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児玉麻緒の作品は、自宅の庭や旅先で彼女が目にとめた草花を描いています。草花と言ってもその範囲は多様で、旅行で訪れた南仏ジヴェルニーのモネの庭で見た植物もあれば、ゴーヤ、キャベツ、トマトなど、自宅の家庭菜園で育てる野菜も含まれます。作品サイズもさまざまですが、構図や表現には共通する特徴が認めらます。大半の作品は、モティーフに正対し、周囲の風景からその部分だけを切り取るように描かれています。植物図鑑の挿絵のような写実的描写ではなく、花弁や葉の特徴を大胆に把握し、油絵具の発色や配色にも留意しつつ制作しています。モティーフの花を画面一杯に大きく配するため、おのずと画面空間の奥行きは制限されますが、ところどころから覗く下地の白が、葉の間をそよぐ爽やかな風のように、作品に新鮮な息吹きをもたらしています。 一般的に野外の花を描く場合、いくぶん俯瞰した構図で、その周囲の情景や背景の空などを含めて表現するのがふつうです。ジヴェルニーのモネの庭に取材した児玉の《HASUMUKOU》《IKEMONET》は俯瞰構図ですが、これは彼女の作品としては例外的なものです。彼女の作品では、野生の花を描くというより、むしろ花瓶に生けた花を描くかのように、画家はモティーフに対峙しています。しかも、画家とモティーフとの距離感は、通常の静物画におけるそれよりも著しく近いように見えます。まるでクローズアップレンズで切り取ったかのように、児玉は花々を矩形のキャンバスに形象化します。彼女の作品は、テキスタイル会社のマリメッコ社の2013年秋冬のデザインとして採用されましたが、画面全体に隈なく焦点があたるその表現は、テキスタイルのデザインとの親和性も高いと言えるでしょう。 ![]() 《トマトオ》 花を描く児玉の絵は、不思議なことに、どこかポートレイトに似たような雰囲気を感じさせます。クローズアップの効果によるところが少なくないはずですが、独特な作品名もそうした印象を強めるのに一役買っています。児玉の作品名にはユニークなものが多く、たとえば、極楽鳥花(ゴクラクチョウカ)を描いた作品は《チョウカ》、自宅の菜園でたわわに実ったトマトは《トマトオ》、チューリップは《チュー》、ジヴェルニーのモネの庭で見たマリーゴールドは《MARGO》という具合です。そこには親愛や愛着が込められ、作品名というよりも、ニックネームに近いかも知れません。こうした眼差しや心情のあり様は、植物を限りなく人間存在と等しいものとして捉えようとするものに違いありません。 ![]() 《HASUMUKOU》 児玉麻緒の作品のもう一つの特徴は、油絵具の特性を活かしたそのヴィヴィッドな色彩感覚です。鮮やかな赤がひときわ印象に残る作品は少なくありません。けれども、その赤色を際立たせるものとして、同時にもちいられる黒色の存在も見逃せません。どの作品でも、さながら暗闇が光明を浮き上がらせるように、黒は画面のなかできわめて重要な位置を占めています。色彩で埋め尽くされ、ともすればフラットな印象になりかねない画面で、黒は、ニュアンスのある陰影や空間の奥行きを生み出して、画面空間を引き締める役割を果たしています。鮮烈な色彩の花や葉で覆われた作品はこうして、装飾的でありながらも、濃密なエネルギーを宿す有機的な存在として鑑賞者の目に迫ってくるのです。児玉麻緒が描く花は、たんなる花のイメージを超えて、ゆるぎない生命力そのものの直截的な表現となっていますが、黒はそのドラマティックな絵画世界を演出する、まさに黒子のような存在と言えるでしょう。
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児玉麻緒 KODAMA Asao | |
1982 | 東京都生まれ |
2008 | 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業 |
2010 | 多摩美術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画研究領域修了 |
2012 | 第27回ホルベイン・スカラシップ奨学生 |
個展 | |
2008 | 「児玉麻緒展」, 鑓水青年美術館, 東京 |
2013 | 「“HANABANA” Kodama Asao Exhibition ‘13」, 座・高円寺, 東京 |
2015 | 「MONETNCHI」, 美容室LEILEI, 東京 |
主なグループ展 | |
2009 | 「定点2009」, Gallery 惺SATORU, 東京 |
2010 | 「第14回フラッグアート展イン岐阜」, 神田町通りアーケード, 岐阜 「FLOWERS〜Like a wildflower」, Gallery 惺SATORU, 東京 |
2011 | 「被災遺児支援チャリティ展」, アキバタマビ21, 東京 |
2012 | 「第16回フラッグアート展2012 イン岐阜 歴代最優秀賞受賞者による フラッグアート作品展」, JR岐阜駅北口, 岐阜 |
2015 | 「FACE 2015損保ジャパン日本興亜美術賞展」, 東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館, 東京 |
受賞 | |
2010 | 第14回フラッグアート展イン岐阜 最優秀・日比野克彦賞 |
2015 | FACE 2015 損保ジャパン日本興亜美術賞展 審査員特別賞 |
会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2016.9.16[土] ─ 11.23[水・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入場料:企画展「オランダのモダン・デザイン リートフェルト/ブルーナ/ADO」、
収蔵品展056「川口起美雄|野又穫 ふたつのアナザー・ワールド」の入場料に含まれます。
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)