エッセイ:世界を魅了するカウンターテナー フィリップ・ジャルスキー

注目のカウンターテナー、ジャルスキーが自身のアンサンブルとともに来日。ヴィヴァルディ、ヘンデルのプログラムを披露します。カウンターテナーのファン層を広げたジャルスキーの魅力を、フランス在住の音楽ジャーナリスト、岡田ヴィクトリア朋子さんにご紹介いただきます。

天使の声 フィリップ・ジャルスキー

岡田ヴィクトリア朋子(音楽ジャーナリスト)

デビュー以来20年間、抜群の人気を維持し続けるフィリップ・ジャルスキー。彼がデビューした1990年代はカウンターテナーという声域はまだまだポピュラーとは言えなかったが、端麗な容姿から発せられる、透き通った「天使の声」で鮮烈な印象を残し、レパートリーに新鮮な息吹を吹き込んだ。そして、バロック音楽、クラシック音楽の愛好家のみならず、それまでこれらの音楽に見向きもしなかった人をも振り返らせ、ファンにしてしまった。フィリップ・ジャルスキーによって、カウンターテナーのレパートリーが一気に知られるようになったと言っても過言ではないのだ。

デラーからジャルスキーへ 20世紀のカウンターテナーの系譜

カウンターテナーは、一部の教会などでかろうじて伝統が受け継がれてきただけでほとんど忘れられていたが、20世紀後半にバロック音楽が再評価され、レパートリーが復活するとともに再び興隆してきた。その最初の立役者はアルフレッド・デラー(1912~76)だ。俗にいう「頭声」を実際の演奏に蘇らせた彼がいなければ、現在の優れたカウンターテナーの存在はなかっただろう。彼を含む第一世代には、ジェイムズ・ボウマン(1941~)、現在は指揮者として活躍するルネ・ヤーコプス(1946~)、日本でも根強い人気を誇るドミニク・ヴィス(1955~)、もともとロック歌手だったジェラール・レーヌ(1956~)などがおり、その後アンドレアス・ショル(1967~)などの世代を経て、1980年前後生まれのマックス・エマヌエル・ツェンチッチ(1976~)、ザビエル・サバタ(1976~)、フランコ・ファジョーリ(1981~)などが現在脂ののった活躍を見せている。ジャルスキー(1978~)もこの世代だ。ちなみにもっとも新しい世代では、世界レベルのブレークダンサーでもあるヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキ(1990~)がいる。

テクノロジー時代のカウンターテナー

彼らはYouTubeなどの動画サイトの発展とともに新しいファンを得て世界的な名声を獲得した。ジャルスキーもその恩恵を大いに被った一人で、ヴィヴァルディのオペラ《ジュスティーノ》からのアリア「Vedrò con mio diletto」の視聴回数が総数で700万回を大きく超え、その名をさらに広めた。彼がこよなく尊敬するチェチーリア・バルトリも、この記録には及ばないという。「しかし視聴回数に舞い上がってはいけません。一番大事なのは舞台とCDです。でも、この動画のおかげでコンサートにきてくれた人が必ず何人もいて、アンコールでこの曲を聞けるのを楽しみにしてくれているんです。何よりも、全く忘れられていたレパートリーがこんな形で知られるのは、歌手としてはこの上なく光栄ですし、これをきっかけに若い歌手たちがこの曲を歌ってくれるようになって本当に嬉しい。」謙遜しながらこう語る柔らかな人間性が、ファンを惹きつけてやまない秘密かもしれない。

天使の声

ジャルスキーの一番の魅力は何と言ってもその透き通った声にある。カウンターテナーはあくまで男声なので、どんなに高い声でも女声とは異なった骨太さがあるのだが、彼の声は上にも書いたように「天使の声」と形容され、女声というよりは子供の声に近い、まれな色合いを持っている。その声はデビューから20年経った今でも全く衰えてはいない。バロックオペラでは、カウンターテナーには英雄や王の役が与えられ、その超人的な力の象徴として、細かい音を技巧的に目まぐるしく歌うのが目玉の一つだ。彼が歌うと、それぞれの音符がまるで楽器で弾いたようにはっきりと聞こえ、驚嘆させられる。それだけでなく、しっとりと歌い上げる場面では叙情性に溢れている。華麗な技巧と深みを兼ね備えた歌声で、聴くひとを虜にするジャルスキーの芸術をたっぷりとご堪能あれ。

東京オペラシティArts友の会会報誌「tree」Vol.137(2019年12月号)より

■公演情報

フィリップ・ジャルスキー
&アンサンブル・アルタセルセ

2020年3月13日[金]19:00
会場:コンサートホール

[出演]

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)
アンサンブル・アルタセルセ

[曲目]

ヴィヴァルディ:

  • ●歌劇『オリンピーアデ』序曲
  • ●カンタータ《やめてくれ、もうやめてくれ》
  • ●歌劇『オリンピーアデ』より リチダのアリア「眠っている間に」
  • ●歌劇『オリンピーアデ』より レチタティーヴォ「この剣で…」とリチダのアリア「私は呻き、同時に震える」

ヘンデル:

  • ●歌劇『ジュリオ・チェーザレ』より セストのアリア「傷ついた蛇はけっして休まぬ」
  • ●コンチェルト・グロッソ op.6より
  • ●セレナータ『パルナッソス山の祭礼』より
    オルフェーオのレチタティーヴォ「愛する人を失った後に」とアリア「私は愛しい人を失くしました」
  • ●歌劇『ラダミスト』より ラダミストのアリア「私の妻の愛しい亡霊よ」
  • ●歌劇『ラダミスト』より
    ラダミストのレチタティーヴォ「さあ来い、無慈悲な亡霊よ」とアリア「臆病者め、ぼくを生かしておこうと」

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[料金](全席指定・税込)

S:¥9,000 A:¥7,000 B:¥5,000

[チケット情報]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

インターネット予約

コンサート情報

フィリップ・ジャルスキー
&アンサンブル・アルタセルセ


2020年3月13日[金]19:00
会場:コンサートホール

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