作曲家・池辺晋一郎 70歳バースデーコンサート

日本を代表する作曲家にして、音楽の魅力を広く伝えるコミュニケーターとしても人気の高い池辺晋一郎の70歳誕生日を記念するオーケストラ・コンサートが、9月15日に行われます。プログラムのメインは、東京オペラシティコンサートホール開館15周年(2012年)を記念して委嘱された新作《交響曲第9番》の世界初演。
古希の年の「第九」初演についてうかがいました。

(3月8日 ききて:東京オペラシティArts友の会会報誌[tree]編集部)

  • ■1967年に発表された第1番から45年余り、3月に初演された第8番に続く「第九」初演となります。「交響曲」とは、池辺先生にとってどのような位置づけにありますか?
  • 池辺:これまで基本的に、自分の抱えているテーマ、コンセプトをすべて音楽で言いたいときに「交響曲」と名付けてきました。もちろんオーケストラ曲であろうと、合唱曲、室内楽曲であろうとコンセプトが変わるわけではないですが、作曲家は、職人が注文に合わせて物を作るように、それぞれの委嘱の目的を優先させることがありますから。自分のイデーを優先的に反映させたものが「交響曲」と言えると思います。
    第1番を書いたときにはそこまで考えていませんでしたが、第2番以後は、ある一貫したイデーを進めてきたと思っています。それは、社会のなかで「個」がどのように存在するか、というテーマでした。第7番までずっと突き詰めていたその探究が突然断ち切られたのが、3.11です。
  • ■震災後に作曲された第8番《大地/祈り》のプログラム・ノートに、「大自然と人間の関わり」を交響曲のテーマとしなければならない、と書かれています。
  • 池辺:震災のような危機に直面したとき音楽が何をなし得るのか ─ 音楽家の誰もが考えたことだと思いますが、僕は音楽で具体的な支援ができるとは思っていません。いかに社会性の強いメッセージを合唱で歌おうと、それでただちに世の中が変わるわけではないですから。では音楽は役に立たないのか、というと、決してそうではない。音楽こそ、大自然の脅威に関わって、そこからのメッセージを発信できるものじゃないかと考えています。
    震災は非常に辛い記憶を残しましたが、客観的に考えると、人間の営みは大自然にはかなわない、ということが証明されたとも言えるのではないかと思うんです。人間がどんなに暴れようと、釈迦の掌の上の孫悟空みたいなもので、そこから外には絶対に出られない存在なのだと。少し思いあがっていたところのある人間が、大自然に立ち向かうときの、あるいは大自然に包まれたときのあり方を教えられたような気がします。それを創作のコンセプトにすることができないか、震災以来ずっと考えてきました。
    交響曲第9番では、9編の長田弘さんの詩をテキストにしますが、これらはすべて、我々が住むこの星のことを考えている詩です。この星とは何か、どこから始まり、そしてどこへ向かっていくのか。この詩を選んだことも、3.11以後の考え方とリンクしています。

  • 撮影:武藤章
  • ■長田弘さんの詩との出会いは?
  • 池辺:本屋でみつけた詩集からです。僕は本屋に行くと詩集を買う人間なんですよ。子どもの頃から詩を読むのがすごく好きで、いつもいろいろな詩集が手の届くところにある、という感じ。特に立原道造と中原中也は、いま世の中に出ている詩をみんな暗記しているんじゃないかな…。それくらい好きです。
    長田さんの詩集もそのひとつで、作曲とは関係なく、そばに置いて好きで読んでいたものです。

コンサート情報

2013年9月15日[日]15:00
コンサートホール

作曲家・池辺晋一郎
70歳バースデー・コンサート

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池辺晋一郎(作曲家)
Shin-ichiro Ikebe, composer

池辺晋一郎(作曲家)

撮影:武藤章

1943年水戸市生まれ。1967年東京藝術大学卒業。1971年同大学院修了。池内友次郎、矢代秋雄、三善晃、島岡譲の各氏に師事。1966年日本音楽コンクール第1位。同年音楽之友社室内楽曲作曲コンクール第1位。1968年音楽之友社賞。以後ザルツブルクTVオペラ祭優秀賞、イタリア放送協会賞3度、国際エミー賞、芸術祭優秀賞4度、尾高賞2度、毎日映画コンクール音楽賞3度、日本アカデミー賞優秀音楽賞9度(内、3度最優秀賞)などを受賞。1997年NHK交響楽団・有馬賞、2002年放送文化賞、2004年紫綬褒章を受章。現在東京音楽大学教授、東京オペラシティ文化財団ミュージック・ディレクター、石川県立音楽堂・洋楽監督、横浜みなとみらいホール館長、せたがや文化財団音楽事業部音楽監督。ほか多くの文化団体の企画運営委員、顧問、評議員、音楽コンクール選考委員などを務める。作品:交響曲No.1〜8、ピアノ協奏曲No.1〜2、チェロ協奏曲、オペラ『死神』『耳なし芳一』『鹿鳴館』をはじめ管弦楽曲、室内楽曲、合唱曲など多数。附帯音楽:映画『影武者』『楢山節考』『うなぎ』『瀬戸内少年野球団』『スパイ・ゾルゲ』、TV『八代将軍吉宗』『元禄繚乱』など多数の映画・ドラマ音楽の他、演劇音楽450本以上を担当。著書に「音のいい残したもの」「おもしろく学ぶ楽典」「オーケストラの読みかた」「スプラッシュ」「空を見てますか…1〜5」「バッハの音符たち」「モーツァルトの音符たち」「ブラームスの音符たち」「シューベルトの音符たち」「ベートーヴェンの音符たち」「シューマンの音符たち」等がある。96年より13年間、NHKテレビ「N響アワー」の司会を担当し、好評を博した。


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