田尾創樹は、表現活動を行うためのさまざまな"名前"をもっています。
田尾の作品を見てすぐに連想される言葉に「ヘタウマ」があります。1980年代のイラストレーションの隆盛時に生み出された造語で、"ニュー・ペインティング"と呼ばれた、同時代の表現主義的な傾向の絵画について言及する際にもよくもちいられました。確かに彼の絵画は、イラストのように奥行きがないものが多く、また、思わず人を惹きつけてしまうような素人風の未熟さに似た外見をもっています。もっとも、田尾の作品を特徴づける塗り絵のような平板性は、その特異な制作方法と深く関連しています。
オリジナルなきコピーの連続、あるいは、「延々と続く未完の状態」ともいうべき彼の制作方法は、必然的に、「作者」という概念を大きく揺さ振るものです。その"素顔"がわからないと感じるほど、「作者」のアイデンティティは突き崩されてしまっています。まるで分裂病患者のように、複数のアイデンティティが田尾創樹の描き出す作品それぞれから覗き見えています。もっとも、その姿勢は、決してオタクやひきこもりのようなネガティヴなものでも病的なものでもなく、じつに健康的で、他者に対して広く開放されたものです。同一不変のアイデンティティの観念を無化する可能性を、彼の創作方法と表現活動は内包しているのです。閉じられた自我から開かれた自我へ。単独の自己から複数の自己へ ─ そうした大胆で革新的な創造行為を、いともしなやかに淡々と成し遂げてしまうのが、田尾創樹という作家のもっとも大きな魅力といえるでしょう。
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田尾創樹 Tao Soju | |
1977 | 栃木県生まれ |
2002 | チェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザイン,美術課程(絵画)卒業,ロンドン(BA) |
2003 | スレイド・スクール・オブ・ファイン・アート,修士プログラム(絵画)中退,ロンドン 現在 京都府在住(京都/栃木で制作) |
個展 | |
2006 | 「オカメプロ展」,TAKEFLOOR 404&502,東京 |
グループ展 | |
2003 | 「ペーターバラ賞」展,ペーターバラ・ミュージアム・アンド・アートギャラリー,ケンブリッジシャー州,イギリス |
2006 | 「田尾創樹/徳重道朗」,takefloor(現TAKEFLOOR 404&502),東京 「百花繚乱」,BOICE PLANNING,神奈川 「Whispers Behind the Wall(壁裏からの囁き)」,メーア・ギャラリー(ミッドタウン),ニューヨーク |
2007 | 「Not only A, but also B(・・・だけでなく〜もまた)」,トランスフォーマー・ギャラリー,ワシントン |
参考文献 | |
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リンク | |
SOJU TAO / 田尾創樹 http://sojutao.com/ |
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2007.7.21[土]─ 10.14[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日 :月曜日(ただし祝日の場合は翌火曜日)、8月5日(全館休館日)
入場料 :企画展「メルティング・ポイント」の入場料に含まれます。
主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社
協力:相互物産株式会社
お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756