インタビュー パーヴォ・ヤルヴィ ブラームスを語る
「プロジェクトへの挑戦。全力を尽くして、その至難へ挑みたい。」

最高の挑戦を、ここでこそ。── 名匠パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団(以下DKPB)が還ってくる。2010年〈シューマン交響曲全曲演奏会〉の大成功に続き、コンビは〈ブラームス・シンフォニック・クロノロジー〉で更なる高峰へ向かう。偉大なる交響曲4つに、壮大なスケールの協奏曲(ソリスト陣も冴える!)を併せ、創作順に追いつつブラームスの深化を体感する4日間。またとない経験となろう。

取材・文:山野雄大(音楽評論家)
2013年11月11日 東京にて

完璧な構築、その先の感情…優れた〈物語〉を感じてほしい

  • ©Julia Bayer
    ©Julia Bayer
  • ■パーヴォさんは世界の名門楽団を数々指揮されている中でも、DKPBとは特に長く親密な関係を保たれていますね。2004年からは音楽監督も務めていらっしゃいます。
  • パーヴォ:もう20年にも及ぶ共演を通して、私とオーケストラは既に家族です。ここでの私は“マエストロ”ではなく、オーケストラの一員ですよ。我々は真摯に深く理解し合ってきましたし、何度も世界ツアーを重ねて、まぁ言ってみれば、共に歳もとってきたロック・バンドのような関係ですね(笑)。
  • ■その信頼感は演奏からも深く伝わってきますし、コンビの演奏は常に瑞々しい挑戦心に溢れていると感じます。世界ツアーを重ねられるなかで、東京オペラシティ コンサートホールでは去る2010年12月にも〈シューマン交響曲全曲演奏会〉を開催されました。
  • パーヴォ:私たちが世界各地でおこなったツィクルス(連続演奏会)の中でも、東京オペラシティでの公演は強く印象に刻まれた、まさに最高の成功でした!
  • ■多くの聴衆に忘れ難い印象を残した、あの記念碑的な演奏会に続いて、今年は4回のコンサートでブラームスの交響作品をほぼ年代順に追っていかれるという大企画です。
  • パーヴォ:ブラームスの残した4つの交響曲は、それぞれが傑出した存在です。しかし、その関係性にも注目してほしいのですよ。たとえば交響曲第2番と第3番、並べてみると共通した要素など良く分かってくるはずですし、短期間にひとりの作曲家を集中して聴き通し、創造の全体を知ることで、それぞれの曲に対する理解もより深まってゆくのです。ツィクルスを通して「作曲家がそれぞれの作品の創作を通してどのように発展を遂げたか、あるいは新しい方向性を見出したか」ということを知ることができるのですよ。
  • ■その発展を耳で追いながら、ブラームスの交響曲ならではの、孤高の魅力を再発見することができるでしょうね。
  • パーヴォ:彼の交響曲には完璧な構築がありますが、目指すべきはその先、心を揺り動かす感情に触れること。美しく手触りしなやかなレースのように歌われる旋律、織りあげられる響き‥‥見事な建築のような絶対音楽でありながら、ブラームスは優れた〈物語〉を語りかけてくる。ぜひそれを感じていただきたいのです。
  • ■ベートーヴェン、シューマン‥‥と作曲家の世界を深く追究する優れたツィクルスを重ねてきた、パーヴォさんとDKPBならではの企画ですね。今回は交響曲に匹敵する規模を持った協奏曲も併せて聴けるのも重要ですね。
  • パーヴォ:ブラームスの協奏曲はとてもシンフォニックな傑作揃いで、他の作曲家の協奏曲と比べても特異な存在だと思いますね。交響曲と同じ精神と規模をもって書かれていますし、やはり双方一緒に聴かれるべきだと思うのです。我々も繰り返し演奏し熟知していますが、併せてのツィクルスは今回の東京が初挑戦になるんですよ。ソリスト達ももう家族のような‥‥それこそ我々の首席チェリストであるターニャ・テツラフと兄クリスティアンのふたりは、子供の頃から《二重協奏曲》を一緒に弾き込んで来た兄妹ですしね(笑)。同じ文化・思考を共有してきた音楽家たちで聴けるのも非常にユニークな経験だと思いますよ!
  • ©Ixi Chen ©Deutsche Welle

ブラームスの傑作たち、その「新旧の融合」を鮮やかに問い直す

  • ■パーヴォさんとDKPBが繰り広げて来た数々の作曲家ツィクルス、演奏される側にとっても決してたやすい挑戦ではないと思いますが、創作世界を年代順、クロノロジカルな視点と共に聴き続けるという体験を通して、聴き馴れたはずの作品から再発見することも多いです。
  • パーヴォ:迷いなく力強いベートーヴェン、開放的で感情の起伏も激しいシューマン……彼らに続いたブラームスのシンフォニー4曲は、ひとつひとつが聖像のような存在感を持つ作品ですね。1シーズンに1曲取り上げるだけでも充分な存在感を持つほどで、普通なら続けて演奏などしません。しかしツィクルスで通して聴くという挑戦を通してこそ、それぞれが緊密な繋がりを持っていることを強く感じていただけるはずなのです。
  • ■先輩作曲家たちの革新をブラームスも引き続き拡げていったわけですが、一方で彼の作品には、バッハやルネサンス音楽などの研究を深めた「古典への眼差し」もみられますね。
  • パーヴォ:そう、ブラームス解釈で重要なのは「彼が過去の音楽により強い影響を受けていた」ということでもあります。彼はロマン派の作曲家ですが、中世・バロックの教会音楽に精通していました。ブラームスを考えるとき、こうした新旧の「融合」あるいは「結合」こそが鍵でしょう。彼が研究した古来の音楽に立ち返って考える必要があります。
  • ■古い音楽からの影響は、円熟の傑作である交響曲第4番に顕著ですね。
  • パーヴォ:第4番の第4楽章に登場するトロンボーンのコラールも、バロック音楽や教会音楽の痕跡ですよね。ところが、これまでの演奏の多くは、金管の華やかさを強調しすぎていたと思うのですよ。それは、過去の演奏が「ロマンティックに過ぎた、バロック音楽への視点」を反映していたからでしょうね。我々はバロック音楽への見方を洗い直し、ブラームスと並列に‥‥あるいは重ねて考えるべきです。組み込んでしまうのではなく、ね。そこにこそ新しい色合いが立ちあらわれて来るのです。
  • ■「新旧の融合」を精緻に洗い直すツィクルスを通して、「演奏の現在」を鮮やかに問い直してゆくことにもなるでしょうね。
  • パーヴォ:ブラームスへの視点は、どうしてもその後の作曲家たちを通過した上で振り返るものになります。そのせいか、これまでの演奏ではときに管楽器を倍増させたり……それはR. シュトラウスなどの巨大編成を知った上での発想ですよね。ブラームスの交響曲は当時多くても40人くらいで演奏されていたものですから、我々もその時代のサイズで演奏します。しかし、我々の目的は「ブラームスは当時いかに演奏されていたか」という歴史研究ではない。当時の楽器の技術的制約によって不可能だった表現なども考慮に入れねばなりませんし……我々のゴールはその先にあるのです。
  • ■パーヴォさんたちの演奏は、クリアな厳しさと豪胆な躍動とのせめぎあいに知性的な高揚が溢れるようで素晴らしい。今回も現代に蘇るブラームスのリアル、心から期待しています。
  • パーヴォ:これは決してたやすいプロジェクトではありません。ブラームスの交響曲で優れた演奏をお聴かせするのは本当に難しい。しかし我々は、全力を尽くしてその至難へ挑みたいと思います。
  • ©Deutsche Welle © Prague Spring Festival - Zdenek Chrapek

東京オペラシティArts友の会会報誌「tree」Vol.105&106(2014年8月、10月号)より

■公演情報

パーヴォ・ヤルヴィ指揮
ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
ブラームス・シンフォニック・クロノロジー

会場:コンサートホール

[出演]

ピアノ:ラルス・フォークト
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ
チェロ:ターニャ・テツラフ

2014年12月10日[水]19:00
・ピアノ協奏曲第1番
・交響曲第1番

2014年12月11日[木]19:00
・ハイドンの主題による変奏曲
・ヴァイオリン協奏曲
・交響曲第2番

2014年12月13日[土]15:00
・大学祝典序曲
・ピアノ協奏曲第2番
・交響曲第3番

2014年12月14日[日]15:00
・悲劇的序曲
・ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
・交響曲第4番

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[料金](全席指定・税込)・・・残席僅少(12/14は完売)

S:¥13,000 A:¥11,000(B、C、Dは予定枚数終了)
(Arts 友の会特典:10%割引)

[チケットのお申し込み]

東京オペラシティチケットセンター
03-5353-9999(電話 10:00〜18:00/店頭 11:00〜19:00/月曜定休)

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コンサート情報

パーヴォ・ヤルヴィ指揮
ドイツ・カンマー・フィルハーモニー管弦楽団
ブラームス・シンフォニック・クロノロジー

2014年
12月10日[水]19:00
12月11日[木]19:00
12月13日[土]15:00
12月14日[日]15:00
コンサートホール

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