projectN 09 :田中栄子 TANAKA Eiko

2002.2.8[金]─ 5.6[月・祝]





アートギャラリー4階の収蔵品展を抜けて角を曲がり、コリドールの入口に立つと、30m向こうまで一気に突き抜けるような、勢いの感じられる画面が目に飛び込んできます。突き当たりには本展の印刷物の表紙になっている《ビュー 3》(図版1)。田中がシリーズで描いている道の風景の第3作目です。疾走感あふれる《ビュー 3》は、大きな画面にゆるく、長いタッチで伸び伸びと一気に描かれ、オープンカーやトラックの後ろに乗って今まで走ってきた道を振り返って見た瞬間を思わせます。遠近感の強い構図とぬけるような空の濃紺の色彩が、作品のスピード感と鮮やかさをさらに増しています。
図版1
《ビュー 3》
アクリル絵具、キャンバス/131.0 x 194.0cm
2001


今回、《ビュー》シリーズからこの他にも3点、さらに本展のDMのイメージにもなっているボーリングレーンを描いた2連作(図版2)を拡大した作品を含め、100号の大画面の風景画が目を引きます。それは大きな刷毛を使ってワンストロークでキャンバスを横切るように筆を走らせる、田中の制作スタイルに由来するものでもありますが、その大画面は鑑賞者が作品と対峙して客観的に描かれた風景を眺めるというより、そのなかに入り込んで見る効果も生み出しているでしょう。
図版2:《レーン 1》《レーン 2》
アクリル絵具、キャンバス/50.0×60.6cm(各)
2001


田中はこれらのイメージを日常的に行っている雑誌や新聞のスクラップから引用していますが、一度切り絵にしてからキャンバスに描くというプロセスをとっています。切り絵にするのは、もともと版画のキャリアが長い田中にとってドローイングと同じ行為ですが、他人が写したイメージをその背景にある事件や広告宣伝の趣旨から切り離し、田中個人の視点として客観視するためでもあるでしょう。イメージのなかにある面と線の要素を抽出して簡潔な画面に再構成する方法は、風景写真からトレースを繰り返して画面を構成している高橋信行(project N 06)にも同様のものが見られます。
しかしながら田中は、イメージをそのまま切り取り、簡略化してキャンバスに描き移すというよりも、始めから完成のイメージが固まって変更がききにくい版画にはなかった、筆のタッチやアクリル絵具の柔軟性、描きながらどんどん画面が変わっていくことにおもしろさを見出し、ペインティングを中心に制作をするようになりました。そのため近作では、元の写真に映っていた建物や人物を排除する傾向が見られますが、作品は完成した今なお、写された時間を超えてそのなかで時間が継続しているような流動感を醸し出しています。
図版3:《スペース》
アクリル絵具、キャンバス/47.0 x 61.0cm
2001


田中栄子はこれまで関西を中心に活動をしてきた大阪在住の作家です。東京では版画作品で1995年にグループ展、97年に個展を開催していますが、ペインティングを中心に全て2001年の作品で構成された個展は今回初となります。版画の実績を成した才能とは一味違った、新しい田中作品の魅力をお楽しみ下さい。
図版4:《オレンジ》
切り絵/25.0 x 25.0cm
2001



田中栄子 TANAKA Eiko
1969 大阪府生まれ
1993 京都市立芸術大学美術学部美術科版画専攻卒業
1995 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻版画修了
1998 大阪府芸術家交流事業「ART-EX」プログラムにより、ベルギー、カスタレーのフランス・マセレール・センターに(3ヶ月間)滞在
2000 「第13回現代版画コンクール」大賞、「第8回浜松市美術館版画大賞展」大賞受賞
現在、大阪府在住

主な個展(1999年以降)

1999 「森へつづく」、ベルギーフランドル交流センター、大阪
「時空ヲコエテ」、番画廊、大阪
2001 「trip」、ギャラリーOH、一宮

主なグループ展(2000年以降)
2000 「第13回現代版画コンクール」、大阪府立現代美術センター、大阪(パンフレット)
「第8回浜松市美術館版画大賞展」、浜松市美術館、浜松(パンフレット)
「版表現拡がる表象」、愛知県美術館、名古屋(パンフレット)
「KYOTO版画2000」、京都市美術館、京都(パンフレット)
「版の方法論 Vol.1 大島成己 田中栄子」展、名古屋芸術大学美術学部アート&デザインデンター ギャラリーBE / be、名古屋(パンフレット)

参考文献
三脇康生「あなたはマゾヒストか、それともサディストか?」、田中栄子「起点に近づける行為」、『版の方法論 Vol.1 大島成己 田中栄子』、名古屋芸術大学版画研究室、2000年、pp.9-10, 15-16
井上昇治「田中栄子」(展評)、中日新聞、2000年4月12日


インフォメーション
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2002.2.8[金]─ 5.6[月・祝]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

入場料:企画展「JAM:東京─ロンドン」展、収蔵品展010「寺田コレクションにみる日本画への視点」の入場料に含まれます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756