オリヴァー・ナッセン特別インタビュー PART3


「《かいじゅうたちのいるところ》は、子ども向けに妥協しないで表現したからこそ、子どもにも受け入れられるのでしょう。」

猿谷紀郎(以下S):《ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!》と《かいじゅうたちのいるところ》についてお話を聞かせてください。

オリヴァー・ナッセン(以下K):もうすぐドイチェグラモフォンから新しく録音したCDがでる予定ですので、聴いてください。この二つの作品はできたらいっしょに上演して欲しいです。《かいじゅう》はそれだけでもいいんですけどね。《ヒグレッティ》は、私の問題ですが、85年の録音から、ようやく15年たっていい作品になりました。音がよくなったのです。最初のレコーディングもとてもよかったのですが、歌手もかわって、さらにいい録音になりました。オーケストラはこの15年以上もの間で、50回から60回演奏していますから、まとまりがいいですよ。

S:ライヴ録音ですか?

K:1999年3月にアビーロードで録音しました。ビートルズが録音した特別のスタジオです。

S:どんなキャスティングなのですか?

K:《ヒグレッティ》の主役は、シンシア・バッハン(ビュシャン)です。この人はグラインドボーン公演のビデオでも歌っています。《かいじゅう》の主役マックス少年は、リサ・セイファーです。コロラトゥーラです。この役は以前ローズマリー・ハーディがとてもうまく歌いましたが、それと同じくらいすばらしい。彼女たちをはじめ、いつもいっしょに仕事をする歌手たちが参加してくれています。ローズマリーはもちろん、デイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン(バリトン)、クリストファー・ギレット(テナー)、メアリー・キング(メゾソプラノ)などです。グラインドボーン公演以前から、もう何年もいっしょに仕事をしています。彼らは私の許容範囲をよーくわかっていて、また私は彼らがその枠を出ないということを知っているので、彼らのやりたいようにやるという自由をあげています。このCDは、私の人生のなかで最も大切なものだと思っています。この二つの作品がいっしょに入っていますから。あわせて1時間45分、長いですけどね。


かいじゅうたちのいるところ
モーリス・センダック作「かいじゅうたちのいるところ」より
"Illustrations from WHERE THE WILD THINGS ARE,
copyright (c) 1963 by Maurice Sendak.
All rights reserved. Used with permission."



S:センダックの台本ですよね。

K:そうです。

S:センダックとの仕事はどのように始まったのですか?

K:1975年のことですが、ボストンで私の作品が演奏されたのを聴いた人が、センダックに電話をしたんです。もしあなたの作品をオペラにしたいのなら、いい作曲家がいるよ、って。その人は私にも連絡をくれました。センダックと私も会い、お互いにとても親しくなりました。《ヘンゼルとグレーテル》みたいなものばかりの退屈な子ども向けのオペラについての意見も一致して、まず《ヒグレッティ》の台本の準備を始めました。初演されるずいぶん前のことです。そして78年、ブリュッセル・オペラから《かいじゅうたちのいるところ》のオペラ化を委嘱されました。彼は私に作曲しなさいと言い続け、80年までかかりました。83年のロンドン初演の前に改訂しました。それからグラインドボーンのためにBBCが《ヒグレッティ・ピグレッティ・ポップ!》を委嘱してくれました。彼のほうがずっと早く仕事を済ませていましたが、私はいつも遅くてね(笑)。ところで、彼の作品を読むには私はもう年齢が高いわけです。彼は、心理的、様式的にも複雑な高いものを持った人で、彼の作品にそれらが投影されているわけです。彼の絵は、イギリス田園調だったり、アメリカの漫画風だったり、多様です。でもどれもセンダックなのです。その絵の印象を壊さないように、しかも複雑な彼の内面も表現し、音楽との合体を目指さなければなりませんでした。《かいじゅうたちのいるところ》も、子どものための絵本ですが、彼の考えを子ども向けに妥協しないで表現したかなりシリアスなものです。ですから子どもに受け入れられるのでしょうね。実にユニークです。


S:これらはもちろんいわゆる劇場で上演されるオペラですが、コンサート形式での上演もしばしばおこなっていらっしゃいますよね。それは最初から意図していたことなのですか?

K:正直なところ、《かいじゅう》が上演された初期のころ、特に先生たちが、子供向けなのにこんなにむずかしい曲を、とけっこうショックを受けていました。BBCのある人がブリュッセルまで観にきて、ロンドンで決まっていた公演をキャンセルすると言うので、この作品を救うために、演奏会形式で上演できるように手をいれました。それ以降、演奏会形式での上演をたくさんしています。作りなおすのはたいへんでしたけど。40分のオペラのはずでしたが、1時間かかってしまう。グラインドボーンの時は、間奏曲がなかったんです。その後80年代の終わりに間奏曲を作曲し、物語なしでも上演できるようになりました。


オリヴァー・ナッセン+猿谷紀郎


S:最後に音楽から離れた話題にうつります。センダックも食べ物にこだわっているようで。あなたはいかがですか? 日本の食べ物では何が好きですか。

K:ほとんど好きです。納豆をのぞいて。和食は健康的だし、おいしいし!

S:好きなところはありますか?

K:明治神宮、代々木公園が好きです。それから今回、近藤譲さんが鎌倉の報国寺に連れていってくれました。竹林のある小さなお寺で、気に入りました。それにこのホテルの部屋からは富士山が見えて嬉しかった。今回はツーリストとしても楽しみました。

S:ありがとうございました。

K:こちらこそ、ありがとう。5月にまたお会いできるのを楽しみにしています。


おわり)




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