具体的な何かの形にならないまま、次から次へとイメージの雪崩を起こし、流転する冨倉の画面。イメージが沸き起こっては流れるそのさまは、まさしくまわり続けるメリーゴーラウンド。まわる木馬は私たちの目の前を通り過ぎては去り、再び現れてはまた消え去る断片の連続です。
2003年の作品《メリーゴーラウンド》は、遊具や遊園地の風景を描いた絵ではなく、流れるような木馬の動きそのものと、まわっている時間を解体してみせた作品です。そこでは小屋の屋根や柱など固定したものの描写は省略され、動くもの、つまり回転と遠心力に身を任せるうちにほどけてしまったかのような木馬だけが断片的に描き出されています。 思い起こすに、私たちの「動き」に対する記憶は、こうした残像のような断片的なものではないでしょうか。断片の間にある思い出せない記憶の空白部分は、想像によって無意識のうちに整合性を持つように補完されるか、辻褄が合う記憶を探して空白のまま漂うか、あるいは無かったこととして記憶の彼方に封じ込められます。そうして「動き」のイメージは、記憶のなかで本来の動作を失いながら収まりの良いように変容され、やがて作られた二次記憶として定着していきます。ですが冨倉は、記憶が変容するときの断片的な残像をあえてそのまま散りばめ、不完全とされるイメージがいかに私たちの想像力を喚起するものであるかを示しています。
例えば本展の作品のなかで「流動性」が顕著なのは、《滝にて》(2006)、《scene》(2006)、《緑の雪》(2006)。画面が流れ落ちていく描写で、空間の奥行きや場面の状況をとらえようとしても足元から流されていくようです。空間のなかに人が立てない絵というのはこういうものを指します。そうすると宙に浮くほかはありません。そこで必然的にモチーフを浮かせることで「浮遊感」が生じます。唐突に結び目が飛来する《コウモリ結び》(2003)、《指結び》(2005)、《白雨》(2005)、《羊毛のドレス》(2006)の4点は、この「浮遊感」と同時にモチーフの「反復性」にも当てはまります。
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冨倉崇嗣 TOMIKURA Takashi | |
1979 | 三重県生まれ |
2002 | 成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス卒業 |
個展 | |
2003 | Oギャラリーeyes,大阪 Oギャラリーup・s,東京 |
2004 | Oギャラリーeyes,大阪 |
2005 | Oギャラリーeyes,大阪 |
2006 | Oギャラリーeyes,大阪 |
グループ展 | |
2001 | 「絵画の流れ展」,三重県立美術館 県民ギャラリー,三重 |
2002 | 「神戸アートアニュアル2002―ミルフィーユ」,神戸アートビレッジセンター,兵庫 |
2003 | 「ARTISTS BY ARTISTS」,森アーツセンター,東京 「現代美術小品展2003」,ギャラリーすずき,京都 |
2004 | 「bitter/sweet」,Oギャラリーeyes,大阪 「Unnatural II アンナチュラル 2」,Oギャラリーeyes,大阪/Oギャラリー,東京 |
2005 | 「群馬青年ビエンナーレ」,群馬県立近代美術館,群馬 「the garden of the ray」,Oギャラリー,東京 |
参考文献 | |
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会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2007.1.13[土]─ 3.25[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日 :月曜日(ただし2月12日[月]は開館)、2月11日[日](ビル全館休館日)、2月13日[火]
入場料 :企画展「土から生まれるもの:コレクションがむすぶ生命と大地」の入場料に含まれます。
主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンンリアルエステイト投資法人
お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756