ヒラタシノの伸びやかで屈託のないストロークが感じさせるスケール感の大きさ。たとえば、《昨日見たハス》(2005年)は、グリーン系統の絵具で描かれた紡錘の形状が植物の葉を連想させますが、そのイメージを打ち消すかのように、画面の中央やや下を白と淡黄色のストロークが、じつに大胆に横切っています。ところどころに見受けられる絵具の滲みや滴りも、この自由奔放なストロークとともに、ヒラタの作品をより大きく見せる効果をもたらしています。
彼女の作品にはしばしば植物を連想させる形象が描かれますが、それらは大胆なストロークによってときに画面からはみ出しています。一種のトリミングであり、クローズアップといえるこの手法は、作品に崇高性にも似た印象を与えます。 作品に顕著に認められる身体性は、おそらくヒラタがこれまで、キャンバス以外のものを支持体にしてきたことにも由来するのではないでしょうか。実際彼女は、改装中のビル内の仮囲いや自動車のボディーに絵を描いてきました。そうした大きな支持体に描く作業には、それなりの運動が要求されます。こうした仕事から培われた身体性が、はるかに小さなキャンバスに向き合う際にも発揮されているようです。
キャンバス作品とウォール・ペインティングでは、共通する要素もある一方で、異なる面も多くあります。ウォール・ペインティングは、短時間に完成させなければならないことから、モティーフの輪郭線はきわめて明瞭に描かれます。それに対して、キャンバス作品では輪郭線はほとんど認められません。また、ウォール・ペインティングでは壁面の隅々まで塗られることはないものの、キャンバス作品では画面全体が絵具で覆われています。これと反比例するかのように、小さなキャンバス作品においては、ウォール・ペインティングに見られる鮮烈な色遣いは影を潜め、色彩は抑制のよく効いた穏やかなものになっています。それは絵具の滲みや垂れによる効果と相まって、イメージの直截さを弱め、描かれた有機的形象は何か薄い皮膜越しに見えるような、不思議な生命感を漂わせています。
《Untitled》《人と水》《その☆の出来事》(いずれも2005年)などの作品には、小さな円形が描き込まれていますが、作家によれば、それは細胞や星座だそうです。小さなキャンバスに展開する世界は、必然的に顕微鏡や天体望遠鏡を覗いて知覚できる極小の世界に通じているのかも知れません。そのミクロの世界に、ヒラタシノは、等身大の大胆な身体性を持ち込みます。ミクロとマクロの世界が彼女の画面のなかで奇妙に交錯するようです。
|
ヒラタシノ HIRATA Shino | |
1974 | 千葉県生まれ |
1996 | 女子美術大学芸術学部デザイン科卒業 |
2005 | ボルボペイントカーアワードグランプリ受賞 シェル美術展2005入選 現在、東京都在住 |
主な個展 | |
1999 | ギャラリーブレス, 東京 |
2002 | バー&ギャラリー ブラックホール, 東京(2004) |
主なグループ展 | |
2002 | 「ガーリー展」/「Confusion of Modernity」, ギャラリーアートギルド, 東京 |
2004 | 「リーディング」, ペッパーズギャラリー, 東京 |
2005 | 「シェル美術賞展2005」, ヒルサイドフォーラム, 東京(カタログ) 「岐阜フラッグアート展」, 岐阜市神田町通り 「FUKUIサムホール美術展」, 福井カルチャーセンター, 福井 |
壁画制作 | |
2000-01 | ベルハートインターネットコミュニケーションズ,東京(非常口, 踊り場等) |
2004 | ラフォーレ原宿, 東京(2004, 2005共に店舗仮囲い) |
2005 | ルミネ新宿, 東京(店舗仮囲い) 六本木ヒルズ, 東京(シャッター) バー&ギャラリー ブラックホール(エントランス等) |
参考文献 | |
|
|
リンク | |
Shino Hirata http://shinohirata.com |
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2006.4.9[日]─ 6.18[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日 :月曜日(ただし5月1日[月]は開館)、全館休館日 2月12日[日]
入場料 :企画展「武満徹 ─ Visions in Time」展の入場料に含まれます
主催:(財)東京オペラシティ文化財団
特別協賛:日本生命保険相互会社
協賛:NTT都市開発株式会社/小田急電鉄株式会社
協力:相互物産株式会社
お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel. 03-5353-0756