2001.4.4[水]― 6.17[日] 今回のproject Nでご紹介するのは、高橋信行(たかはし・のぶゆき/1968年生まれ)です。近年では芦屋市立美術博物館や水戸芸術館現代美術センターのクリテリオムなど、関東のみならず名古屋や京都でも紹介され、注目を集めている若手ペインターの一人です。 |
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切り絵を思わせるコラージュ的な表現方法や、現代版浮世絵とでもいうような「間」をもった平面空間、また日本を強くイメージさせるモチーフによる画面構成は、これまでも高橋の作品を極めて簡潔に特徴づけてきました。 彼自身はモチーフとなる風景を描くため、実際に温泉に行くわけでも京都に出かけるわけでもなく、雑誌や図録といった既成のイメージを引用しています。風景写真のトレースと拡大を繰り返して画面を構成してゆく制作方法は、システマティックであると評されることもあるほどで、要素が整理された高橋の作品は、一見私たちを突き放し、画中に入り込む隙を与えないように見えます。 しかしながらそこで、寺社や灯篭、露天風呂といった、私たちの周囲にある「日本的」なイメージが、鑑賞のきっかけとして目を留める役割を果たしています。既成の日本的なイメージに眼を留める高橋は、意識的にせよ無意識的にせよ、鑑賞者と同じ立場において既視感を覚えるモチーフにごく自然に反応しているといえるでしょう。 |
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鑑賞者が高橋の作品に対して抱く既視感は、作品が衝撃的であるためというよりも、その表現されるモチーフや要素がしばしば繰り返されるためではないでしょうか。彼は、作品の元にしている写真のなかで描きたい要素は限られているといいます。多くの作品に共通しているのは、例えば遠くに見える山なみと手前にある温泉の壁、豊かに湧きあがる湯けむりなどによる遠近感のある構図、またそこに浮かび上がる光と影などがあげられるでしょう。写真に映っている他のものは最初のドローイングで排除されます。こうして取捨選択され、最小限に抽出された要素のみを表現した結果、類似した複数の作品が制作されているように見え、既視感を覚えることに繋がるのです。
今回の展示では、作品と対面したときに実際にその場に立って景色を眺めるかのように、高さを微妙に調整しています。絵画という2次元のものに画中に入り込めそうな第3の視点を与えることで、鑑賞者は描かれた景色を擬似体験することになります。それは、もとの風景写真から高橋が想起した風景画への、視点の移行を追体験することでもあるのではないでしょうか。そこに高橋の主観と客観のバランスを見ることができます。 |
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