展覧会について Exhibition

今もっとも注目される写真家ライアン・マッギンレー

ライアン・マッギンレーの名前を一躍有名にしたのは、まだほとんど無名だった彼が2002年に制作した最初の写真集『キッズ・アー・オールライト(The Kids Are Alright)』でした。インクジェットの手づくりによるこの写真集をマッギンレーは編集者や美術関係者に送ったところ、『Dazed & Confused』『Index』『i-D』などの雑誌からオファーが届き、翌年にはホイットニー美術館で個展が開催されました。25歳という若さでの個展は、ホイットニー美術館の歴史で最年少を記録するものでした。「アメリカで最も重要なアーティスト」と高く評価され、以後、アメリカ、ヨーロッパで数多くの個展を開催し、日本はもちろん世界的に注目される人気アーティストとして活躍をつづけています。
本展では、最初期の〈出会い〉シリーズから、〈ロード・トリップ〉、〈モリッシー〉、〈イヤーブック〉、〈グリッド〉、〈アニマルズ〉、そして最新作の〈秋〉〈冬〉までのシリーズから厳選した約50点で、マッギンレーの全体像を紹介します。

《Ivy (Bubbles)》
c-print 2015
Courtesy the artist and Team Gallery, New York

解放された精神の自由を捉える「ヌード」の美しさ

マッギンレーの作品に登場する人物たちは、そのほとんどがヌードです。とくに特徴的なのが、見渡すかぎりの広大な草原のなかを疾走し、小高い木の上から飛び、雪原に横たわる全裸の被写体たちの奇妙な行為です。彼らは皆プロのモデルではなく、マッギンレーは、衣服を脱いだ彼らがふと垣間みせる一瞬のふるまいを作品にしています。マッギンレーのヌード写真は、表面的な美しさと言うよりも、日常の制約や束縛から解放された精神の自由を捉えているといえるでしょう。被写体となる人物が、思わず自己を忘れて自由奔放に振る舞う瞬間こそが、モデルとの共犯、つまりマッギンレーが共同作業と呼ぶ制作姿勢なのです。

《Jessica & Anne Marie》
c-print 2012
Courtesy the artist and Tomio Koyama Gallery}

撮影を”演出する”取り組みへと変化した〈ロード・トリップ〉

マッギンレーの代表作の数々が生まれ、彼の作品の代名詞ともなっているのが、2004年から着手された〈ロード・トリップ〉シリーズです。2004年夏、マッギンレーは、モデルになる友人たちと一緒にアメリカ横断旅行に出かけ、北米の豊かな自然を背景に撮影を行いました。この 〈ロード・トリップ〉は、2013年までの10年間続けられました。
〈ロード・トリップ〉では、マッギンレーは撮影に先立って、モデルたちに自分が集めたさまざまなヴィジュアルイメージをまとめた「インスピレーションブック」をみせて、イメージを共有します。ヌードの若者たちが、広大な草原を走り、木の上からジャンプするなど、本人が思わず自己を忘れて自由奔放に振る舞う瞬間、一糸まとわぬ姿で人間の中に秘められた野生の姿を捉えています。また〈ロード・トリップ〉では、「古き良きアメリカ」を思わせる牧歌的で平和な田園風景が印象的です。ロード・ムービーのような終わりなき旅、そして出会いが作品と直結していると言えるでしょう。

《Mellow Meadow》
c-print 2012
collection of Mr. Enomoto Yuichi

500枚のポートレートで構成する大作〈イヤーブック〉

野外での撮影と並行して、マッギンレーは2008年以降ニューヨークの市内でモデルをスカウトして、スタジオでヌードになった彼らを撮影するプロジェクトを行っています。これがライフワークとして今も続く〈イヤーブック〉(英語で年鑑、高校や大学の卒業アルバムを意味する)と呼ばれるシリーズです。2014年にニューヨークのティーム・ギャラリーでの個展では、同ギャラリーの壁から天井までを埋め尽くす空間インスタレーションとして発表され、その色彩とイメージによって強烈なインパクトを与えました。今回はアートギャラリーの展示室の壁面約30メートルをつかって展示されます。色とりどりの背景のポートレイトを大小さまざまに自在に配置したインスタレーションは必見です。

《YEARBOOK》(detail)
vinyl stickers 2014
Courtesy the artist and Team Gallery, New York

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