プロジェクトN

project N 68
森 洋史 MORI Hiroshi

2017.7.8[土]─ 9.3[日]

《木に人を接ぐ》(部分)木版、油性インク、雁皮紙、茶袋、コーヒー豆 サイズ可変 2017 photo: 安田暁
《Memories #1》
アクリル絵具、ウレタン塗装、銀鏡塗装、UVシルクスクリーン印刷、アルミパネル
163.0 x 224.0 x 3.2cm
2014
木之庄企畫蔵
実体なき亡霊のモンタージュ 森洋史の絵画

光を反射して輝くゴージャスな画面。西洋の古い宗教画や誰もが知る名画を思わせる構図ですが、人物はアニメのキャラクターに置き換えられ、その質感は不自然なほど均質な、真新しいおもちゃのようです。どこかで見たことがあるという懐かしさと、それでいてなにか違うと感じる心地の悪さの間で、観る者は困惑し、立ち止まってしまいます。森洋史の絵画には、つるりとした実際の表面とは裏腹に、人の目を引いて離さないなにか粘着質なものが付されているかのような、得体の知れない「引き」を感じずにはいられません。いったいこの絵画の粘着質はどうして生まれるのでしょう。



《Invincible Girl》
アクリル絵具,ウレタン塗装,銀鏡塗装,
UVシルクスクリーン印刷,木製パネル
160.0 x 90.0 x 3.0 cm
2017
photo: 早川宏一

森の作品の骨組みをなしているのは、東西の名画や有名な映画のワンシーンなど、人々の間で好ましく共有されるイメージの数々です。ディテールは漫画調に加工され、登場する人物の姿はこれまたよく知られたアニメの主人公にすげ替えられています。モチーフを既存のイメージから採る手法はシミュレーショニズムの例を挙げるまでもなくもはや珍しいことではありませんが、森の絵画はその系譜に連なるものであることは疑いようもないでしょう。作品には、イメージにオリジナルを求めることの不可能と無意味さを端から悟っているインターネット世代の画家に特有の、醒めた客観性がただよいます。そもそも森が流用にあたって既存のイメージとして扱っているのは、オリジナルの絵画でも映画でも、インターネットや印刷によって何百万回と複製されてきたイメージでもなく、それらを見た人々の記憶の中にある像、いわば「イメージの亡霊」です。情報にあふれた日常の中で、私たちはそれが亡霊であることすら忘れたまま、オリジナルの持つ権威や崇高性、あるいは卑近さを注釈としながらそれらのイメージを共有しています。森の画面にからめとられるように引き寄せられるのは、本来まったく異なる文脈をもつ別個のイメージが、その文脈を引きずったままなかば強引に融合されていることによる違和感の先に、そのことによって私たちが認識していたイメージ自体実体があるものではなかった、と勘づく時なのかもしれません。



《Seasonal Revolutions #3》
アクリル絵具,ウレタン塗装,UVシルクスクリーン印刷,キャンバス
162.0 x 97.0 x 3.0 cm
2017
photo: 早川宏一

こうした亡霊のハイブリッドを、森は過剰なほど複雑な技法によって画面上に表出させます。コンピュータ上で合成したイメージをフラットベッドの巨大なUVスクリーン印刷機を通して磨き上げたパネルに印刷し、さらにウレタン塗装や銀鏡塗装と研磨を繰り返すことで、工業製品と見まがうばかりの精度と堅牢さを持った像が生成されます。現代の最新技術を駆使し、膨大な時間と手間をかける力業は、それによって表される漫画調のイメージと不釣り合いなほど大仰に見えますが、モチーフ同士の取り合わせにしろ技法とイメージのアンバランスにしろ、こうした違和がもたらす「ずっこけ感」こそ、自らを皮肉屋と自嘲気味に称する森が求めてやまないものなのです。大学院では技法・材料の研究室に所属し、名画の模写を数多く行ったという森は、そうした伝統的な絵画の持つ唯一性、伝統を重んじる画壇といった権威、また一方で漫画やアニメを愛好する人々の閉じた濃密な同人文化などにリスペクトを示しつつも、そこに「悪戯」をしかけることで、人々の共有するイメージが今日においては実は実体なき亡霊にすぎないことを露わにします。亡霊とは、実際には「オリジナル」がそこに存在しないにもかかわらずあたかも存在しているかのように出現するもの(シミュラークル)であり、それが「オリジナルではない」と認識しない限り不気味なものにはなりえません。亡霊の存在を意識することを意図的に避けているともいえる情報化時代にあって、そこに投じられた森の悪戯は私たちの意識を覚醒させ、亡霊は亡霊としての正体を現します。その時のいささかの心地悪さが、森の絵画の発する奇妙な粘りけの理由なのでしょう。



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

森 洋史 MORI Hiroshi
1977 東京都生まれ
2000 東海大学教養学部芸術学科美術学課程卒業
2013 東京藝術大学大学院美術研究科油画技法・材料修士課程修了
   
主な個展
2013 「Glimmering Light」,アート・エクスペリエンス・ギャラリー,香港
2014 「Oh My Goodness!」,木之庄企畫,東京
2015 「LA ART SHOW 2015」, 木之庄企畫,ロサンゼルス・コンベンション・センター,ロサンゼルス
2016 「Reanimation」,阿久津画廊,前橋
2017 「LITTLETOPIA」, Art Lab TOKYO,東京
   
主なグループ展
2014 「シェル美術賞アーティストセレクション 2014」,国立新美術館,東京
2015 「Neo Mythology」,bGギャラリー,サンタモニカ
2016 「POPCON ASIA 2016」,ジャカルタ・コンベンション・センター,ジャカルタ
「The Nature of Jungles」,ウィリアム・ローランド・ギャラリー・オブ・ファイン・アート,サウザンドオークス,アメリカ
2017 「Tokyo Berlin」,クンストラウム・gadベルリン,ベルリン
「Multicultural Views」,S.E.A.ロサンゼルス,ロサンゼルス
   
受賞
2010 シェル美術賞2010 本江邦夫審査員奨励賞
2012 第7回タグボートアワード 後藤繁雄審査員特別賞
2015 TERRADA ART AWARD 2015 優秀賞/山口裕美賞


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2017.7.8[土]─ 9.3[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、8月6日[日](全館休館日)
入場料:企画展「荒木経惟 写狂老人A」、収蔵品展059「静かなひとびと」の入場料に含まれます。

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)

TODAY'S ART GALLERY

  • 2017年7月27日[木]
    本日の開館時間 11:00 - 19:00
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