ザハ・ハディド

展覧会について

I アンビルトの時代/日本との関わり

イラクの進歩的な家庭に生まれたザハは、多様な文化的背景をもつ人々と交流しながら少女時代を過ごし、ベイルートの大学で数学を学びました。その後1972年に渡英したザハは、幼いころからの夢であった建築家を目指して英国建築家協会付属建築学校(AAスクール)に入学します。ここで当時講師であったレム・コールハースに出会い、卒業後は彼の主宰するOffice for Metropolitan Architecture (OMA)に参加、3年後の1980年には自身の事務所を設立します。
独立後、〈ザ・ピーク〉の国際コンペティションで1等になるなど早くから世界的な注目を集めるようになりましたが、そのどれもが計画の途中で中止となり、10年以上にわたって実作に恵まれませんでした。しかしこの時期は建築と都市に関する膨大なリサーチと実験を繰り返した期間でした。この間には日本と関連するプロジェクトも存在し、札幌のレストラン〈ムーンスーン〉の内装がキャリア初の実現プロジェクトとなりました。
本展の前半では、「アンビルトの女王」と呼ばれた時代にあって精力的に描かれたペインティングやドローイング、都市や空間の可能性を探った模型、札幌のレストラン内装を含む3つの日本のプロジェクトなど、初期の仕事を紹介します。

〈ザ・ピーク〉香港 1982-83
ヴィクトリア・ピーク山上のレジャー・クラブ建設に際して行われた国際コンペティション。500以上の応募案の中から当時無名のザハが1等に選出されました。審査委員のひとりは磯崎新。無数の破片が飛び散ったようなダイナミックなドローイングは建築界に衝撃を与えました。事業者の倒産によって計画は中止されましたが、このプロジェクトによってザハは世界的な注目を集めます。本展では今や伝説ともいえるこのドローイング群、模型がまとめて出品されます。
© Zaha Hadid Architects

〈ムーンスーン・レストラン(内装)〉
札幌 1989-90 完成

photo: Paul Warchol
© Zaha Hadid Architects

II 三次元を操る/形にこめられた意志

1993年〈ヴィトラ社消防所〉でようやく竣工の機会を得たザハは、その後つぎつぎにプロジェクトの実現に恵まれます。コンピュータによる三次元解析、施工技術の進歩や、建築の新しい姿を求める人々によって、前衛的すぎると言われ続けたザハの設計は現実のものになり、世界各国でプロジェクトが進行しています。
一目で印象に残るザハの建築ですが、その形はどのような考えにもとづき、生み出されるのでしょうか。〈ヴィトラ社消防所〉をはじめ、〈ベルクイーゼル・スキー・ジャンプ台〉、〈ロンドン・アクアティクス・センター〉、〈ヘイダル・アリエフ・センター〉など代表作の模型や映像、高層建築のスタディ模型などから、その思考と感覚を探ります。

〈ヴィトラ社消防所〉ヴァイル・アム・ライン 1991-93 竣工
photo:Christian Richters © Zaha Hadid Architects

〈ロンドン・アクアティクス・センター〉 2005-11竣工/2014 改修
2012年ロンドン・オリンピックの水泳競技場として建設された施設。
設計段階から、オリンピック期間中は17,000超の観客席 を擁し、閉会後は2,500席への縮小が計画されていました。2014年春 に縮小改修が完了。
photo: Hufton + Crow © Zaha Hadid Architects

〈リバーサイド・ミュージアム〉グラスゴー 2004-11 竣工
photo: Hufton + Crow © Zaha Hadid Architects

III シームレスな思考/プロダクトから都市計画まで

ザハの仕事の特徴のひとつとして、スケールを自在に行き来しながら設計を行っている点が挙げられます。指輪やブレスレットなどの装飾品から食器、家具、照明器具などプロダクト・デザインの仕事を多数行うと同時に、建築はもとより都市計画といった大きな規模のプロジェクトを手掛けるなど、ザハのデザインする対象にはスケールの境界がありません。そのデザインに一貫して見られるのは、「動き」に対する独特の視点と感覚です。一見すると奇抜に思える彼女の設計ですが、その作品は周囲のエネルギーを自然に取り込み、新しい流れを作り出すといった流動性に焦点を当てて作られていることがわかります。

〈MAXXI 国立21世紀美術館〉ローマ 1998-2009 竣工
ローマの中心部から少し離れた兵舎跡地を敷地とする美術館。やや混沌とした周辺の街区や地形にもとづいた川の流れのような外形は、建物内部にも連続しています。垂直、斜めの方向にも進む通路は、分岐・合流を繰り返しながら建物全体に都市的な重層性を与えます。外部から内部へ、また内部から外部へと、人々に漂流をうながすこの建物は、都市や人間の行動といったさまざまなレイヤーの流動性を内にも外にも包含しています。
photo: Iwan Baan © Zaha Hadid Architects

〈ヘイダル・アリエフ・センター〉バクー 2007-12 竣工
photo: Iwan Baan © Zaha Hadid Architects

〈アリア&アヴィア・ランプ〉 Slamp 2013
© Zaha Hadid Architects

〈リキッド・グレイシャル・テーブル〉 David Gill Galleries2012
photo: Jacopo Spilimbergo © Zaha Hadid Architects

IV 〈新国立競技場〉で目指すもの

2020年東京オリンピックの会場となる〈新国立競技場〉国際デザイン・コンクールは募集段階から注目を集めていましたが、ザハ案が採択されてからは景観や費用などの問題を巡ってさまざまな形で議論が行われ、メディアにも採り上げられてきました。はたして、ひとつの建築がこれほどの議論を呼び、一般的にも注目を集める機会が近年あったでしょうか。ザハの建築は、私たちが見ようとしなかったものを露わにするべく打ち込まれた楔(くさび)ともいえるでしょう。
展覧会では、コンクール応募から最新の計画までを展示することで、私たち自身の目で新しい建築を、そして東京の都市を考える場を作ります。

〈新国立競技場〉東京 2012-
© Zaha Hadid Architects

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東京オペラシティ アートギャラリー