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:小木曽瑞枝 OGISO Mizue |
2002.12.7[土]─ 2003.3.2[日]
小木曽の原点は、色鉛筆で和紙いっぱいにひたすら小さな丸を描くことでした。1996年のドローイング作品《Untitled》は、180×300
cmの大きさに貼り合わされた和紙うえに、色鉛筆とオイルパステルで赤、白、黄、紫、薄緑、群青の丸を延々と描いた作品です。そのとき小木曽は、色鉛筆がやわらかい和紙と接触してゆっくりとぐりぐり減っていく感触が、とても気持ち良かったといいます。これら初期のドローイングからは、無心に制作をした作家の素直な表現の喜びが感じられて、見ている側としても気持ちが良いものです。
そこに見られる「丸」から発展した有機的な曲線と、遊び心あふれるコラージュ、使われる絵の具の色、そして表現の素直な喜びが感じられる幸せなオーラは、小木曽の持ち味として現在の作品にも息づいています。
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《こだま》
アクリル絵の具,綿布
80.3 × 116.7 cm
2002
Photo: Ikeda Mitsuhiro |
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小木曽の作品に共通して見られるテーマは、日常のなかにある見逃しがちなささいなものや曖昧な状態、記憶のなかにある感覚の再現です。鑑賞者は、作家が日常のなかで見たり聞きいたり、触ったりする感覚を想像し、作品を通してそれを自分なりに追体験するのです。
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《夜の蔦》
アクリル絵の具,綿布
116.7 × 80.3 cm
2002
Photo: Ikeda Mitsuhiro |
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《蔦》
アクリル絵の具,綿布
116.7 × 80.3 cm
2002
Photo: Ikeda Mitsuhiro |
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自作について小木曽は、「言葉にならないもどかしいさ」を表現したいといいます。タイトルについてもまた、その言葉が直接的な作品の説明となって見方を限定してしまわないように吟味され、最後につけられます。もどかしい状態を言葉に置き換えきれないことに表現の源を発しているからこそ、タイトルには《じっとしている》《みえるかくれる》《横からみると重なってる》など、進行形="ing"の、すなわち状態そのままを表すものが多くみられます。作品を目にしたとき、一目では何が描かれているのか分からないけれども、想像すると、徐々に何らかの状態にあって、微妙に進行している世界が見る者一人一人のなかでゆっくりと動き始めるでしょう。
以前のパネルに描いた作品は、パネルのもつ物質感ゆえに固く停止した状態に見えていましたが、近年、支持体を綿布に変えてからは、布のもつ柔らかい質感とアクリル絵の具の滲みによって秩序立った奥行きの層が消え、画面空間が再び緩やかな動きをもって広がり始めています。
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《横からみると重なってる》
アクリル絵の具,綿布
2002 |
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小木曽の作品を見ていると、Eメールや携帯電話に取り巻かれ加速度を増した現代の我々の生活に、立ち止まる余裕はないかと、そんなことがふと頭をよぎります。美術史においては、20世紀初頭のイタリアに起こった「未来派」が機械のスピードやパワーに高い価値をおいた時代を反映していましたが、逆に同じくイタリアに起こり、近年日本でも耳にするようになった「スローフード」(*)という言葉もあります。こうした動きからは、食事においても作品においても、良質なものの価値を見つめ直し、ゆっくり相手と対話をすることが健康的であるという、ペース・ダウンの良さを再認識させられます。
こうした時代のなかで、見る者に「状態」を想像させる小木曽の絵画は、作品との肩の力を抜いた対話のひとときをもたらすでしょう。同時に、作品からにじみ出る緩やかさの裏には、一貫したテーマでゆっくりと作品を展開させてゆく小木曽自身の速度、マイペースで描き続けるという作家としての静かな固い意志が垣間見られます。
* 1986年イタリアの田舎町ブラ(BRA)に発足。詳しくはhttp://www.slowfood.gr.jp参照。
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アーティスト・トークの様子(2002.12.15) |
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1971 |
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東京都生まれ |
1994 |
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日本大学芸術学部美術学科卒業 |
1996 |
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東京芸術大学大学院美術研究科修了 |
2001 |
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第15回ホルベイン・スカラシップ奨学生 |
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現在、東京都在住 |
個展
1996 |
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なびす画廊、東京 |
1997 |
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ギャラリー華紋、東京
なびす画廊、東京 |
グループ展
1998 |
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「日常生活展」、モリスギャラリー、東京
「第7回ストリート・ギャラリー」、静岡 |
1999 |
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「・・・を捧げよう」,モリスギャラリー,東京 |
2001 |
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「プレミアショウ」、スカイドア・アートプレイス青山、東京
「2 デイズ・プライヴェート・ショウ 2001」(オープン・スタジ
オ)、スタジオ スーパープレーン、東京 |
参考文献
◎ |
「たんたんと描く日々」、『月刊ギャラリー』、株式会社ギャラリーステーショ
ン、1997年1月号、p.33
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◎ |
小木曽瑞枝「ものいわぬもの」、『アクリラート別冊』、ホルベイン工業株式会
社、2002年6月30日、pp.49-51 |
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2002.12.7[土]─ 2003.3.2[日]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、年末年始(12.24[火]─1.6[月])、全館休館日(2003.2.9[日])
入場料:企画展「アンダー・コンストラクション:アジア美術の新世代」展、収蔵品展013「寺田コレクションの女性作家たちを中心に」の入場料に含まれます。
主催:(財)東京オペラシティ文化財団
お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756
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