COMPOSIUM 2003
ジョージ・ベンジャミン メール・インタビュー



ジョージ・ベンジャミン


「求めるのは想像力。その才能を芽のうちに見いだしたい。」

2003年度武満徹作曲賞審査員として来日し、「コンポージアム2003」期間中、自作自演を含む大規模な催しに参加するジョージ・ベンジャミン。現代イギリスを代表する作曲家である彼をもっと知るために、電子メールによるインタビューを行いました。
2002年12月

●part 1「武満徹作曲賞」について
●part 2 作曲、指揮、そしてプライベートについて



「武満徹作曲賞」について

■まずは、武満徹作曲賞についてうかがいます。この作曲賞の最大の特徴である「単独審査員による審査」についてお聞かせください。単独審査であることの利点、また難しさをどのように感じられましたか。

ジョージ・ベンジャミン(以下GB)
妥協 ─ それが、審査員を務めた数多くの審査員会で私が直面した最大の問題でした。ほとんどの場合、大多数の審査員に反感を持たれる度合いが最もすくないものが賞を獲得することになります。時として、真の創造性をもった作品は、─ 奇抜なものはなおさら ─ このような状況のもとでは、上々の首尾は得られません。しかし、音楽は、何にもまして、私たち個々に語りかけてくるものであり、独りの個性による選択は、ひとつのグループの選択、それがいかにすぐれ、いかに公平であろうとも、よりもずっと興味深いものです。

 とはいえ、唯一人のメンバーによる審査員会の問題点は、それなりに明白で、それは、或る方向のスタイルには好意的で他のものには好意をもたないという偏りがあるという点です。いかに偏見にとらわれない寛大な芸術的感性の持ち主であっても、独りの人間が、現代芸術のあらゆる語法を受け入れることは不可能です。実のところ、もしそんなことが可能だというのなら、それはそれで非常に怪しげなことに思われるでしょう。

 これらのディレンマを、武満徹は、天啓のような単純明快さと大胆さとで解決したのです。すなわち、彼の名を冠するこのコンクールは、個人に審査を委ねるのだが、その権限を1年に限っているのです。




■ファイナリスト発表のコメントに「強い個性の発揮する発言はあまりみられなかった」と書かれていらっしゃいますが、これは若い作曲家の全体的な傾向なのでしょうか。またその原因はどこにあると思われますか。

GB 強烈な個性の持ち主は、いつの世でも、どんな芸術の分野でも、稀です。しかし、楽譜を読んでいて、並みでない新鮮ななにかに出くわすことがあれば興奮を覚えるものです。たとえそれが、より完成度が高くても紋切り型でしかない作品よりも技術的達成度がより低いようであっても、です。われわれが求めているのは、結局のところ、想像力であって、単なる専門技術ではないのです。
 しかし、そのような想像力 ─ そしてそれを追求する勇気、力、運 ─ は、つねに例外でしかないでしょう。ですから、その希少性は単に現代的な現象であるとは私は思いません。私の唯一の望みは、私に力があってそのような才能を見いだせること、それも才能が芽を出しはじめる状態のときに、ということなのです。


■指揮者としても活躍されるベンジャミンさんですが、指揮者としての視点が審査に反映されたと思われますか。

GB 私の指揮者としての活動は、はじめての楽譜を読むうえで ─ そして、それを頭の中でイメージするうえで ─ たぶん役に立っています。さらに、その楽譜の記譜と書法の実践的側面についての見通しも与えてくれています。しかしながら、指揮者としての活動は、私の最終的な候補者の選定にたいしてほとんど影響を与えなかったと思います。


自宅の居間にて
(左は音楽学者の岡部真一郎氏)



→part 2 作曲、指揮、そしてプライベートについて