プロジェクトN

project N 74
大和美緒 YAMATO Mio

2019.1.12[土] ─ 3.24[日]

《REPETITION RED (dot) 1》
《REPETITION RED (dot) 1》
油彩,キャンバス
227.3×181.8cm
2014
個人蔵
大和美緒 生命的秩序と今日的リアリティ

大和美緒は、点の連なりや一定の曲線など、ある単位、パターンの反復によって画面を覆い尽くす作品を制作します。いわゆる抽象絵画といえばそうなのですが、むしろもっと具体的な、なにかリアルな印象が強くなっています。われわれがそこで向き合うのは、きわめて繊細、精緻な構造であり、それはときに有機的、ときに無機的であり、あるいは繊維質だったり、鉱物質だったりします。いずれにせよ、ミクロでもマクロでも共通して現れる自然界のいわば自己組織化するフォルムとの共通性を感じさせます。実はわれわれが見てとる構造は、大和自身が意図して「描いた」というより、一定のルールにもとづいた作業の果てに自ずとたち現れた、あるいは作業の結果として事後的に与えられた、といったほうが相応しいのです。

大和の制作を規定しているルールとは、たとえば「REPETITION RED (dot)」のシリーズでは、まず画面の縁、その一辺に沿って一列に、赤い点(ドット)を等間隔に打ち、次にその内側に平行してもう一列、まったく同じ点の連なりを打っていきます。これを根気よく繰り返して画面全体を赤い点で覆ってゆくのですが、その気の遠くなるような行為においては、当然手作業ゆえのズレやゆらぎが生じてきます。大和はそれを否定せず、流れとして受け入れ、次の列ではさらにそのズレやゆらぎをなぞるように繰り返してゆきます。これを続けてゆくと、さらに点の列は乱れ、歪んでうねり、やがて無秩序に近づいてゆきます。しかし実際には、ぎりぎりのところで秩序が保たれ、画面には全体としての構造が与えられるといいます。大和にとって制作行為とは、意識的にイメージをつくることではなく、目と手の作業の果てに画面に浮かび上がるそうした秩序や摂理、そのありようを追うことに他なりません。そこにこそリアリティと力が宿るのだという確信が大和にはあるのです。こうした関心は、たんなる表現や造形の問題をこえて、物質と生命をめぐる自然界、あるいは経済、社会といった人間の営みも含め、万象への問いを射程に含む広がりをもっています。「生きる」とはなにかというシンプルな問いに発し、「物質や身体が時間の流れとともに徐々に変化してゆく過程」への関心を深めてきた大和は、制作を通して、「生命は大きな摂理の中で、成り立ち、生きるものだということ」を確認するとのべています[*1]。



《REPETITION BLACK (line) 5》

《REPETITION BLACK (line) 5》
インク,紙
110.0×167.0cm
2018
株式会社グランマーブル蔵

いうまでもなく、大和にとって重要な「ゆらぎ」とは、散逸構造、複雑系、自己組織化など、生命をめぐる今日的な諸議論においてもキー概念となっています。近代科学の機械論的な生命概念を克服し、より包括的、生態学的な生命把握を深化させることが21世紀の課題だとすれば、大和の制作と問題意識は、きわめて今日的な色彩を帯びてきます。

大和作品は、作品がはらむ身体的な運動性や時間性という観点からも、考えさせられるところが多いといえます。ひとつには、一般に近代以降の絵画では、タッチやストローク、その重なり具合などから、筆の動いた軌跡、ひいては描く画家の身体運動や制作における時間の進行などを追体験することができますし、いわばそれが絵画を見ることの内実をなしているとさえいえるのですが、大和の作品では、そのあたりの事情も異なってきます。つまり大和作品において、「与えられた」構造から読みとれる運動性や時間性は、実際の制作プロセスにおける作家の身体運動やそこで進行した時間とは必ずしも対応していないのです。たとえば《REPETITION RED (dot)15》(下図参照)は、右の縁、つまり右側の垂直の辺に縦一列に点の列を打ち、それを反復して徐々に左の対岸まで描き進んで制作された作品ですが、そのプロセスを、作品を見るわれわれが追体験することは必ずしも容易ではありません。われわれが向き合うのはむしろ、たとえば、地層が堆積するような下から上への動き、あるいは左下から右上がりで流れていくような動き、そしてそうした動きと結びついたどこか密やかな時間性ではないでしょうか。つまり、制作行為の結果として事後的に与えられた構造は、作家の身体運動の一義的な痕跡としての性格を超えた、別の表情、秩序、時間性を帯びた、ある種の「他者」としての相貌を呈しています。大和は、今日のデジタル環境のなかで「身体」を限界まで使いきったときになにが起こるのかにも関心があるといいます。上に述べたことは、どこかこうした関心とも交錯しているようで、興味深いところです。



《REPETITION RED (dot) 15》

《REPETITION RED (dot) 15》
油彩,キャンバス
100.0×100.0cm
2016
株式会社グランマーブル蔵

大和作品のドットの果てしない広がり、それがもたらす構造は、紙やキャンバスにとどまらず、建築など現実空間へと広がり、展開していく可能性もはらんでいます。実際、大和は展示空間の壁面や窓ガラスへのペイントも試みています。極論すれば、大和にとって、紙やキャンバス、ガラスや壁面などの支持体は、「構造」を発生させる受け皿として便宜的に必要なだけなのかもしれません。いってみれば支持体はスクリーンのようなもので、条件によっては、別のモノに置き換えてもかまわない、といったニュアンスが心なしか漂っています。そのあたりはやはり、デジタル環境に慣れ親しんだ若い世代らしい感性のあり方ではないでしょうか。

大和のユニークな試みが、絵画の新しいあり方を切りひらく可能性を秘めているのか、むしろ絵画を超えた展開の可能性を秘めているのか、あるいはその両方なのか、今後の活動が注目されます。




[*1]大和のことばは以下参照.
https://docs.wixstatic.com/ugd/074a71_b0df235d7f074000a55c425c724b56ab.pdf
http://mioyamato.com/biographie_jp/

ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

大和美緒 YAMATO Mio
1990 滋賀県生まれ
2013 京都造形芸術大学芸術学部美術工芸学科洋画コース総合造形卒業
2015 京都造形芸術大学大学院芸術研究科芸術表現専攻修士課程総合造形領域修了
京都府在住
   
主な個展
2014 「aspect of LUMINOUS RED: ルミナスレッドの容貌」,ギャラリー・パルク,京都
2017 「VIVID-STILL:静か。鮮烈で_」,ギャラリー・パルク/COHJU contemporary art,京都
   
主なグループ展
2013 「アートアワードトーキョー丸の内2013」,行幸地下ギャラリー,東京
2015 「ULTRA×ANTEROOM exhibition 2015」,ホテルアンテルーム京都ギャラリー9.5,京都
「WEEKEND: 第二期 コシノヒロコ×大和美緒」,KHギャラリー芦屋,兵庫
「第2回CAF賞入選作品展覧会」,アーツ千代田3331,東京
「アートアワードトーキョー丸の内2015」,丸ビル1階マルキューブ,東京
2018 「1.2.3.4.5」,Rin Art Association,群馬
「セイシュンカタカタ」,青春画廊千北,京都
   
受賞
2013 アートアワードトーキョー丸の内2013 高橋明也賞
2015 第2回CAF賞 山口裕美賞
アートアワードトーキョー丸の内2015 小山登美夫賞


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2019.1.12[土] ─ 3.24[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、2月10日(日・全館休館日)
入場料:企画展「石川直樹 この星の光の地図を写す」、収蔵品展065「木版画の魅力」の入場料に含まれます。

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)