トランスフォーメーション)アイデアがもとになっていて、しっかりした思想、私はドイツ的思想と思いますが、そういう意味ではドイツ人としてのオリジナリティがあると思いました。お聴きのように、ソロとかデュエットとかの楽器とグループ化された楽器が対応したり、それは彼のプログラムノートによると叙情的なものとかアグレッシヴなものとかが交代して出てきて、それら両方があいまって世界が生まれてくるということをおっしゃっていますけれど、そういう考え方がいわゆる古典的な考えが段々現代音楽に発展してきたというような、常套的なコンベンショナルな形ではない音楽を作っていて、そういう意味では非常に新鮮さ、将来の可能性もあると思います。ただ、もう少し欲しかった点ですが、「ソノリティ」の響きの新鮮さがもっとあったら、もっと素晴らしい曲になったのではと思います。

同じく2位のココラス氏。私は30数年前から電子音楽と器楽の間にはインタラクション(相互作用)があると思っています。これは音楽のテクニカルな側面だけでなく、イメージの世界にもあるわけで、ココラス氏がプログラムノートに書いていることはもっともですが、現実にはそういう考えで作曲している人は多くありません。それからまた彼は、1つの音が複合音響であると言っていますが、まったくその通りです。仏教の言葉にもありますが、現代の科学の考え方と一致していると思います。この曲は、私が30年前に作曲したオーケストラのための《クロノプラスティク》と似たところがあると思いましたが、いわば私好みということで選んだわけではありません(笑)。やはり、伝統音楽の延長、拡張線上ではない、ミュージカル・ナラティヴィティ(新しい音楽の語り口)をもっているということで選んだのです。その上で今後の問題として、音楽の全体像を見た時、音響エネルギーがどこへ向かうのか注意してもらえたらもっと素晴らしい音楽ができるのではと思いました。

1位の山本氏について。オーケストラという媒体を通して、音色空間を通して様々な音楽を展開していくユニークな作品だと思いました。これもいわば、私が最近よく言う「未聴感」にアプローチしている音楽と言えます。創造的、音楽のクリエイションを作るのは「未聴感」だと思います。特にその意味では、曲の後半が大変ユニークな展開をしていて、私は聴いていて大変面白いと思いました。技術的にも高度なものを持っていて、最近の30代前後の日本人作曲家には何人か良い作曲家がでてきていまして、山本氏もその1人であり、これからの日本の作曲界に希望が持てると思いました。

タジュディン氏は、譜面審査時に譜面を見た時から、たいへん高度な技術で、繊細なテクスチュアを持っている凄い人だと思いました。お聴きのように、音楽全体の形はこれまでにないフォーメーションで、未聴感の音楽でできていると思います。しかも、何となく楽器の組み合わせからも、ガムランの匂いがして、民族的なオリジナリティもはっきりあると感じつつ、書法の上では最先端の洗練された技術をもっています。今日の演奏曲は多少シンプルですが、いつもこのようなスタイルの曲ばかり書くわけではないでしょうから、将来を考えると大変可能性をもったアジアの人を私は初めて発見したと思っています。
山本、タジュディンの両氏が1位になったのは、愛国心や愛郷心とか、東洋人だからということで選んだわけではないのです(笑)。選んだ理由を聞いて分かっていただけると思いますが(笑)。

受賞者のプロフィール

第1位
山本裕之(日本)
カンティクム・トレムルム II

1967年生まれ。神奈川県出身。東京芸術大学大学院作曲専攻修了。在学中、近藤讓、松下功の両氏に師事。これまでに第58回日本音楽コンクール作曲部門第3位入賞(1989)、現音作曲新人賞受賞(1996)、BMW musica viva作曲賞第3位入賞(ドイツ/1998)。またガウデアムス国際音楽週間'94(オランダ)、ISCM世界音楽の日々(ルクセンブルク/2000、横浜/2001)など、様々な音楽祭に入選。作品は国内外のアンサンブルやオーケストラなどによって演奏されている。在京の作曲家集団「TEMPUS NOVUM」メンバー。

【受賞の言葉】
私は実は10年以上作曲をしていますが、アンダーグラウンドといいますか比較的小さな場所でいろいろ活動してきたので、このような大きな、しかも天井も高いホールで演奏されたことに驚いています。素晴らしい演奏をしてくださった高関氏、東京フィルハーモニー交響楽団、東京オペラシティ文化財団の皆さまに感謝いたします。聴いてくださった皆さま、ありがとうございました。そして、湯浅先生に心より御礼申し上げます。

第1位
タズル・イザン・タジュディン(マレーシア)
テヌナン II

1969年生まれ。1994年から作曲を始める。マレーシア文化省より奨学金を得てアメリカ、カーネギー・メロン大学修士課程修了。その後マレーシア・サバ大学より奨学金を得て、現在はサセックス大学作曲専攻博士課程在学中。これまでにヤニス・クセナキスなどに師事。デュティユーからは「非常に鋭敏な才能に恵まれた作曲家」と評される。1996年、グラナダで行われたファリャ国際音楽祭で奨学金を得てフランコ・ドナトーニに師事。2001年にはIRCAMアカデミーに参加。作品はアメリカ、マレーシア、イギリス、シンガポールなどで演奏されている。

【受賞の言葉】
第一位に選んでいただいて感謝します。湯浅氏、東京オペラシティ文化財団の皆さまにも感謝いたします。そして指揮をしてくださった高関氏、東京フィルハーモニー交響楽団の素晴らしい演奏に感銘を受けました。最後に、ここにいらっしゃる皆様、ありがとうございました。

第2位
パナヨティス・ココラス(ギリシャ)
フィードバック

1974年生まれ。1987年よりアテネで音楽理論と作曲、ギターを習い始める。その後イギリス、ヨーク大学で作曲の修士課程を修了。作品は数々の賞を受賞し、ヨーロッパ、アメリカ、アジアの数多くのフェスティバルで演奏されている。現在、AHRB賞奨学金を得て、ヨーク大学博士課程にて研鑚をつんでいる。

【受賞の言葉】
私もコンクールに来ることができたことに感謝します。数日前から催されているコンサートも素晴らしかったですし、自分にとって忘れることのできない体験でした。これをバネにこれからも活動を続けていきたいと思います。作曲の過程についても多くを学ばせていただきました。

第2位
テオドール・パウス(ドイツ)
オーケストラのためのシーン

1969年生まれ。92年より99年までデュッセルドルフのロベルト・シューマン大学にて作曲、ピアノ、指揮を学ぶ。その後、ベルリンにてパウル・ハインツ・ディートリッヒとデニソフに師事。99年に現代音楽アンサンブル「Formation Klang」を創設し、ピアニスト・指揮者・監督として活動している。

【受賞の言葉】
このようなコンクールに参加できたことに感謝します。また東京という素敵な大都会に来ることができたことにも感謝したいと思います。

第3位
マイケル・ジョン・ウィリー(USA/メキシコ)
ハ長調によるツォルキン

1970年生まれ。ニューメキシコ州で生まれ、メキシコシティで幼少期を過ごす。1987年よりアリゾナに移住。アリゾナ大学作曲専攻を卒業。現在は、トゥーソン統一学区で音楽を教えている。

【受賞の言葉】
まず第一に、今日は本当に大きな冒険をさせていただきました。素晴らしいオーケストラで演奏されたことに感謝いたします。5年前からこの日のために頑張ってきた甲斐がありました。期待以上です。いろいろお世話くださった方々、ありがとうございました。


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東京オペラシティ コンサートホール/リサイタルホール


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