収蔵品展053 笑いとユーモア 2015.10.10[土]― 12.23[水・祝]
相笠昌義《水族館にて》油彩,キャンバス 59.0 x 72.5cm, 1976 photo: 斉藤新

相笠昌義《水族館にて》
油彩,キャンバス
59.0 x 72.5cm, 1976
photo: 斉藤新


寺田小太郎氏インタビュー

ユーモアとはつまるところ、心のゆとりなのではないでしょうか。

ユーモア(Humour)の語源はHumanではないかという説もあり、人間それ自体をあらわしているかのようです。ですから人間らしい、ゆったりとしたおおらかな気持ちにならなくては身につかない感覚といえるでしょう。要するに、大人のセンスだと思います。
思えば日本人である私たちは、テンション民族と言われたこともあるように、日々仕事や対人関係の中で、常に緊張を強いられているようです。この緊張した状態から心が解き放たれなければユーモアの感覚を身につけることはできないでしょう。それは私たちにとって最も苦手なことかもしれません。

一方、笑いとは、常識に対する不意打ちのような意外性から生まれるものではないかという気がします。一般論になりますが、たとえば落語というのは意外性の古典芸能だと思います。落語の笑いは噺家の語りによって、聞き手の日常からかけ離れたところに物語が展開していくでしょう。私は志ん生が好きで、ずいぶん聞いてきましたが、志ん生自身は落語を地でいくような、とんでもない言動でも知られていますね。当の本人は何も考えていないかのように見えて、実は笑いについて考えて考えて考え抜いている。高座に上がればすっかりそれを忘れたところで笑いが生まれてくるのですがね。

今のお笑いは何だかつまらないですね。若いお嬢さんには申し訳ない表現ですが、何と言うべきか、箸が転んでも可笑しいといったような、あるいは脇の下に手を突っ込んで笑わせるようなレベルの笑いで納得しているように思えてなりません。笑いとは、本来もっと高度なものではないでしょうか。作り上げるということも含めて、頭のキレもよくなければなりません。

言うなれば、笑いとはピストルでバンと打つようなもの。それに対してユーモアは呼吸のように、周囲を豊かに包みこむもの。何かを作ろうとする意志のはたらきとは無関係に、広やかで、ふわっと生まれ出てくるものなのではないかという気がします。それを身につけるのに、私たちはある程度大人になっていかなくてはならないのかと思います。

(2015年9月8日 東京オペラシティビルにて)


時松はるな《おとこの子って何でできてる?》シャープペンシル,水彩,紙 35.3 x 25.0cm, 2015

時松はるな《おとこの子って何でできてる?》
シャープペンシル,水彩,紙
35.3 x 25.0cm, 2015

時松はるな《おんなの子って何でできてる?》シャープペンシル,水彩,紙 35.3 x 25.0cm, 2015

時松はるな《おんなの子って何でできてる?》
シャープペンシル,水彩,紙
35.3 x 25.0cm, 2015

本展では、見る者の心を和ませ、日常に新たな視点をもたらしてくれる作品を紹介します。
人々のいる都市風景を描く相笠昌義は、70年代の都市文明への批評的な作品を経て、シニカルさの奥に、人間の存在そのものへのやわらかな眼差しを注いでいます。
加藤ゆわの女性図には身近な女性の仕草や当世の風俗が描かれ、伝統的な美人画への意識を感じさせます。しかし、そこに非のうちどころのない美人はいません。他者への鋭い観察眼と、現代女性の存在ありのままを愛おしむかのような、濃やかな描写が見る者を惹きつけます。

向山裕《かいだこ》油彩,キャンバス 116.7 x 116.7 cm, 2008 photo: 斉藤新

向山裕《かいだこ》
油彩,キャンバス
116.7 x 116.7 cm, 2008

時松はるなは画面いっぱいの群衆の姿に託すように、若者の感情を描き出します。笑いや喜び、胸がキュンとするような瞬間、妬み嫉みなどがユーモラスに描き出されます。
向山裕の描く海の生物は、すべて実在するものです。それらを丹念に観察し、時には解剖し、自然界の神秘を見つめることで行われる精緻な描写は、リアルさのみを追求する写実表現とは異なり、なぜかユーモラスな人間的雑味が入り混じります。おそらくそれは人間のみが抱く自然への畏怖や、発見の喜びに由来するものではないでしょうか。


すべての作家について紹介できないのが残念ですが、もうお気づきのことと思います。「笑いとユーモア」は、「人間とは何ぞや」という寺田氏の関心の表出なのです。人を笑わせようという意図からではなく、無心に制作する中で自然と湧いてくるおかしみ。その素朴な心への共感が寺田コレクションの根底にはあるのです。

 
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
2015.10.10[土]― 12.23[水・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「LABYRINTH OF UNDERCOVER」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:NTT都市開発株式会社

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)