COMPOSIUM 2003
ジョージ・ベンジャミン メール・インタビュー


●part 1「武満徹作曲賞」について
●part 2 作曲、指揮、そしてプライベートについて



作曲、指揮、プライベートについて

■では、ご自身のことについてうかがいます。作曲家、指揮者になろうと思われたきっかけはありますか? また2つの活動をどのように両立されているのでしょうか。指揮者としての活動は、作曲に影響していると思われますか。

GB 私は幼いときからずっと楽器を演奏していました。音楽生活の始まりはリコーダーでしたが、興味はすぐに、私にとってのメインの楽器、ピアノに移りました。そのあと、短期間でしたが、フル−ト、オーボエ、そして打楽器までやりました。学校では、たくさんの劇のために付随音楽を書き、たいていはピアノを弾きながら指揮していました。ですから、特別の考えもなく指揮を始めていたようなものです。ケンブリッジではある学生オ−ケストラを1年間任され、変化に富んだ曲目でプログラムを組みました。(なかにはベ−ト−ヴェンの3つのシンフォニーも含まれていましたが、当時の私の未熟な指揮ぶりがもたらした結果を思い出すと、いまだに恥ずかしい気持ちに襲われます。)それから、初めて出版された私の曲が演奏され始めると、あちこちから指揮の依頼がくるようになり、だんだんと新旧を問わず他の作曲家の作品もプログラムに加えて指揮するようになった、というわけです。

 作曲とは ─ 少なくとも私にとっては ─ 孤独で辛い作業ですが、指揮することは一種ふしぎな解毒剤になっています。初めての土地を訪ねたり、新しい曲目を指揮するときの刺激は得難いものです。また、一、二のアンサンブル(たとえばロンドン・シンフォニエッタやアンサンブル・モデルン)との結びつきは、ここ数年来、私にとって大きな意味をもつようになっています。ほかの作曲家たちの世界に入りこみ、その人たちの作品を生あるものにするという作業は、喜びを与えてくれるものです。そして、自分自身の作品を指揮し、いろいろやってみて、自分が作曲中に思い描いたことに近い何ものかを達成する ─ もちろんこれはすばらしいことです。しかし一方で、私は自分の曲が他の指揮者によって演奏されるのを聴くのも好きです。とりわけその曲に対する共感に満ちた解釈を聴きとることができれば、なおさらですね。そして、作曲を完成するために多くの時間と平安が必要になってくるにつれ、日課を厳守するようになり、指揮のための契約を何か月分もいっぺんに破棄してしまうこともたびたびあります。

 指揮することは私の作曲に影響を及ぼしているでしょうか? たしかに、他の同時代の音楽に身近に接することはこちらを豊かにしてくれますし、ときには、めぐりあった新しい曲が私のイマジネ−ションに大きな影響力をもつこともあります。また、演奏家たちと途切れなくじかに接していることだけが唯一とてつもなく有益なことなのかも知れず、それが私にとって、今まで以上に明確な記譜を実現し、楽器の性能についてより深い知識を手に入れるうえで助けになっているように思えます。しかし、ここ数年間で私の作曲に最大の影響をもたらしたのは、まちがいなく、教えることでした。若い作曲家たちとのつきあいと、学生のために私の好きな曲のアナリーゼを準備することの両方を通じてです。


自宅の庭にある作曲小屋らしき部屋


■どのような趣味をお持ちですか。自由な時間をどのように過ごされているのでしょう?

GB 読書が好きです(フィクション、歴史もの、サイエンスもの、音楽もの・・・)、特に作曲中は。私には視覚的想像力があるらしく、絵や写真は私にとって非常に重要ですし、映画もそうです。ときには、わくわくしながら自然のままの景色を求めて遠くまで旅をします。オ−ケストラや音楽祭から遠く離れて、パタゴニア、グリーンランド、ナミビア・・・などまで。

■好きな食べ物、嫌いな食べ物を教えてください。

GB 私は種々さまざまな食べ物を愛しています。それはわが師メシアンによって大いに奨励されたような面がありますが。日本料理は、その多様さのすべてが、私に強い感銘を与えていることは言うまでもありません。




■好きな本、作家、また最近見た映画や本で気に入られているものはありますか。

GB 現代の小説を大いに楽しんでいます(特にW.G.ゼーバルト)、もっとも私が最大の情熱を注いでいるのはジョセフ・コンラッドなのですが。映画ではとりわけ夢中なのがキューブリックです。彼のスタイルは非常に大胆で、少しも妥協がない。そして映像の質がとにかくすばらしいのです。しかし、小林正樹の「怪談」は、私にとって、視覚的に最大の衝撃を受けた映画にまちがいありません。また、ヒチコック、スコセッシ、クロサワにも敬服しています。最近のポール・トーマス・アンダーソンの映画にもたいへん感動しました。画家では、フェルメ−ルを崇拝しています。他にも、ジオット、ブリューゲル、シャルダン、ターナー、カスパル・ダヴィト・フリードリヒ、モネ、ピカソなどが好きです。また最近は、あまり知られていない画家ですが、ライオネル・フェニンガーのいくぶん装飾的な1920年代の風景画のいくつかにとり憑かれています。


■日本にどのようなイメージをお持ちですか。

GB 幸い、私はこれまで2度日本を訪れる機会がありました。初めは国際ウェーベルン会議に参加するため、もう1回は、私の作品《ヴィオラ、ヴィオラ》の東京オペラシティにおける世界初演に立ち会う(実は指揮までしましたが)ためでした。そのときの印象のなかから思いつくままいくつか選んでみましょう。


《ヴィオラ、ヴィオラ》世界初演時
左からユーリー・バシュメット(Va)、ベンジャミン、今井信子(Va)
1997年9月16日 東京オペラシティ コンサートホール
photo (c) 大窪道治


・・・京都にあるいくつもの庭園の荘厳な美、奈良にある巨大な木彫りの彫像の恐ろしいほどの迫力、東京の明治神宮で武満さんと神秘的な一夜を過ごしたこと ─ それは早過ぎた彼の死のわずか数週間前のことだったのですが ─ 、すぐれた映画監督の勅使河原氏を草月会館に訪ねたこと、東京の地下鉄における平静さと礼儀正しさ(いっぱいの人混みにもかかわらず)、比べようもないくらい素敵な文具店・・・

(おわり)


※写真は、メールインタビューとは別の機会に撮影したものです。
(c) 東京オペラシティ文化財団