収蔵品展065
木版画の魅力

2019.1.12[土]— 3.24[日]

磯見輝夫《夜》

磯見輝夫《夜》
木版画,和紙(二曲一隻屏風)
70.0×120.0cm
1979
photo: 斉藤新



木版画といえば、学校の授業で取り組んだという人も多いでしょう。毎年の年賀状を木版画で制作するという人もいるかもしれません。日常でも親しまれる木版画は、東洋に起源を持ち、最も古い版画技法です。
木版画は、日本においては古くから経典や仏画、版本などの印刷に用いられてきました。江戸時代には浮世絵が隆盛を極め、多色摺りをはじめとする多彩な技法と、絵師・彫師・摺師による分業システムが確立し、幅広い表現が可能になりました。やがて文明開化とともに海外から最新の印刷技術がもたらされると、木版画の需要はいったん落ち込みますが、明治末期頃からはその芸術性を見直す動きが出はじめます。浮世絵の高い技術を活かして新時代の木版画を目指した「新版画」、自画・自刻・自摺によって独創性を追求した「創作版画」、外国人絵師による西洋の表現と浮世絵技術の融合などがその主な例です。戦後、斎藤清や棟方志功が国際的な評価を受けると、木版画の芸術性を追求する動きはますます熱を帯び、現在に至るまで数多くのアーティストによって木版画の表現が拓かれてきました。



柿崎兆《湾岸》
柿崎兆《湾岸》
木版画,和紙
21.0×13.0cm
1991
photo: 斉藤新


今回の展示では「ブラック&ホワイト」をテーマのひとつに掲げる寺田コレクションから、木版画を中心に制作する17人の作家を採りあげます。
前半では、当館でとりわけ数多く収蔵している磯見輝夫と柿崎兆の作品を紹介しています。磯見輝夫の作品は、モノクロームのダイナミックな表現が印象的です。版木にはあまり用いられない杉材を使い、さらに版木を横に接ぐことで大型の作品を実現させました。磯見は版を制作するとき、版材を提供してくれた木そのものを意識するといいます[*1]。その言葉のとおり、板目や継目、それらによる摺りムラまで画面に取り込むことで荒々しさを与え、力強い画風を確立しています。
柿崎兆は、うつろう自然の一瞬の色や形を抽象的に表現しています。淡い色面を重ねることで、画面に奥行きや深みをあたえており、その色づかいが醸し出す雰囲気は、どこか日本的で懐かしくもあります。
ところで、色を重ねるという表現は版画のひとつの大きな特徴といえます。下の色面を保ちつつ上から色を重ねることで、色のレイヤー(層)が表れ、透明度が増します。これが版画特有の軽やかさにつながるのでしょう。本展の齋藤千明、木村繁之、坂本恭子などの作品からは、この色層を意識して制作されていることがうかがえます。



木村繁之《離園》
木村繁之《離園》
木版画,紙
27.0×20.0cm
1999
photo: 斎藤新


木版画には、木を縦に切り出した木材を用いる板目木版と、輪切りにした木材の中心部を用いる小口木版があります。18世紀末のイギリスで誕生した小口木版は、木材の固い芯部を使った細かい表現が特長で、19世紀のヨーロッパでは本の挿絵などに盛んに取り入れられました。林孝彦の連作「カムイユカラ」は、アイヌに伝わる自然の神々の物語をテーマにしており、神秘的ともいえるイメージを小口木版で精緻に表現しています。
佐竹邦子が取り組む木版リトグラフは、版画家の小作青史が考案した新しい版画技法です。リトグラフは、石や金属板に油性の素材で描き、水と油の反撥作用を利用して刷る平版の技法で、版を彫る木版画や腐食させる銅版画とは異なり、手で描いたものがそのまま紙に転写されるのが特徴です。
版画の特徴のひとつに複数性が挙げられますが、実は一点ものの版画も存在します。モノタイプと呼ばれるもので、今回の展示では李珉の作品がそれにあたります。モノタイプは、平らな版に直接描き、それを定着させることなく画材が乾く前に紙に写し取るため、一度しか刷ることができません。使用する版材やインクよってもさまざまな表情を見せ、その偶然性に面白みを感じられるでしょう。



山中現《冬の日》
山中現《冬の日》
木版画,和紙
30.5×22.5cm
1998
photo: 斎藤新

このように、ひと口に木版画といっても、その大きさ、技術、質感など表現がバリエーションに富んでいることがお分かりいただけると思います。その多様な木版画に共通するのは「木」であることと「版」を介するということです。自然から切り出された木を彫るという行為は意のままにならないこともありますし、「版」を介することで、版から紙をめくる瞬間までどのような表情に仕あがるのかわからない部分もあるでしょう。だからこそ木版画には「未知」の魅力があるのではないでしょうか。それぞれの作家が「木」や「版」とどのように対話してきたのか、刷りあがった作品から想像するのもまた、木版画を観る楽しみのひとつではないでしょうか。

[*1]工藤香澄「磯見輝夫の歩み」、『島田しづ・磯見輝夫展色彩とモノクローム磯見輝夫』、横須賀美術館、2016年、p.51

ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景


■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2019.1.12[土]— 3.24[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、2月10日(日・全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「石川直樹 この星の光の地図を写す」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社


お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)