収蔵品展021 素材と表現 期間2006年7月8日-9月18日 西村陽平《無題》
西村陽平《無題》

17.5 x 35.0 x 31.0cm
1991年

今回はコレクションの中から作品をかたちづくる素材に焦点をあて、ご紹介します。
素材と作品の関係性を、一括りで述べることは難しいといえます。素材の感触や質感が制作のきっかけとなる場合もあれば、作家が創作の衝動に突き動かされ、身近にある素材でひたすらイメージを表出させることもあるでしょう。しかし、すべてに共通していえるのは、作家は各々の出会い方によって素材と組み、この世にかたちある何かを生むべく、試みを繰り返しているのだということです。私たちが作品と接する際、作家と素材との関わりという点に思いを巡らせてみることで、制作にたずさわる作家の姿がより鮮明に見えてくるのではないでしょうか。

ギャラリー3 展示風景
《ギャラリー3 展示風景》

ギャラリー3では、寺田小太郎氏の収集による最近のコレクションから、1970年以降生まれの作家を中心とした表現の多様性をご覧いただいています。
身近な動植物の生命力を、銅版画を主体としたコラージュで描く入江明日香は、銅の腐蝕がもたらす偶然性や、プレス機から滲み出るインクが生む独特の画質に惹かれ、それが手描きでは出せない深みにつながるのだと語ります。時松はるなは、身近な筆記用具であるシャープペンシルによって、学園生活のひとこまを描き出します。ほとんど下絵無しで、即興的に画面上に繰り返される人物は、見る者にポジティブなメッセージを発信します。ヨガのポーズをとる女性のしなやかな脚線が目を引く三宅一樹の木彫には、木の生命力がもたらす心地良い「気」があふれているようです。とりわけリアルな足先には、ヨガでいうところの「意識の集中」が見事に表現されており、作家の素材へのあくなき探求心と手の鍛練をうかがい知ることができます。

崔恩景 《Beyond the Colors #48》
崔恩景《Beyond the Colors #48》
水彩, 紙
56.7x 76.0cm 1997年
courtesy: 松濤美術館

コリドールでは相笠昌義がスペイン滞在時代に描いた「踊子ロシオ」をテーマに、鉛筆画、エッチング、リトグラフ、油彩をご覧ください。
モデルの量感や陰影を肉眼で捉えた素描は、相笠にとっての制作の原点といえますが、版画においては、素描にみられた線があたかもそれぞれの素材の特性に沿うように、密度やストロークを変えてあらわれます。素描における眼と手の訓練から得られた発見やアイディアは、油彩において作家の個性がより強くあらわれた作品となり、新たな広がりをみせるのです。

ギャラリー4では木や銅による版画と立体のほか、紙を素材とした作品をご紹介します。
崔恩景の画面に広がる絵具のしたたりや滲みは、湿り気や陰影や大気の流れを連想させ、見る者の皮膚感覚にうったえます。それは、果てしなく広がる空間の中で、絵具によって自己の内面を探る行為のようでもあります。触覚と造形表現をテーマに活動する西村陽平は、陶土と他の素材の組み合わせや、陶土以外の素材を高温で焼成することで作品を制作しています。潰えゆくもの、人為の及ばないところでの物質の変化の中に宿る美を見出す作家であるといえましょう。


山中現《冬の日》
山中現《冬の日》
木版画,和紙
30.5 x 22.5cm 1998年

清宮質文、柿崎兆など、一連の木版画からは、とりわけ日本的な肌合いが感じられるのではないでしょうか。わが国の風土に特有のくすんだ色合いとあたたかみのある木目には、郷愁が漂います。また、荒々しい杉板の木目に勢いある線を刻む磯見輝夫、時代の流れにあっても不変の詩情を湛える山中現、そして、懐かしさと現代性が同居する服部知佳の作品。いずれにも共通する親しみ深さと新しさは、木という素材の中で手を結びあい、見る者の琴線に触れます。池田良二の銅版画にみられるモノクロームの廃墟は、腐蝕してゆく銅のざらざらした質感とあいまって、蓄積された時間のイメージを想起させます。そこには生と死や喪失感、永遠に封じ込められた時間が存在するようです。銅と木の組み合わせから生まれる保田井智之の彫刻には、この封じ込められた時間のイメージにそれぞれの素材の包含する性質が相乗され、圧倒的な存在感をもって見る者に迫ります。



素材に向き合うことは自分と対峙することではないでしょうか。必ずしも意のままにならない素材に接し、作家は自らの本質を尋ねることもあるでしょう。素材はどこへ向かい、どんなかたちになろうとしているのか。その内なる声をきき、自身にも自然にも抗わない自己のあり方を体得したとき、作家はそれを具現化することができるのでしょう。自我を消すことと、あらわすこと、その均衡のもとにこそ、作家の創造性は発揮されるのです。

ギャラリー4 展示風景
《ギャラリー4 展示風景》

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2006.7.8[土]─ 9.18[月・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(7月17日、9月18日は開館)、7月18日[火](振替休館)、8月6日[日](全館休館日)
入場料 :企画展「光の魔術師 インゴ・マウラー展」の入場料に含まれます。

主催:財団法人東京オペラシティ文化財団
特別協賛:小田急電鉄株式会社
協賛:日本生命保険相互会社

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756