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:大塚泰子 OTSUKA Yasuko |
2002.8.31[土]─ 11.17[日]
キャンバスの上方を空色に、下方を緑に塗る。あるいは、水色と紺色に塗り分ける。このとても単純な色面分割が、空と草原、夜の空と海を描いた風景に見えてくる。大塚泰子の作品では、クレパスの限定的な色数と素材の触覚的な要素も加わって、このような単純な画面構成が、幼い頃の「お絵描き」の楽しみにも似た純粋な絵画体験を思い起させてくれます。
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Untitled
リトグラフ、綿布
70.0 x 35.0 cm / 90.0 x 30.0 cm (各)
1994
個人蔵 |
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「色」そのものは本来、形を持たず、物体に所属することで初めて存在します。それは物体固有の色であったり、物質を覆う表面色であったりしますが、大塚の認識は、色彩の光学的分析ではなく、より感覚的、触覚的なものです。視覚が「色」に触れ、その体験が記憶や既知の現象と結び付くことで、見る者のなかに具体的イメージを浮び上がらせますが、色面の分割や単色の重ね合わせによる色の演習は、しだいに抽象的な「色」の存在を多角的なアプローチで顕在化する作業へと移行していきます。 |
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《水の彫刻》 制作風景
クレパス、木材
70.0 x 70.0 x 150.0 cm
2002
(本展のためのニューバージョンです。) |
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1997年には、赤と青が1本になった色鉛筆を使って、キャンバスや壁面に異なるサイズの赤と青の四角形を描きました。二次元で見える面積は異なっても、「色」としての総量が等しいことで、そのボリュームを感覚として把握できるのですが、この感覚は、2001年の《水の彫刻》で再び体現されました。小口の一辺が70cm弱、長さ180cmに切り出された直方体の無垢材の表面を、水色のクレパスで塗りつぶした、大塚曰く「圧倒的な『色』の塊」。一見、「水色」や「水」が形体を得たようでもありますが、実際には材木を皮膜のように覆う表面色でしかなく、物体と色が融合することはありません。これは、重量感のある木材から、支持体を小石へ変えても同じです。
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《水の彫刻》
クレパス、小石
2001
個人蔵 |
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大塚の近作では、「色」に対する関心が、より概念的な「色の存在」へ展開しています。《solid hole》や《穴の絵》など「穴」をテーマにした一連の作品では、ヴォイドとしての穴を存在させるために、石膏を立方体や棒状に固め、そこに黒で円形を描く。あるいは、白いキャンバスに穴を描く。描かれた二次元の穴なのです。存在しないものを視覚化する試みは、白いキャンバスに透明なペインティング・オイルで花を描いた《colorless》シリーズにも続きます。見る角度を変え、光の反射に頼って初めて見えてくる《colorless》の花は、印画紙に直接置かれたオブジェに光を当ててできるレイヨグラフのように、非存在を残された影によって顕在化する試みや、マレーヴィチが《白の上の白の正方形》で見せた空虚な感覚も思い起させます。
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colorless (flower)
ペインティングオイル、キャンバス
53.0 x 45.0 cm(左)
80.0 x 65.0 cm(右)個人蔵
2002 |
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「色」や「色の存在」を追求しつつ、徐々に目に見えない世界へ視界を拡大している大塚ですが、それが厳格なコンセプチュアリズムに走らないのは、構成の単純さによるお絵描き的ノスタルジーなのか。作品を構築する観念は、空の青さを見て心が踊るような純粋な感覚に、不思議と凌駕されてしまうのです。 |
1968 |
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広島県に生まれ |
1991 |
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多摩美術大学美術学部絵画科版画専攻卒業 |
1995 |
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多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻版画修了 |
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現在、愛知県在住 |
個展
1992 |
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藍画廊、東京
Galerie de cafe 伝、東京
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1993 |
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ときわ画廊、東京
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1995 |
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ときわ画廊、東京
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1997 |
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ケンジタキギャラリー・609号室、名古屋
ときわ画廊、東京
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1998 |
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ケンジタキギャラリー、名古屋
2000 Gallery Floor 2、東京
G.H. Gallery、東京
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2001 |
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「Works 1994-1997」、ケンジタキギャラリー、東京
「水の彫刻」、ケンジタキギャラリー、名古屋
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2002 |
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ケンジタキギャラリー、名古屋
ケンジタキギャラリー、東京
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グループ展
1992 |
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Galerie de cafe
伝、東京
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1993 |
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藍画廊、東京
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1995 |
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藍画廊、東京
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1998 |
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Galerie de cafe
伝、東京
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1999 |
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Galerie de cafe
伝、東京
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2000 |
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「SCOPE」、ケンジタキギャラリー、名古屋
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2001 |
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「線と空間―風景展」、福井市美術館、福井(カタログ)
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参考文献
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南雄介「Reviews」、『美術手帳』、美術出版社、1993年5月号、p.163
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◎ |
深山孝彰「<大塚泰子展>1本の赤青鉛筆で」、『日本経済新聞(夕刊)』、1997年8月21日
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◎ |
井上昇治「大塚泰子展」、『中日新聞(夕刊)』、1998年8月17日
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◎ |
石井洋次「5人の多彩な新作SCOPE展」,『読売新聞(日刊)』,2000年7月5日
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◎ |
井上昇治「若手作家5人による新作展・スコープ」、『中日新聞(夕刊)』、2000年7月6日
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◎ |
井上昇治「染谷亜里可・大塚泰子新作展」、『中日新聞(夕刊)』、2001年5月24日
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◎ |
原田真千子「浮景-hover」、『展評』、アートヴィレッジ、2002年1月25日、pp.75-76
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◎ |
井上昇治「見ることと見えることの揺らぎ」、『展評』、アートヴィレッジ、2002年4月25日、pp.17-18
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◎ |
山本さつき「ギャラリー・レヴュー」、『美術手帳』、美術出版社、2002年5月号p.218
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場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2002.8.31[土]─ 11.17[日]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜)
入場料:「ダグ・エイケン|ニュー・オーシャン」展、収蔵品展012「難波田龍起の青─寺田コレクションより」の入場料に含まれます。
主催:(財)東京オペラシティ文化財団
お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756
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