プロジェクトN

project N 76
末松由華利 SUEMATSU Yukari

2019.7.10[水] ─ 9.23[月]

《架空の値打ち》(10点組)より
《架空の値打ち》(10点組)より
アクリル絵具,キャンバス
162.0×130.0 cm
2019
末松由華利 コミュニケーションと距離

末松由華利は、アクリル絵具のにじみやぼかし、色彩の重なり合いの効果を極めて精妙に用いながら、抽象的な画面を生み出していきます。抽象とはいっても、しばしば水面や植物など自然を暗示するフォルムもみられ、観る者に漠とした空間の拡がりや、水の気配などを感じさせます。末松の関心はしかし、自然そのものにあるのではなく、たとえば自然に没入したり、そこに帰依したりするような感情とは無縁といってよいでしょう。じっさい末松は、自然とは、人間が生きていくための条件の一つにすぎないと述べています。末松の主たる関心は、自然よりも、われわれ人間が他者とつながりをもち、社会を構成して生きていくうえでの諸問題なのです。「私たちの生きるこの世と、この世に生きる私たちの、救い難い程の残酷さと優しさは、いつも私の興味の主軸である[*1]」と、作家は書いています。

その抽象的な作風からすれば驚くべきことと言えますが、末松の制作ノートには、描きたいテーマや題材、それに相応しい言葉やタイトルが丹念に書き込まれ、つねに新しい制作のためにプールされています。そこでは、末松自身が生活のなかで出会ったさまざまな状況や体験、また日頃感じている疑問などに端を発した種々の事柄が、この世に生きる誰もが出会う人生の諸局面として一般化、普遍化されて言語化されているのです。

いずれにせよ末松にとって、絵画制作とは、たんに形の面白さや色彩の効果、画面の強度などを追求するだけの行為ではありえません。なるほど従来、一般に抽象絵画、ことに純粋抽象といわれる制作領域は、かたちや色彩とその効果に関わる形式上の探求、達成を至上の課題とみなし、そこに優れた内容やテーマは必ずしも必要ではないという態度とむすびつきがちでした。けれども末松においては、まず表現したいこと、描きたいテーマが作品に先行して存在しています。まずタイトル、テーマがあり、それに導かれて、相応しいフォルムや色彩、画面の大きさやフォーマットが吟味、検討され、無数の下絵、習作を経て、完成作の構図や色彩が獲得されていくのです。

《いずれ溶け合う》

《いずれ溶け合う》
アクリル絵具,キャンバス
112.0×324.0 cm
2019

だから末松においては、個々の作品とそのタイトル、テーマとの対応、結びつきは緊密かつ必然的であって、決して任意ではありません。とはいえ、それは末松だけの非常にパーソナルな、いわば内密の領域でのことでもあって、観る側にとっては、作品とタイトルとの照応関係は、必ずしもストンと納得できるとは言い切れません。しかしそもそも、末松自身は、一義的にテーマを提示するようなコミュニケーションははじめから想定していないのです。むしろ観る者が作品をめぐって考えたり、戸惑ったり、自問したりする体験においてこそ、末松の考えるコミュニケーションは完遂されるといいます。末松が想定するイメージと言葉(タイトル)によるコミュニケーションは、一方通行の伝達とは異なるのです。

興味深いことに、末松は、あるテーマ、タイトルに相応しい形式を模索するプロセスにおいて、得られた表現があまりにタイトルと密着しすぎているように感じられたり、あるいは決まりすぎたような、あたかも断言するかのような表現と思われる場合は、いかにそれが画面としての強度を備えていようが、採用せず、没にするといいます。一義的なイメージは、かえってコミュニケーションを活性化させるはずの「動き」を止めてしまうからです。重要なのは、テーマの内容に応じて、いわばどこまで言って、どこを言わずに止めておくか、どう含みをもたせるか、なにを促すか、そのさじ加減の判断であり、つまり、我々が他者との日々のコミュニケーションにおいて行なっている判断と、それは変わりません。末松の制作行為は、豊かでクリエーティブなコミュニケーションを指向してやまないのです。

《それは誰にでも均しい》

《それは誰にでも均しい》
アクリル絵具,キャンバス
116.7×116.7 cm
2018

末松の作品の連なり、タイトルも含めた連なりと向き合うとき、そこに感じられるのは、この作家特有の、すべてに対するある冷静な距離感ではないでしょうか。作家自身の生の体験に裏打ちされた切実さを底流としつつ、それをむしろ突き放すかのように冷静に観察し、一般化、普遍化し、さらに批評する、そうした高度な距離感が、末松の表現行為を貫いている軸として、否応なく感じられるのです。そのぶれることのない軸に導かれてこそ、私たちもまた、自らの思考と想像力、そして身体を含めた感覚の総体を活性化させながら、末松の投げかけに応答せずにはいられないのです。

[*1] 2018年に書かれた以下の作家ステートメントより引用。
https://yukarisuematsu.wixsite.com/mysite/about




ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景


末松由華利 SUEMATSU Yukari
1987 埼玉県生まれ
2010 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業
2017 アーティスト・イン・レジデンス「中条アーティスト・イン・レジデンス」,長野
2019 第33回ホルベイン・スカラシップ奨学生
埼玉県在住
   
主な個展
2017 「末松由華利‐輪の中で考えたこと‐」,長野市芸術館,長野
2018 「RANDY ART HILLS vol.42常ならぬ季節」,RANDY,東京
「永遠に損なわれたもの」,KURUM’ART contemporary,東京
   
主なグループ展
2008 「via art 2008」,シンワアートミュージアム,東京
2014 「2014 NIIGATAオフィス・アート・ストリート」,第四銀行新潟駅前支店,新潟
2016 「SICF17」,スパイラルホール,東京
2017 「池袋アートギャザリング IAG Awards 2017」,東京芸術劇場,東京
「シェル美術賞展2017」,国立新美術館,東京
2018 「FACE展2018損保ジャパン日本興亜美術賞展」,東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館,東京
「C-DEPOT selection」,パークホテル東京,東京
   
受賞
2008 via art 2008 藤本幸三(エルメスジャポン)審査員特別奨励賞
2014 2014 NIIGATAオフィス・アート・ストリート 新潟商工会議所特別賞
2017 シェル美術賞2017 島敦彦審査員賞


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2019.7.10[水] ─ 9.23[月]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月4日[日](全館休館日)
入場料:企画展「ジュリアン・オピー」、収蔵品展067「池田良二の仕事」の入場料に含まれます。

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

開館日時

  • 2019年9月17日[火]
    休館日
  • 2019年9月18日[水]
    11:00 - 19:00
  • 2019年9月19日[木]
    11:00 - 19:00
  • 2019年9月20日[金]
    11:00 - 20:00
  • 2019年9月21日[土]
    11:00 - 20:00
  • 2019年9月22日[日]
    11:00 - 19:00
  • 2019年9月23日[月]
    11:00 - 19:00

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