武満徹作曲賞

2018年度 武満徹作曲賞 ファイナリスト決定(審査員:ウンスク・チン)

2017.12.04

1997年に始まったオーケストラ作品の作曲コンクール「武満徹作曲賞」は、毎年ただ1人の作曲家が審査にあたります。
20回目(2005年と2006年は休止)となる2018年度(2017年9月29日受付締切)は、152の応募作品から、規定に合致した、40ヶ国143作品が正式に受理されました。そして2017年10月中旬〜11月下旬にかけて2018年度審査員のウンスク・チンによる譜面審査の結果、下記4名がファイナリストに選ばれました。

国籍別応募状況(PDF/191KB)

2018年度審査員 ウンスク・チン (韓国) Unsuk Chin (Korea)
© Eric Richmond / Arena PAL

この4名の作品は2018年5月27日[日]の本選演奏会にて上演され、受賞作が決定されます。
なお、譜面審査に際しては、作曲者名等の情報は伏せ、作品タイトルのみ記載されたスコアを使用しました。

ファイナリスト(エントリー順)

バーナビー・マーティン(イギリス) Barnaby Martin

[作品名]

量子

Quanta for Large Orchestra

1991年、ノーフォーク生まれ。ケンブリッジ大学を卒業。複数のコンクールに入賞し、作品はオペラ・ノース管弦楽団、セント・ポール大聖堂合唱団、バークレー・アンサンブル、プサッファ・アンサンブル、リゲティ・カルテットなど国内外のアマチュア及びプロの団体によって演奏されている。2017年、45分のカンタータ《キリストの誘惑》が、クリストファー・スタークの指揮、イルミナーレ合唱団とソリストによって初演された。この作品は2017年BASCA英国作曲家賞の合唱部門にノミネートされた。
https://www.barnabymartin.com/

Photo: George Naylor

ルーカス・ヘーヴェルマン=ケーパー(ドイツ) Lukas Hövelmann-Köper

[作品名]

量子真空

Quantum Vacuum for orchestra

1989年、カッセル生まれ。16歳から音楽活動をはじめ、2013年から独学で作曲を始めた。多くの受賞歴があり、最近では、初のオーケストラ作品《Aku Mau Hidup Siebu Tahun Lagi》がインドネシア・オーケストラ・アンサンブル賞を受賞。ピアノをウーヴェ・フォルクマー、ギターと作曲をユルゲン・フロムに師事。またブライス・パウセット、ディエゴ・ファインシュタイン、コルネリウス・シュベアの作曲講座に参加。2017年2月、ヴェニッヒセン修道院において、ベルトルト・ブレヒトの断片を元にした音楽劇『Hans im Glück』が初演された。2017年3月、シンガポールのナンヤン芸術学院から、ダブル・ウィンド・クィンテットを委嘱され、2018年夏に初演予定。2017年4月、国際的に有名な上海のSWATCHアートピースホテルのレジデンス・アーティストに選ばれ、6ヶ月滞在した。
http://hoevelmann-koeper.com/

Photo: Andrew Reid

ボ・リ(中国) Bo Li

[作品名]

SLEEPING IN THE WIND

SLEEPING IN THE WIND for orchestra

1988年、吉林省生まれ。複数の国際コンクールや音楽祭で成功を収めている作曲家。現在、アメリカのミズーリ大学カンザスシティ校の博士課程に在籍。2017年、北京の中国伝統楽器管弦楽ソサエティの執行役員の1人に任命された。2011年中国文化部主催のWen Huaコンクール第1位、2012年パウル・ヒンデミット賞、2012年Con Tempo国際作曲コンクール第1位、2017年ジェラルド・ケムナー・オーケストラ作曲コンクール第1位、2017年中国国際作曲賞から優秀賞に選ばれた。11の楽器のための室内楽《Mondlicht-Stadtmaur-Prosadichtung》はドイツのシコルスキー社から出版されている。

Photo: Li Zihe

パウロ・ブリトー(ブラジル/アメリカ) Paulo Brito

[作品名]

STARING WEI JIE TO DEATH 〜 シンフォニック・エヴォケーション、中国の故事による

STARING WEI JIE TO DEATH - Symphonic Evocation based on an Episode from Chinese Antiquity for orchestra

1987年、リオ・デ・ジャネイロ生まれの作曲家、ピアニスト。アメリカ、フランス、ウクライナで育ち、音楽と一般教養科目をキエフ、パリ、ニューヨーク、シカゴ、トロントで学んだ。コロンビア大学で古典文学学士号、シカゴ大学で比較文学修士号を取得し、現在はトロント大学で作曲の博士号を取得中。常に学際的に様々な分野を研究し、作曲家としてもオペラを最も複雑な総合芸術と捉えている。自身のプロジェクトでは、中国の音楽と演劇への関心から、異なる文化的伝統と同様に、異なる芸術分野の統合を目指している。

Photo:
Shengyu Wang

「2018年度武満徹作曲賞 譜面審査を終えて」  審査員:ウンスク・チン

【総評】

応募作品は143点で、様式的に5つのグループに分類できましたが、そのうちきわめて質の高い作品は35点あり、わずか4人のファイナリストを選ぶのは容易ではありませんでした。

審査に当たって私がもっとも重視した原則は、作品の構造および形式についての成熟した感性、熟達した作曲技術、個性、明確なアイディア、様式の一貫性、そしてシンフォニー・オーケストラのために作曲する手腕です。

主として創造性と技術を基準にしつつ、同時に4つの作品が十分に異なる作風であることも心がけました。周知のとおり、われわれの時代の音楽にはもはや共通項と呼べるものはありません。したがって、これらの4作を通して、コンテンポラリー音楽の世界における作曲様式の多様性を少しでも示せたらと願っています。

最終的に私の関心を惹き、上記の基準を満たしたのは次の4作品です。

【本選演奏会選出作品について】(エントリー順)

■ 量子

この作品では、作曲者がさまざまな作曲のアプローチを果敢かつ柔軟に追求する姿勢が特に目を引く。同時に、彼は複雑な構造を操り発展させ、音楽を有機的に展開させる手腕を持っている。オーケストラの可能性をフルに用いており、そのオーケストラの色彩の使い方は即座に強い印象をもたらす。

■ 量子真空

この作品には強い意志が感じられる。核となる一つのアイディアを綿密に追求し、最大限に活用している。作品は数学的に構築されているが、結果は理論的ではなく、聴き手は直感的でありながらコントロールされた音の塊に圧倒されることだろう。作曲者は「伝統的」な音楽のパラメーターには関心がなく、このアヴァンギャルドな作品の形式は、密度の違いから構成される。

■ SLEEPING IN THE WIND

きわめて音楽的かつ色彩豊かで、イディオマティックに書かれたオーケストラ作品で、視覚的にも印象が強い。明確なテクスチュアの対比と、曲全体の構造との関連には説得力がある。作曲者は鋭い耳を持ち、自分が書いている内容を完全にコントロールしている。オーケストラの用い方はイマジネーションに満ち、記譜も実用的で無駄がない。

■ STARING WEI JIE TO DEATH

ウェーベルン風の簡潔さを持つ作品。繊細で透明なテクスチュアは細部まで調整されており、不要な情報は一切ない。しかしながら同時に、きわめて表現力に満ちた音楽であり、楽章ごとに新しいものがもたらされる。テクスチュアは凝縮されているにもかかわらず、作曲者はシンフォニー・オーケストラの可能性を最大限に活かしている。

2017年11月27日 ベルリンにて
ウンスク・チン
(訳:後藤菜穂子)

◎本選演奏会情報

2018年5月27日[日]15:00
東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル

コンポージアム2018
2018年度武満徹作曲賞本選演奏会

審査員:ウンスク・チン
指揮:杉山洋一
東京フィルハーモニー交響楽団

お問い合わせ

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