本展に寄せて:メッセージ
Messages to the Exhibitions

片山正通

人は何故、アートをコレクションするのだろうか? 僕もコンセプチュアルアートを中心に少しずつだけどコレクションをしている。実は最初の所有作家がライアン・ガンダーの And who knows (Associative Photograph #15) と言う摩訶不可思議な平面作品です。「何故それを購入したか?」と問われたら、正直なところその作品の「意味がよく理解出来なかったから」としか言えません。言い換えれば“知的敗北感”を購入した事になるのです。 そしてまずい事にこれが癖となり、新しい作品が発表される度、ひとつずつひとつずつ購入しコレクションをする事になったのです。この購入するという行為がもしかしたら“知的敗北感”に唯一、勝利出来る行為だと感じていたからかもしれません。 そして作品オーナーとしての権限を振りかざし、個人的な解釈を加えたり、作家の気持ちになってみたり、作品のコンテキストを語ってみたり、好き放題しているのです。

前置きが長くなりましたが、“ライアン・ガンダーが選ぶ収蔵品展”、まさしくとあるコレクション(故 寺田小太郎のプライベート・アイ・コレクション/東京オペラシティアートギャラリー収蔵品)にまつわる物語が、この展覧会のテーマになっています。
本来であればライアン・ガンダー展が予定されたこの時期、コロナ禍に於いてある意味、代替案としての“収蔵品展”。その連絡に待ったをかけたライアン・ガンダー。「僕に出来る事があればなんなり」はい!そうです。彼きっと思いついちゃったんです。
皆さん決して騙されないでください。
そうこの展覧会は、このコロナ禍という特殊な状況でしか出来ない、紛れもなく新しい形態でのライアン・ガンダー展なのです。

決して出会う事の無い故 寺田小太郎とライアン・ガンダーは、時を超えコレクションという宇宙の中で、このイベントについて語りあったのです。
全ては偶然、全ては必然。その矛盾する二つの条件が揃った時、ライアン・ガンダーは何不自由なく展覧会制作を始めます。ある時は寺田の肩に隠れ、ある時は寺田を差し置いて、ある時は寺田と肩を組んで。おおらかな寺田を良い事に、ライアンは無邪気にドラスティックな提案をしながらこの展覧会をプロデュースし、“解釈と言う自由”を十二分に楽しんでいるのです。(これも僕の勝手な解釈?妄想?放っておいてください。)

解釈するという遊びは本当に面白い。所有しているライアンの作品に対し、僕は微かな情報を頼りに勝手に想像し、物語を作り上げ、ある意味思考の捏造を繰り返す事で初めて僕にとっての作品にしていくのです。
きっとライアンは、寺田のコレクションに乗り込んで、僕がしている事と同じように、楽しみながら展覧会を作り上げて行ったに違いない。

これ以上の説明はもう要らないと思います。答えはあなたの中ににしかありません。ライアンの仕掛けたゲームの中で、もしかしたら彼が考えた以上にあなたの中に面白い解釈が生まれるかもしれません。

そして最後に妄想。
皆さんが東京オペラシティアートギャラリーの会場を彷徨いながらあれこれ想いをめぐらせ、思考のゲームを楽しんでいるその光景を、ライアンは上から眺めながらニヤリまたゲラゲラ笑いながら観ているに違いありません。
あっ、ちょっと待って下さい!
もしかすると「僕はライアン・ガンダーの作品をコレクションし“知的敗北感に勝利する”」という状況を、ライアン・ガンダーにコレクションされているのかもしれない?・・・
嗚呼、よく解らなくなって来ました。これだからアートという遊びはやめられないのです。


追伸
僕はインテリアデザイナーです。

彼の空間を操る技術、そしてコンセプトを見える化するアウトプットのセンスは最高です!コミュニケーションにおけるあの手この手の戦略は驚きの連続。
ライアン・ガンダーが生業としてインテリアデザイナーを選択しなかった事、神に感謝です。

片山正通
photo: Kazumi Kurigami

片山正通

インテリアデザイナー
Wonderwall® 代表
武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授

1966年、岡山県生まれ。ファッション等のブティックからブランディング・スペース、大型商業施設の全体計画まで、世界各国で多彩なプロジェクトを手がける。2020年、オランダのデザイン誌主催の「FRAME AWARD 2020」でLifetime Achievement Awardを受賞。
www.wonder-wall.com