projectN 13 :西澤千晴 NISHIZAWA Chiharu

2003.3.21[金・祝]─ 6.8[日]



現代版絵巻が綴る日本社会
絵巻物の影響が明らかな、数枚の紙もしくはキャンバスが連なる横長のフォーマットと対象を俯瞰した構図、画面に登場するユニフォームを着た特異な人物群、そして彼らの一部に見られる奇妙で不可解な行動と群像全体が醸し出す不穏な空気。西澤がこの10年間で築き上げてきたこれらの絵画要素は、西澤ワールドを繰り広げるうえで、どれ一つとして欠けてはならないほどバランスをとりつつ絡み合いながら、そのオリジナリティを培ってきました。現代日本社会に潜む負のイメージを映し出すものとして、近年評価が高まってきた西澤の作品は、今回のproject Nで新たなるステップへの移行を示唆する展開をみせています。
《ジオラマ(ワイルド・マウンテン・ハイ)》
アクリル絵具、キャンバス(3枚組)
116.7 × 72.7 cm(各)
2002


西澤は以前、版画を手がけていましたが、現在はトレーシングペーパーに鉛筆で背景と人物を配し、それをテープでマスキングをしたキャンバスに乗せ、必要な箇所を切り抜いて塗るという描き方をしています。ありふれた日常の隙間にひしめく、とりとめのない雑然とした思考を肯定的に受け止め、それを画面のなかで思い思いの行動をとる人物に重ね合わせ、表現すること。それを目指してきた西澤は、そのとりとめのない雑然とした感じを出すために、人物のポーズを百科事典に求めたりしてきましたが、ポーズの根拠や配置に限界を感じたことが、素材の変化や、場面設定がさらにしっかりと設けられた新作の《ジオラマ(ストリート書道)》、そして《ジオラマ(オフィスライフ)》へ繋がっています。
《ジオラマ(通勤快速)》
アクリル絵具、キャンバス(4枚組)
116.7 × 72.7 cm(各)
2002
Photograph: 佐々木悦弘


画面に描かれた人物群像を部分ごとに見ていくと、彼らは数人ずつの小さな集団となって、日々のニュースで取り上げられる大小さまざまな事件や社会現象を演じています。時折単独でポーズをとる人物もいますが、それも画面全体を構成する一部として、具体的な事件を想起させるものから現実のメタファーとして見えるものまで、気がつくと大きな集団に飲み込まれていく現実の社会構造の恐ろしさを垣間見ているようです。

以前の《anotherday》シリーズに登場する人物群の特異なユニフォームは、《ジオラマ(通勤快速)》と《ジオラマ(噂話)》以降の作品では、より中立的な存在として描くため、スーツ姿のサラリーマンになりました。サラリーマンの集合体が主役となったことで、西澤の作品は社会を反映したものと見られる色合いがいっそう濃くなりましたが、《ジオラマ(ストリート書道)》と《ジオラマ(オフィスライフ)》ではさらに、これまで壁紙に近い形で描かれ、あまり大きな意味をもたされていなかった背景が確実に舞台装置として機能し、より日常的な場面も加わって表現に幅が出てきました。それはまた、人物の動きの幅を広げることでもあり、現実に起こっている社会現象や事件に対して、リアリティを感じられないでいる作家自身のスタンスを描き出しやすくなったことでしょう。現に、これまでは不穏な社会状況を感じさせる作品がほとんどだったのに対し、《ジオラマ(ストリート書道)》は、路上で人の悩みを聞き、書にしたためたメッセージによって相手を癒すという商売が成立している現実を、もしこの光景がサラリーマンの集合体だったらどんなに奇妙なことに映るか描いてみせた、ブラック・ユーモア味のある作品となっています。
《ジオラマ(ストリート書道)》
アクリル絵具、キャンバス
60.6 × 72.7 cm
2003


また、《ジオラマ(オフィスライフ)》では、大きな特徴だった俯瞰的構図が、逆に下から仰ぎ見る視点で描かれています。これまでの作品に見られた上空から見下ろす視点は、西澤が社会に対して一歩引いて観察するスタンスをとっているように見られることがありましたが、この変化は、それほど達観していると見られないように考えた結果の展開でしょう。つまり、社会を見ることは、同時に社会から見られることでもあるのです。また、3点の基本の構図を据え置いたまま人物群を入れ替えることで、時間軸を取り入れたようにも、立場の逆転を示唆するようにも見えます。
《ジオラマ(オフィスライフ)》
アクリル絵具、キャンバス(3枚組)
112.1 × 145.5 cm(各)
2003


作家自身のスタンスの変化の兆しは、もう一つの新作《影》にも象徴的に現れています。人物はシルエットだけになり、逆に手前の植物が異様に浮かび上がるように描かれたこの作品では、その対比がますます画面に空虚さを醸し出しています。ですがそこには、人間も植物も大きな時間の流れのなかでは小さな存在だけれども、それでも社会に対して何らかの痕跡を残せるのではないかという、西澤の希望も映し出されています。
人物のシルエットという、アノニマスな存在を登場させたことで、今後、西澤が向き合っていく世界は広がりをみせるように感じられます。その世界とどのようなスタンスで向き合い、どう描き出していくのか、西澤の新たな展開が期待されます。



西澤千晴 NISHIZAWA Chiharu
1970 長野県生まれ
1993 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業
1995 東京造形大学版表現コース研究生修了
1997 「アートスタジオ五日市レジデンス アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」に参加

主な個展
1997 ギャラリー現、東京
1998 ギャラリー現、東京
1999 原宿ギャラリー、東京
2000 「Prints」、ギャラリー現、東京
2001 「Anotherday」、ギャラリー山口、東京
2002 「郷土の作家」展、上山田文化会館、長野(リーフレット)
「ジオラマ」、ギャラリー現、東京

主なグループ展
1993 「第4回日仏会館ポスター原画コンクール入賞作品展」、日仏会館、東京
「第2回さっぽろ国際現代版画ビエンナーレ」、北海道立近代美術館、札幌(カタログ)
2000 「第5回アート公募2001企画作家選出展」、SOKOギャラリー、東京
2001 「第6回アート公募2002企画作家選出展」、アートはるみ、東京
「版画的」、なるせ美術座、東京
2003 「アートジャム」、ギャラリー山口、東京

参考文献
臼木直子(レヴュー)、『美術手帖』、美術出版社、2002年11月号、p.233
西澤千晴(コメント)、金沢毅「裏切りの絵画」(「郷土の作家」展リーフレット)、2002年 pp.2-3


インフォメーション
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2003.3.21[金・祝]─ 6.8[日]
開館時間:12:00 ─ 20:00(金・土は12:00 ─ 21:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日=5.6[火])

入場料:企画展:エイヤ=リーサ・アハティラ展束芋展、収蔵品展014「日本の春─寺田コレクションより」の入場料に含まれます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756