収蔵品展069
汝の隣人を愛せよ

2020.1.11[土]— 3.22[日]

《Window under the midnight sun 白夜の窓》

加藤清美《哀しき旅人その2》
油彩,キャンバス
53.0 x 40.9cm 制作年不詳
photo: 斎藤新

自らを知り、他者を知る

「汝の隣人(となりびと)を愛せよ」は、よく知られた聖書の一節である。対立するパリサイ派の律法学者がイエスを試そうとして「律法の中でどの掟が最も重要か」と尋ねたのに対して、イエスは「汝の神を愛すべし」と答えたのち、同じように重要な第二の掟として述べたのがこの一節である。この聖句はマタイ伝22章39節の後半部分であり、前半の「己の如く」に続くものである。「己の如く汝の隣人を愛せよ」。イエスの時代から二千年が経った現在、世界はますます多様化し、情報化が進んだゆえに隣の人の価値観が自分と異なることが顕在化することが多くなった。「異なる」ということに対する人間の本能的な警戒心と、「違い」を発見することが容易になった情報化社会は、人々の間に不寛容を生みつつある。己の如く隣人を愛することははたして可能か。本展では、寺田コレクションのなかから自己と他者に関する問いに立脚し、その問題を内包する作品を採り上げ、この難題を考えるきっかけとしてみたい。


本展の冒頭は、寺田コレクションに多く収蔵されるキリスト教的モチーフを描いた絵画、彫刻を展示した。故寺田小太郎氏はキリスト教徒ではなかったが、「人間とはなにか」を終生問い続けるなかで、人間の信念に直接関わる宗教というものへ強い関心を寄せた人だった。また、いうまでもなく西洋の美術史において宗教画はもっとも重要なジャンルのひとつであり、その伝統が日本の近現代美術においても受け継がれている作品は多い。これらのことが、寺田コレクションにキリスト教的な作品が多く収蔵されている所以であろう。今回はそのなかから「人と人の関係」にまつわる作品を出品した。


荒木高子《点字の聖書》
荒木高子《点字の聖書》

18.5 x 44.0 x 39.0cm 1985
photo: 斎藤新

同じ展示室に、加藤清美、落田洋子をはじめとするシュルレアリスム的な作品を並置した。寺田コレクションの特徴のひとつとして、超現実主義の系譜に連なる作品の豊富さが挙げられるが、寺田氏がこうした幻想的な作品に強く惹かれたのは、氏が幻想を「単なる想像の世界ではなく、現実の秩序を壊すことで、物事の根源に迫るひとつの筋道である」(*1)と考えたからだと言ってよいだろう。まずは現実を疑ってみること、自分の考えがなにかに囚われていないか省みること、それらを自らに課すことからあらたに見えるものがあることを氏の言葉は伝えている。


相馬武夫《午後の詩興》
相馬武夫《午後の詩興》
油彩,板
91.0 x 91.0cm 1989
photo: 早川宏一

展示の後半は、人間社会へのまなざしを表した作品でまとめた。人々が無意識に行動するさまをじっと観察し、社会における人間関係の不可思議さを描く相笠昌義の視点には、皮肉がまったくないとはいえない。同じく池田龍雄の「猛獣記シリーズ」や小作青史の「憲法幻想シリーズ」における人間の弱さや滑稽さを強調した作品群、時松はるなや金昭希の「集団としての人間」のおかしみを描いた作品など、そのまなざしは見る人にきまり悪さや不都合を感じさせる種類のものかもしれない。しかし私たちは、そこで目をそらし、背を向けてはならない。寺田氏の収集にこうしたアイロニカルな人間像が多いのは、不都合を直視しつつそこに自分自身を当てはめ、あるいはこうした作品とそれを見る自分を客観的に観察することによって、自らを知るよすがとしたのではないか。また、そうして自らを学び直しながら、他者を知ろうとする反復だったのではないか。他者への不寛容に飲み込まれそうになったとき、寺田氏の次の言葉を思い出して自らを省みてみたいと思う。


小作青史《憲法幻想その壱:第1条 バンザイあるいはホールドアップ》
小作青史《憲法幻想その壱:第1条 バンザイあるいはホールドアップ》
リトグラフ,紙
35.5 x 35.0cm 1994
photo: 田中俊司

「物事を考えるとき、自分を中心に家族や家系、地域や、ひいては日本の風土、民族や日本文化にまで広げていったとき、近いところから属性をおさえていかないと、自分自身がわからないと思うのです。(中略)自分を発見して、自分を大事にしないかぎり、他の人を大事には思えないわけです。日本民族を大事に思えなければ、他の民族を大事には思えないと思うのです。よく言われるようにナショナルなものほどインターナショナルであると私も思います。」(*2)

荒木高子《点字の聖書》
池田龍雄《禽獣記シリーズ:やまあらし》
水彩,インク,木炭,紙
39.3 x 27.2cm 1958-59
photo: 早川宏一

[*1]「コレクター寺田小太郎さんに聞く」『アートコレクターズ』No.14,生活の友社,2009年6月,p.33.
[*2]寺田小太郎,大島清次「コレクションにおける「私」性」(対談),『東京オペラシティアートギャラリー収蔵品選』,(財)東京オペラシティ文化財団,1999年9月9日,pp.136-137



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景


■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4 寺田小太郎メモリアルギャラリー(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2020.1.11[土]— 3.22[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、2月9日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「白髪一雄」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社


お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

開館日時

  • 2020年7月8日[水]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2020年7月9日[木]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2020年7月10日[金]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2020年7月11日[土]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2020年7月12日[日]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
  • 2020年7月13日[月]
    本日は休館日です
  • 2020年7月14日[火]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00

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