projectN 18 :高橋将貴 TAKAHASHI Masaki

2004.7.24[土]─ 9.26[日]



高橋将貴 ─「型」の美学と個人主義絵画
洋服やネクタイの生地・柄、西欧の紋章・鎧、制服、車、ギターなど、高橋が好んで頻繁に描くモチーフに共通するのは、ある典型的な「型」があり、種類が豊富なものです。
図形の配色、デザイン、使用法に歴史と厳密な規則がある紋章とまでいわなくとも、型は現在でもある社会のコミュニティにおいて、それを持つ人物の地位あるいは人柄を醸し出す、いわゆる「ステイタス・アイテム」として機能しています。例えば《バンカー・ストライプ》(fig.1)の背広を着用するような男性に対し、「銀行や商社に勤めているような(身元の固そうな)人」、といった見方は今でも一般的です。
(fig.1)
《バンカー・ストライプ》
アクリル絵具、キャンバス
53.0 x 33.4 cm
2004
Photo:早川宏一


しかし現代では、そうした「型」が本来持つ起源や意味と切り離されたところで、それらのパターン(柄)だけが世の中に流通し、アレンジされ、オリジナリティが変容していきます。「型」はもはや、限られたコミュニティで特有の共通認識に基づいてのみ機能する「ステイタス」であって、その狭い領域から一歩出てしまえばすぐにその機能が失われてしまうほど、脆いものでもあるのです。ですがその一方で、例えばある柄の衣服を選ぶことで、その柄の「型」は人物に個性とアイデンティティを与え、人物と一体化することで新たに、唯一無二の「オリジナルな個体」を生み出します。

高橋が描く「型」は、このようにコピー・アンド・ペーストで同一物を増殖する意味での「パターン」の訳(柄・型・様式)と完全一致ではなく、コピー・アンド・ペーストのたびにどんどんずれて差異(=他との区別)が生じ、その結果、「オリジナルな個体」を生み出すことになるものです。そのため、同じ型が描かれることはあっても、同じ人物を描いた作品は存在しません。主眼はあくまで型の方なのです。
《ボウタイ》
アクリル絵具、キャンバス
53.0 x 33.4 cm
2004
Photo:早川宏一
《コンゴウインコ》
アクリル絵具、キャンバス
22.7 x 15.8 cm
2004
Photo:早川宏一


モチーフの個性と体温すら感じられるような、どこかとぼけた人間味あふれる表現を可能にしているのは、対象物の典型的な「型」を教科書、図鑑、百科辞典、雑誌など、高橋曰く「エデュ感」(=エデュケーショナルな感じ)がある複数の資料から抽出し、組み合わせて記号化する高橋の客観的な観察眼と、「型」そのものを描くのではなく、型の様式美を描くことでモチーフにオリジナリティを与える、型の美学の「ズラシ」です。
図鑑のように、真っ白い背景のなかにぽつんと描かれたモチーフは、突然知らない場所に置き去りにされたようで、心もとない姿にも見えます。余計な表現を省き、ラフでありながら的確に対象をとらえる筆づかいでモチーフを描くことで、高橋は「個体」の存在をさらに強調します。

《ダッチ・ドレス》
アクリル絵具、キャンバス
45.5 x 27.3 cm
2004
Photo:早川宏一 
《ミュージックマスター》
アクリル絵具、キャンバス
33.4 x 19.0 cm
2004
Photo:早川宏一


今回のproject Nで高橋は、すべての作品を同じ比率で描き、一堂に会しています。そうすることで、作品間に物語性が生じるかどうか、すなわち、作品一つ一つの独立性が保たれるのか、もしくは物語性に回収されるのか、自ら試しているといえるでしょう。
最終的に物語は見る人によって恣意的に作られるものですが、高橋の絵画世界を見ていると、好きなものだけが存在する憧れで出来た世界というのは、逆説的にそれが現実ではありえないということを露呈させ、絵画が仮想空間であることを意識させられます。そこには、高橋の作品において物語性が不成立であること、だからこそ個々の作品の高い独立性が保たれていることが、浮き彫りにされています。
高橋は自身の作品群を、教育的目的を欠いた「歪んだ辞典」と称していますが、そこには決してネガティヴな意味合いやシニカルさはありません。個人主義の肯定と物語性の拒絶はまた、一見ディスコミュニケーションのテーマを思わせますが、高橋の作品にはそれすら肯定に転換させる直球勝負の力、そして、ネガティヴな表現のカウンターとして存在し得る可能性が感じられます。



高橋将貴 TAKAHASHI Masaki
1973 東京都生まれ
1996 東京造形大学造形学部美術学科彫刻専攻卒業
現在、東京都在住

個展
2003 「スーツとヘルム」、リトルモア・ギャラリー、東京


インフォメーション
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2004.7.24[土]─ 9.26[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし9/20[月]は開館)、全館休館日:8/1[日]、9/21[火]

入場料:企画展:「夢みるタカラヅカ展」の入場料に含まれます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756