曽根裕展|Perfect Moment

展覧会について

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展示は、1995年の《ナイト・バス》と1997年の《バースデイ・パーティ》の2点のヴィデオ作品です。現在の制作は彫刻作品が中心となっていますが、19台の自転車(モノサイクル)をつなぎ合わせ全員が協力して動かす《19番目の彼女の足》のようなプロジェクト型の作品や、ヴィデオ作品が曽根の制作の中心でした。《ナイト・バス》とい《バースデイ・パーティ》の2点は、曽根の初期作品の中でとくに重要なヴィデオ作品です。
1996年の第1回フィリップ・モリス・アート・アワードでグランプリを受賞した《ナイト・バス》は、アジアやアメリカ西海岸を走る夜行バスの車窓から見た風景が延々と続く作品です。揺れる車内から撮影した映像は、不鮮明で、夜行バスの中で誰もが体験する夢うつつの状態を思わせます。実はこの映像を撮影したのは作者の曽根裕本人ではありません。曽根が5人の友人に手紙をかき、行ったことのない土地を旅して撮影してもらい、それを自宅で約15分間の映像作品に編集したものなのです。現在の曽根が中国やメキシコの職人たちと一緒に制作を行っているように、この作品は、曽根と友人たちとのコラボレーション作品です。この作品で曽根は、個人の限界や制約を超えて、他者を巻き込むかたちで拡大する作者のあり方を示しています。

《バースデイ・パーティ》は、1997年にドイツで行われた「第4回ミュンスター彫刻プロジェクト」に出品され、曽根裕の名前を世界的に知らしめた作品です。この作品で、曽根はミュンスター市内で出会ったさまざまな人たちと一緒に毎日自分の誕生日を祝いました。バースデイ・ソングを歌い、ケーキのろうそくを吹き消し、その模様をヴィデオに収めたのです。22分に編集された作品は、ミュンスターの路面電車の駅の地下道に設置されたモニターで上映されました。プライベートな映像を公共の空間であえて公開し、個人と社会という関係を揺さぶって見せた展示でした。「ミュンスター彫刻プロジェクト」はもともと彫刻作品による国際展でしたが、曽根は、ディレクターのカスパー・ケーニッヒに、自分にとってヴィデオ作品は彫刻だと言ったそうです。誰もが経験するであろう、この世に生まれたことを祝う幸せな記憶、そのささやかな個人の歴史を彫刻にしたいと考えたのです。記憶や光景といった形のないものを彫刻にする。それは社会や公共に対して、新しい視点やものの見方を提示する、曽根の作品に一貫する姿勢と言えるでしょう。

《ナイト・バス》
VHS 1995年 Private collection

《バースデイ・パーティ》
DVD 1997年   Courtesy David Zwirner, New York

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東京オペラシティアートギャラリー