収蔵品展063うつろうかたち
寺田コレクションの抽象

2018.7.14[土]— 9.24[月]

オノサト・トシノブ《タペストリー》 シルクスクリーン,布 137.8 × 84.1cm 1977 photo: 斎藤新
オノサト・トシノブ《タペストリー》
シルクスクリーン,布
137.8 × 84.1cm 1977
photo: 斎藤新


難波田龍起と日本の抽象 ─ 戦後から1990年代まで

諸説があるものの、一般的に抽象絵画の成立は、1910年代初頭にカンディンスキーやモンドリアンらによって創始されたとされます。その後ナチス政権の迫害から逃れるため亡命、移住した多くの美術家たちによって、抽象美術運動はアメリカにも広がっていきます。第二次大戦後、ヨーロッパでアンフォルメル、アメリカで抽象表現主義と呼ばれる潮流が顕著となり、抽象絵画および抽象主義は大きなうねりとなって、1990年代なかば頃まで長らくの間美術の主流となりました。
一口に抽象絵画といっても、さまざまな作風や傾向があり、「冷たい抽象」「熱い抽象」は、その印象的特徴を対比的に捉えた呼称です。「冷たい抽象」は幾何学的抽象とも呼ばれ、文字どおり、幾何学な線や面などによって構成される表現形式を指します。他方、「熱い抽象」は、アンフォルメルや抽象表現主義のように、激しい身振りをともなう絵画傾向を指します。
もっとも、「冷たい・熱い」の区別は便宜的なもので、必ずしもこの分類に当てはまらない抽象表現もあります。とくに戦後日本の抽象絵画は、第二次大戦で中断されていた戦前の幾何学的抽象やシュルレアリスムの流れを汲む画家たちや、アンフォルメル運動に直接的に関わった画家たちのグループのほか、“アンフォルメル・ショック”と呼ばれる一大ブームのなかで具象から抽象に転向した夥しい数の画家たちも加わり、より複雑で混沌とした美術状況を呈しました。


難波田龍起《合掌》
油彩,キャンバス
60.6 × 72.7cm 1976
photo: 斎藤新

難波田龍起は、こうしたグループのいずれにも属さない点で、きわめて特異な存在といえるでしょう。戦前に具象絵画を描き、戦後のアンフォルメル運動やアンフォルメル旋風とは直接的な関係なく抽象絵画を志して、その本質を独自に解釈して自己の様式を確立したからです。龍起は、1950年代末までに自己の内的イメージを定着させた抽象表現を開花させますが、1974年の次男史男、翌年の長男紀夫のあいつぐ死を契機に、晩年には、線と形態が融合した、より内省的性格の強い心象風景に到達します。1997年11月8日に92歳で亡くなるその長い画業の道程は、ほぼ戦後日本の抽象絵画の展開と重なっています。
戦前から抽象表現を模索していた代表的な画家として、村井正誠が挙げられます。龍起と同じく1905年生まれの村井は、1930年代から抽象絵画を制作し、単純な形態と明快な色彩がリズミカルに交錯する独自の画風を確立しました。また、戦前に構成主義的な作風を示したオノサト・トシノブは、シベリア抑留から帰国後、錯視的な幾何学的抽象の様式を確立した画家です。


堂本尚郎《絵画》
油彩,キャンバス
92.0 × 60.0cm 1961
photo: 斎藤新

アンフォルメル運動に直接関わった画家には、吉原治良を中心とする具体美術協会の画家たちがいます。また、堂本尚郎は、滞仏中に日本画から洋画に転じ、当時隆盛しつつあったアンフォルメル運動に身を投じ、その中心作家のひとりとして活躍しました。1952年に渡仏した菅井汲は、アンフォルメルの影響を受けながら、重厚な絵肌と単純化された形態による抽象絵画を制作し、戦前にモダニズム絵画の旗手として活躍した猪熊弦一郎は、1955年からニューヨークにアトリエを構え、明快な構成による幾何学的な抽象画風を確立しました。
龍起の次男・史男が、内面からあふれ出るイメージの数々を、ペンや水彩によって描き留めていた1960年半ばから70年代にかけて、日本の美術の潮流は、ミニマリズムやコンセプチュアリズムなど、欧米の美術動向の影響をますます強く受けるようになります。ミニマリズムの抽象表現としては、桑山忠明や山田正亮の絵画、李禹煥や榎倉康二らのもの派の作品が挙げられ、ポストミニマリズム世代の堀浩哉、辰野登恵子らの絵画がこれに続きます。



中西夏之《白,緑より白く 》
油彩,キャンバス
41.0 × 64.0cm 1988
photo: 斎藤新

龍起は、「造形美術の根本を考えてみると、敢て具象と抽象を分けるのは間違いのように思われる」と書いています。東西冷戦の終結にともなうイデオロギー対立の消滅によって、抽象絵画および抽象主義は現代美術の主流でこそなくなったようですが、難波田龍起の抽象絵画の実践と思考を通じて、あらためて抽象絵画の今日的な意味と可能性を考えてみるのも面白いでしょう。


ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
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展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2018.7.14[土]—9.24[月]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月5日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「イサム・ノグチ ─ 彫刻から身体・庭へ ─」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンリアルエステイト投資法人


お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)