Interview:B→C 山澤 慧(チェロ)

同時代音楽を得意とし、オーケストラからソロまで多岐にわたって活躍するチェリスト 山澤 慧。「昔から憧れのシリーズ」と語るB→Cで挑むのは、バッハの無伴奏チェロ組曲 全6曲からの抜粋と、若手作曲家6人に「バッハのプレリュードに繋がる曲を」と委嘱した新作6曲を交互に演奏する意欲的なプログラムです。同時代音楽に取り組むようになったきっかけ、現在の活動、委嘱した6人の作曲家についてなど、メールインタビューで伺いました。

山澤さんはとりわけ同時代音楽の演奏が高く評価されていますが、高校に入るまで20世紀音楽は全く知らなかったとか…。

そうなんです。高校時代、初めてショスタコーヴィチを聴いたことで20世紀音楽の響きに興味が出て、ストラヴィンスキーの《春の祭典》を聴いたことも大きな一つのきっかけでした。授業でバルトークの作品を分析したことも影響したかもしれません。

“新しい音楽”の演奏を、ご自身の大事な軸と意識したのはいつ頃ですか?

東京藝大入学後、友人や先輩や後輩の曲をたくさん弾くようになりましたが、ターニングポイントは2015年に現代音楽演奏コンクール「競楽」で優勝したことでした。 その後、専門的に学びたいと2017年の秋からフランクフルトで約1年、同時代音楽における世界最高の演奏集団アンサンブル・モデルンのチェロ奏者ミヒャエル・カスパー氏にプライベートレッスンを受けました。
カスパー先生の元で勉強し、感じたことは「古典的なレパートリーも新しい音楽のレパートリーも同じ」ということ。新しい音楽に触れるときに、一つ一つの音に意味を持たせるということにおいて、その曲の「本質」は何か?ということを、より深く考えるようになったのですが、それはクラシック作品に取り組む時も同じだと思いました。

現在の活動について教えてください。

オーケストラは藝大フィルハーモニアと千葉交響楽団で首席奏者を。さらに2015年に結成したアミティ・カルテット(Vn 尾池亜美/須山暢大、Va 安達真理)の活動は僕にとって本当に幸せなことだと感じています。
また同じ2015年からは無伴奏チェロ作品を集めて演奏する、僕にとってライフワークのような自主企画シリーズ「マインドツリー」も続けています。

B→Cもオール無伴奏。さらにバッハの無伴奏チェロ組曲と新作を挟んだプログラムです。

最も自分らしい選曲を考えた時、それは「マインドツリー」と「B→C」を絡めることでした。
無伴奏チェロのためのレパートリーを20代のうちに増やしたいと、ここ数年は集中的に20世紀以降の無伴奏チェロ作品に取り組んできましたし、2017年の「マインドツリー」で全曲新作によるリサイタルを開催した際も手ごたえを感じていました。
さらに憧れのチェリスト、ジャン=ギアン・ケラスがバッハ各曲の「プレ・プレリュード」として6人の作曲家に委嘱を行い(フェデレや野平一郎さん、望月京さんらがそのために新作を書かれています)、バッハの全曲演奏会を行なっていたこと等にも影響を受けました。
新しい作品をたくさん演奏することは、100年後のレパートリーを開拓することに繫がるとも考えていて、やりがいや使命感を感じているのですが、なんといっても楽しいから続けられているのだと思います。

J.S.バッハ《無伴奏チェロ組曲》についてもお聞かせ下さい。

まず第1番を最初に、第6番を最後にすることは決めていました。プレリュードと(各舞曲最後にある)ジーグ以外の舞曲を選択することについては、なるべく自然な流れになるように選曲したつもりです。
全てのチェリストがそうだと思いますが、やはりバッハの無伴奏チェロ組曲はライフワークのような作品だと思います。
以前はなかなか超えられない壁のような存在でした。「こう弾かなきゃいけない」という意識もあったかもしれませんし。もちろん難しいことに変わりはないけれど、最近はもっと親密に、自由に弾きたい、その時その時に表現できるバッハを演奏すればいいと思うようになり、少し楽になりました。

新作を委嘱した6人の作曲家について、ご紹介ください。

久保哲朗くんは藝大の後輩で、いくつか作品を演奏してきました。2017年作曲の《ピポ・ッ・チュ》を弾いた時、彼ならではの爽やかな印象を受けました。

向井航くんも藝大の後輩で、僕が住んでいたフランクフルトと近いマンハイムで勉強していて、留学中、一番交流があった作曲家でした。当時ベルリンで行われたメンデルスゾーン全ドイツ音楽大学コンクールで、彼の書いたチェロとソプラノと電子音響のための作品を僕が演奏し、その作品は独連邦大統領賞を受賞しました。彼の作品は「若いエネルギー」というか破天荒というか、とても魅力的です。

高橋宏治くんの新作は数多く演奏していて、そのうち無伴奏チェロ曲は2曲《rabbit》(2014)、《Melody》(2015)を初演しています。彼にはバッハの第5番のプレリュードに繋がる曲をお願いしました。第5番は、A線を全音下げる「スコルダトゥーラ調弦」で演奏するので、彼の新作も同じ条件になります。どのような曲を彼が書くか楽しみです。

同い年の茂木宏文くんは2017年の芥川作曲賞で出会いました。その時僕はオーケストラの一人として彼の作品を演奏していましたが、彼の音楽は緊張感の持続というかエネルギーの推移が素晴らしいと感じ、今回の新作をオファーしました。さらにそれがきっかけで、2019年の芥川也寸志サントリー作曲賞で世界初演された、彼のチェロ協奏曲のソリストも務めました。

平川加恵さんは藝高時代から知っていて、以前にもチェロとピアノによる《バレンタイン・ダンス》(2015)や、チェロ独奏曲《Dからの生成》(2016)といった作品を書いてもらいました。彼女は2014年にチェリスト向山佳絵子さんの委嘱で、バッハの《無伴奏チェロ組曲第4番》をテーマに曲を作曲していて、今回も第4番に繫がる曲を書いてもらうことにしました。

坂東くんは「21世紀の作曲家」というイメージが強いです。時代の流れに敏感というか、時代の少し先を読んでいるようなイメージがあります。彼の曲から受ける「祝祭的」なイメージがバッハの第6番と繋がると考え、6番のプレリュードに繋がる曲をお願いしました。

彼らに委嘱しようと思い浮かんだ段階で、誰の新作を何番のプレリュードと繋げるか…というイメージはだいたい決まっていました。
皆喜んで取り組んでくれていると思います…たぶん(笑)。

最後に公演に向けて、意気込みをどうぞ。

B→Cは昔から憧れのシリーズで、出演は自分の音楽人生の一つの大きな目標でした。一つの楽器で、バッハと委嘱新作に絞ったプログラムは究極の「B→C」と言えるかもしれません。
これまでロストロポーヴィチや堤剛さんといった演奏家が、自ら作曲家に積極的に委嘱する事でチェロの可能性を広げてきました。同じように、自分もチェロの新たなレパートリーの拡大に演奏家として貢献したい。チェロ1台による表現の可能性はまだ多く残されていると実感しています。

■公演情報

リサイタルシリーズ
B→C バッハからコンテンポラリーへ

219 山澤 慧(チェロ)

2020年2月18日[火]19:00
リサイタルホール

[曲目]

  • ・久保哲朗:空間における連続性の唯一の形態(2019〜20、山澤慧委嘱作品、世界初演)
  • ・J.S.バッハ:《無伴奏チェロ組曲第1番》ト長調 BWV1007から「プレリュード」「アルマンド」「メヌエット」「ジグ」
  • ・向井 航:ラス・メニーナスによる(2020、山澤慧委嘱作品、世界初演)
  • ・J.S.バッハ:《無伴奏チェロ組曲第3番》ハ長調 BWV1009から「プレリュード」「ブレ」「ジグ」
  • ・高橋宏治:踊りたい気分(2019、山澤慧委嘱作品、世界初演)
  • ・J.S.バッハ:《無伴奏チェロ組曲第5番》ハ短調 BWV1011から「プレリュード」「サラバンド」「ジグ」
  • ・茂木宏文:独奏チェロのための《6匹のカエルと独り》(2019、山澤慧委嘱作品、世界初演)
  • ・J.S.バッハ:《無伴奏チェロ組曲第2番》ニ短調 BWV1008から「プレリュード」「クラント」「メヌエット」「ジグ」
  • ・平川加恵:RUSH TO THE PAST!(2019、山澤慧委嘱作品、世界初演)
  • ・J.S.バッハ:《無伴奏チェロ組曲第4番》変ホ長調 BWV1010から「プレリュード」「サラバンド」「ジグ」
  • ・坂東祐大:カデンツ/アンバランスとレトリックのためのエチュード (2019〜20、山澤慧委嘱作品、世界初演)
  • ・J.S.バッハ:《無伴奏チェロ組曲第6番》ニ長調 BWV1012から「プレリュード」「ガヴォット」「ジグ」

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[料金](税込)

全席自由:¥3,000

[チケット情報]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

インターネット予約

コンサート情報

リサイタルシリーズ
B→C バッハからコンテンポラリーへ

219 山澤 慧(チェロ)


2020年2月18日[火]19:00
リサイタルホール

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