スティーヴ・ライヒ 80th  ANNIVERSARY《テヒリーム》 2017年3月1日[水]

2017年3月1日[水]公演の休憩後に行われた、スティーヴ・ライヒによるトークセッションの内容すべてをテキストで掲載いたします。

聞き手:前島秀国(サウンド&ヴィジュアル・ライター)
通訳:久野理恵子

  • 前島秀国:本日は「スティーヴ・ライヒ 80th ANNIVERSARY《テヒリーム》」にお越しいただきまして、ありがとうございます。今回、ライヒさんがどうしても日本の皆様の前でお話したいということで、これから20分くらいトークセッションを始めたいと思います。通訳は、久野理恵子さんです。
  • スティーヴ・ライヒ:今晩は。本日はお越しいただき、ありがとうございます。最初に、この素晴らしい東京オペラシティ コンサートホールでのコンサートを準備して下さったホールの関係者の皆様全員にお礼を申し上げたいと思います。かつてアンサンブル・モデルンと共に演奏したこのホールで、今晩、こうして私の友人たちの演奏を聴けることを、とても嬉しく思っています。そして、1989年の初来日以来(訳注1)、こうして何度も日本に来れたことを、皆様に感謝しております。
  • 前島:4ヶ月経ってしまいましたけど、80歳の誕生日おめでとうございます(会場から拍手と《ハッピー・バースデイ》の合唱)。いかがですか、80歳になられてのご気分は?
  • ライヒ:ちゃんと、ここにいます(笑)。
  • 前島:めでたいと言えば、2月のグラミー賞の授賞式で、打楽器グループのサード・コースト・パーカッションが、ライヒさんの作品を演奏したアルバム(訳注2)で受賞しました。これも、非常に嬉しいニュースだなと思いました。
  • ライヒ:正確に申し上げると、グラミーを受賞したのは私ではなくて、サード・コースト・パーカッションという若いアメリカ人のグループです。先ほど、お聴きいただいた《マレット・カルテット》の他、今日演奏されなかった《六重奏曲》をアルバムの中で演奏しています。サード・コースト・パーカッションは非常に素晴らしいグループですので、彼らが私の曲の演奏で受賞できたことを、嬉しく思っています。
  • 前島:その《マレット・カルテット》、本日はコリン・カリー・グループの素晴らしい演奏でお聴きいただきましたが、グラミー賞の授賞式で《マレット・カルテット》が演奏された時(訳注3)、ジョン・コルトレーンの息子でサックス奏者のラヴィ・コルトレーンがインプロで参加していて、とても感銘を受けました。かつてライヒさんは、ジョン・コルトレーンの影響を受け、今度はその息子がライヒさんの曲でインプロする。何か、ひとつの循環のような流れを感じました。
  • ライヒ:イゴール・ストラヴィンスキー、ベラ・バルトーク、ペロタン(ペロティヌス)、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ、そういった多くの作曲家に加えて、私はジョン・コルトレーンからも非常に大きな影響を受けました。私が思うに、現在「ミニマル」という誤った用語で呼ばれている、私以外の音楽に関しても、ジョン・コルトレーンの大きな影響が見られます。ですから、コルトレーンの息子さんがインプロで参加したのは「詩的正義」(訳注4)だと、冗談を言ったんです。とても名誉なことだと思っています。
  • 前島:いま、ライヒさんの口から、いろいろな作曲家の名前が挙がりましたが、この4月、カーネギーホールでいろんな世代の作曲家を紹介するコンサート・シリーズを、ライヒさんがキュレーターとして監修されているということですので、そのコンサートのことを少し伺いたいと思います。
  • ライヒ:これは「スリー・ジェネレーションズ(3つの世代)」というプロジェクトで、ブーレーズ、シュトックハウゼン、ケージ、ベリオと決別した、3つの世代の作曲家たちの特集です(訳注5)。ベリオは、私の先生でもあるんですけどね。今、名前を挙げた4人は、いずれも偉大な作曲家ですが、私自身、それから私と同世代の作曲家は、ブーレーズ、シュトックハウゼン、ケージ、ベリオと同じ道を歩みたいとは思いませんでした。リスペクトはしていますけれど、彼らと同じことをするわけにはいかない。そういうわけで、まず、現在70代から80代を迎えている作曲家の中から、私自身、フィリップ・グラス、テリー・ライリー、アルヴォ・ペルト、ジョン・アダムズを、ひとつの世代として括って紹介します。

    私の世代の作曲家たちは、いずれも素晴らしい仕事を残してきましたが、さらに重要なのは、先に続く未来があるということ、つまり、現在60歳になったばかりの作曲家たちがいるということです。要するに、バング・オン・ア・キャンの世代の作曲家ですが、デイヴィッド・ラング、ジュリア・ウルフ、マイケル・ゴードンなど、数多くの作曲家が活躍しています。そこで「スリー・ジェネレーションズ」の最初の2つのコンサートでは、私の世代、それからバング・オン・ア・キャン(訳注6)の世代を特集することにしました。

    バング・オン・ア・キャンの世代は、決して私の作品を模倣しているわけでもないし、私の世代と同じ道を歩んでいるのでもありません。彼らは、自分たちが興味深いと思ったアイディアを、私の世代の音楽の中に見出し、それを個々の作品に応用することで、私の世代とは違った道を歩んでいるのです。ただ教師を模倣しているのでは、つまらない。だから、バング・オン・ア・キャンの世代の音楽は、ユニークなんです。その他にも、アメリカでは20代後半、30代、40代まで、たくさんの作曲家が控えています。その中から、「スリー・ジェネレーションズ」では、私が個人的に存じ上げている2人の作曲家を特集することにしました。ひとりは、ザ・ナショナルというロック・バンドのリーダーであり、クラシックの作曲家としても知られているブライス・デズナー。もうひとりは、素晴らしいピアニストで作曲家のニコ・ミューリー。ニコは、私が個人的に存じ上げないビヨンセのようなアーティストとも親交があります。彼らのような第3の世代は、今までとは完全に異なる作曲を試みています。

    その第3の世代の作曲家の中で、たぶんみなさんも、ひとりだけは名前をご存知かと思います。レディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドです。みなさんの中で、映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』をご覧になった人は? 彼は、その映画のスコアだけでなく、非常に興味深いクラシック作品を作曲しています。かつて、グリーンウッドはオックスフォードでヴィオラを演奏していたのですが、ロックバンドにいた兄から「お前は素晴らしいからバンドに欲しい」と誘われ、レディオヘッドのメンバーになりました。そうして現在は作曲家でもあり、またロックスターでもある、というわけです。それから、もうひとり名前を挙げておきたいのが、アンディ・アキホという作曲家です。彼も数多くの作品を作曲していますが、その中のひとつ、卓球とオーケストラのための交響曲(訳注7)は、卓球の盛んな上海で初演されました。とても面白い曲なので、ぜひ「アンディ・アキホ Andy Akiho」とググって、見てみてください。
  • 前島:では最後に、これから本番を迎える《テヒリーム》ですが、36年前に作曲されたこの作品について、いま現在、作曲者本人として、どのようにお感じになっているでしょうか?
  • ライヒ:ワンダフルだと感じています。なぜなら今晩、私が「スーパー・グループ」と呼びたくなるようなメンバーによって、演奏をお聴きいただけるからです。みなさんもご存知のように、コリン・カリーは現役パーカショニストの中で最も優れた演奏家のひとりです。そして彼と共演するメンバーは、いずれも最高レベルの演奏家ばかりです。歌手は、1996年以来、私とコラボしているシナジー・ヴォーカルズ。初期ルネサンス音楽や中世音楽といった、イギリスの声楽の伝統の中から出てきたシナジー以上に、私の音楽の演奏にふさわしい声楽グループはありません。熟練したシナジーのメンバーは、マイクによる歌唱も得意としています。弦楽パートは、ロンドン・シンフォニエッタのメンバーや、ロンドンの最も優れたスタジオ・ミュージシャンで構成されています。今晩、ここにいるグループほど素晴らしい演奏は聴いたことがありません。ですので、もしも演奏がお気に召さなければ、それは作曲者である私の責任です。それでは、コンサートをお楽しみください。ありがとうございました。

訳注:

日本語訳・文責:©前島秀国
本内容の無断転載を固く禁じます。

コンサート情報

スティーヴ・ライヒ
80th ANNIVERSARY
《テヒリーム》


2017年
3月1日[水]19:00
3月2日[木]19:00
コンサートホール

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東京オペラシティ コンサートホール/リサイタルホール


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