オリヴァー・ナッセン特別インタビュー PART2


「コンポーザー・コンダクターとして」

猿谷紀郎(以下S):作曲家と指揮者の生活をどう住み分けていらっしゃるのですか?

オリヴァー・ナッセン(以下K):それぞれの時間の配分はとても難しいです。ここのところ、家を買ったり、家庭の問題やら何やかやと予期せぬことも起きましたしね。でもだいぶ落ち着きました。引越しも時間がとられてたいへんです。

S:素敵な家を買ったんですよね?

K:いや、ただの田舎のコッテージです。でも、居心地はいいですよ。

S:作曲と指揮とどちらが心地よいですか?

K:誰かが私の作品を指揮しているのを聴くのが一番いいですね。

S:なぜですか?

K:印税は入るし、楽じゃないですか(笑)。まあ、自分の作品を自分で指揮をすると「安全」ではありますが、逆に、聴いていて「安全」を感じる指揮者もいますから。サロネン、ラトル、それとティルソン=トーマスですね。それと、自分の既存の作品を演奏してもらうのが気が楽ですね。作曲家にとって、初演、初演、初演と、いつも初演ばかりの、そういう時期を卒業するのは大変ですよね。作品が蓄積され何回も演奏されるようになるのがいいのです。

S:作曲家であり指揮者でもあるということは、どのような相互作用をもたらしますか?

K:選曲のプライオリティがいわゆる通常の指揮者とは異なりますね。サロネンもバーンスタインも作曲家ですよね。ティルソン=トーマスもね。古くはウェーベルンが卓抜です。彼等は、いかにワイルドな指揮でも内面にすばらしい形式美を持っていると思います。たとえばウェーベルンのルバートなど、自在さには限りがありませんが、でも構造は壊れないんです。あの遅い速度、びっくりです。また、私は作曲家が指揮をしているレコーディングをじっくり勉強しています。自分がやっていることが正しいかどうかを確かめる意味もあります。エルガー、ストラヴィンスキー、ブリテンなど。

オリヴァー・ナッセン+猿谷紀郎


S:くだらない質問かもしれませんが、尊敬する指揮者はいますか?

K:
ストコフスキーはとても尊敬しています。若いころリハーサルを見学したことがあります。信じられないくらいムラがあるんですけど、彼の音に対する感覚はすごいの一言です。それからドラティの録音もすばらしいですね。彼も作曲家です。サロネン、ラトル、ティルソン=トーマスは当然ですが、ジェイムズ・レヴァインをとても尊敬しています。現代曲を積極的にとりあげつつ、メトロポリタン・オペラ(MET)の監督としてもよく働きます。METのオペラがいつ見ても最高の質を保っているのは凄いことです。

S:たしかに、レヴァイン率いるMETオーケストラの演奏を、オペラ座ではなく、音響の良いコンサートホールで聴いてみたいという声は大きく、私は、幸運にも彼らが初めてカーネギーホールで開いた演奏会を聴くことができました。今でも忘れられない素晴らしい演奏でした。

K:私は、クラフトマン(職人)気質がある人に惹かれます。それと個人的な栄光ばかりを追わない人にね。ブーレーズもすばらしい。それとブルーノ・マデルナ。彼の仕事ぶりをタングルウッドで知りました。全くエゴがないんです。狂ったような作品でさえも、演奏する側が彼を尊敬し、ついていきます。それから、ラインベルト・デ・レウ。彼はオランダで自分のアンサンブルを持ってすばらしいプログラムを展開しています。小澤さんもたいへん尊敬しています。素晴らしい才能、実にクリアですし、リハーサルテクニックは光ってますね。私はタングルウッドで彼とボストン響の《ヴォツェック》のリハーサルに立ち会いました。5回のリハーサル。それはそれはファンタスティックでした! 準備万端で、今までに聴いた《ヴォツェック》の中でも最高のものでした。また、私は年齢の高い指揮者のビデオをよく見ています。リハーサルがおもしろいですね。彼らの時間の使い方に興味がわきます。言葉はあまり発しません。基礎的な指摘をするだけで、あとは目と心理戦術です。

S:指揮者として演奏会のプログラムを組む時、何を優先しますか?

K:まず、どの作品なら指揮ができるか。それから、聴衆にとって魅力的なプログラムかどうかを考えます。次は、いい結果を出すためにリハーサルをどのように組めるか。この点については、私はとても実務的です。一方で、私の好みと主催者の意向とが一致しないときもあります。今回(2000年11月)N響(定期公演)のプログラムについては、N響がギル・シャハムを独奏者として決めてくれたし、大好きなベルクのヴァイオリン協奏曲を選びました。それと、サウスバンク・センターが委嘱した近藤譲さんの作品を組み合わせ、いっぷう変わったものにしたかったので、ストコフスキー編曲の《展覧会の絵》ならば、他の作品との差もあるし、影響が少ないし・・・といった具合です。



オリヴァー・ナッセン (c)Michiharu Okubo


S:N響とは何回目ですか?

K:3回目です。優れたオーケストラです。反応が早いし。特にベルクと近藤はよかった。今回はリハーサル時間が非常に限られていたにもかかわらずね。

S:オペラシティの音に何か変化を感じていますか?

K:最初の頃に較べて、木が年を重ねて、温かみが増しているのがわかります。とても印象的なのは、あの空間に緻密な計算のもとに音が伝えられていることです。最弱音を出すのが大変なのですが、オーケストラもいっしょうけんめい弾けば対応できます。それはいいことです。素晴らしいホールですよ。あと、サントリーホールで指揮をするのもいいですね。私は客席で聴いたことはありませんが、ステージで聴く音は最高です。それから今日、日生劇場を見せてもらいましたが、やはり素晴らしかった。中にいてとても心地よい劇場です。とにかく、東京はこんなにたくさんいいホールがあって、私はとても嫉妬しています。ロンドンに一つでもこんなホールがあればねえ。一番いい音がでるのは、ロイヤル・アルバート・ホールなのですが、これは演奏会のために作られたホールではないのです。競技場ですよ。小さなシューボックスのウィグモアホールをのぞいて、ロンドンのホールはどこもひどい!(笑)


PART3へつづく)




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