projectN 08 :今澤 正 IMAZAWA Sei

2001.10.6[土]― 12.24[月・祝]



光を放つ
光は古くから洋の東西を問わず、美術、音楽、文学、舞台といった分野を超え、芸術全般にとって欠くことのできない要素の一つとして、多くの芸術家を魅了してきました。そして現代、今澤正(いまざわ せい)もまた、「光の残像となって記憶される絵画」を描こうとストイックに制作を続けています。
図版1:《呪文》
油彩,キャンバス/116.7×91.0 cm
2001
Photo by:SAITO Arata


今澤のキャンバスには、ベネツィア・テレピンが少量混ざった溶液で油絵具と顔料を溶いたものが、一層ずつ混ぜずに塗り重ねられています。カラーフィルムを何層にも重ねた状態を思い浮かべるとよいでしょう。彼の頭のなかには既に完成されたイメージがあって、その再現のために、一枚一枚、下にあるべき色が逆算して重ねられているのです。一つの画面は少なくとも7、8層で構成されているので、そこにはかなり複数の色が含まれていますが、鑑賞者が目にする最上層は2色だけです。今澤が言うには、「今のところまだ一度に2色以上はコントロールがきかないから」だそうですが、それらは隣り合うことで互いに主張しあう濃い色が選ばれ、さらにほぼ同じ明度になるように塗られることでフラットな明るさとなり、ハレーションを起こしたように画面は光を放ちます。色の重なりを下に下に潜ってゆきながら、光をたくわえているです。こうしてできあがった絵画を、鑑賞者は網膜を通して再び自分のなかに色と光の残像として浮かび上がらせます。じっくりと彼の作品の前に佇むと、画面がチカチカと眩しく違う色に見えてくるのはこのためです。それは瞬間瞬間で表情を変え、色と光のなかに潜ってゆく視覚の潜水(ダイビング)へと鑑賞者を誘います。
図版2:《眠り》
油彩,キャンバス/194.0×162.0 cm
2001
Photo by:SAITO Arata


過去の作品では、仕上がりの画面のイメージが見えないまま手探りで描いていたといいます。折り重なった色層のみで構成された作品を見るのは、作品の内部に視点を留め続けるということですが、その状態に目が慣れると、人は画面の深遠さに無感覚になるうえに、視線をどこにも逃がせない重圧感を無意識のうちに覚えることになります。描いている今澤自身も苦しさを感じるようになり、彼は重く沈んでゆく方向からの上昇を試みました。それが意識的に光を求めて発色の強いパステルを用いた作品を制作するきっかけとなり、さらに今回の新作で、画面上に視点を休めるための着地点を設けたことへと繋がっています。
図版3:《園》
油彩,キャンバス/130.3×162.0cm
2000
Photo by:SAITO Arata


《園》(図版3)や《謎》といった近作までは、目に見える2色がともに強い発色をしながらグラデーションを織り成していたために画面が手前へせり出し、鑑賞者は画面の起伏に視線を誘導され、ある意味では見方を限定されていたといえるでしょう。深さをたたえる色層のうえにテトラポットのように浮かぶ画面上の着地点――例えば《呪文》(図版1)における紫、《眠り》(図版2)のグレー、《無垢》(図版4)におけるピンクの部分――は、視点をなかに潜らせるなり、そこで休むなり、より自由な視覚的アプローチを可能にしました。色彩の鮮やかさだけでなく見方を解放することで、今澤の作品はより軽やかさと親しみやすさを増したのです。また、フリーハンドによるわずかなブレやむらなどのマニュアル感が重視されていることも、作品を過度に人工的な作りものにしないための重要なポイントとなっています。
今澤の開かれた絵画のなかから放たれる光に誘われるまま、ぜひそこに飛び込んでみて下さい。視覚の潜水(ダイビング)は、直接の経験がお薦めです。
図版4:《無垢》
油彩,キャンバス/162.0×162.0 cm
2001
Photo by:SAITO Arata


今澤 正 IMAZAWA Sei
1970 山梨県生まれ
1993 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻卒業
1994 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻研究生修了
第8回ホルベインスカラシップ奨学生
1996 「第7回柏市文化フォーラム104大賞展(建畠晢の眼)」優秀賞受賞
東京都在住

主な個展
1994 apt Gallery、東京
1998 藍画廊、東京
2000 藍画廊、東京
Gallery TAGA、東京(リーフレット)

主なグループ展
1992 町田市立国際版画美術館、東京
1994 「Abflug I」、ギャラリーブロッケン、東京(リーフレット)
1996 フタバ画廊、東京
「空間の狭間」、Zexel Zoom、東京
「第10回多摩秀作美術展」、青梅市立美術館、東京(カタログ)
「第7回柏市文化フォーラム104大賞展」、柏市文化フォーラム104、千葉(カタログ)
1997 「第26回現代日本美術展」、東京都美術館、東京/京都市美術館、京都(カタログ)
「第8回関口芸術基金賞展」、柏市文化フォーラム104、千葉(カタログ)
1998 「現代美術精鋭展」、綾瀬プルミエギャラリー、東京
1999 「TEN」、藍画廊、東京
「Jin Session 99 Vol.3」、ギャラリーJin、東京
「第4回アート公募2000企画作家選出展」、SOKOギャラリー、東京

参考文献
「今澤 正」(コメント)、『Altlug I』(リーフレット)、Gallery Brocken、1994年
「バランス」(コメント)、『アクリラート別冊1995』、ホルベイン工業株式会社、1995年、5月20日、pp.51‐53
建畠晢「審査を終えて」(審査評)、『第7回柏市文化フォーラム104大賞展』、柏市文化フォーラム104、1996年、p.2
石川健次「フレッシュ」、『毎日新聞(夕刊)』、1997年5月2日
本江邦夫「イメージの純粋な現れ」、『今澤 正』、Gallery TAGA、2000年


インフォメーション
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2001.10.6[土]― 12.24[月・祝]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

入場料:企画展「エゴフーガル:イスタンブールビエンナーレ東京」展、収蔵品展 009「紙の上の仕事─寺田コレクションより」の入場料に含まれます。

主催:(財)東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756