プロジェクトN

project N 61 西村有 NISHIMURA Yu 2015.7.18[土]― 9.23[水・祝]
《抜け道》油彩, キャンバス 168.0 × 200.5 cm 2015 photo: Kei Okano
《抜け道》
油彩, キャンバス
168.0 × 200.5 cm
2015
photo: Kei Okano
物語を紡ぐ ─ 西村有の絵画

おそらく目的地までの近道なのでしょう。もっとも、木々の梢は行く手を阻むかのように縦横に伸び、ふだんここを通る者はいないことがわかります。あるいは、この抜け道を知っているのは、彼女だけなのかも知れません。きつい勾配の坂道を、梢の合間を縫うように颯爽と進んでいくその足取りはいかにも軽快で、ただじっと前を見据えた表情が、道を急ぐ、のっぴきならない理由があることを告げています。

この《抜け道》に限らず、物語を感じさせるのが西村有の作品の特徴です。たとえば、《西日》では、ドアの前に立つ青年が家に入ろうとしているのか、それとも家から出てきたところなのか、それを明らかに示すものはありません。けれども、何の先入観もなくこの絵をみれば、おそらく誰もが、青年が自転車でどこかへ出かけようとしていると思うことでしょう。自転車の方に半身を向けた青年の姿勢や、画面手前にサドルを傾けた自転車が、外出という行為を強く連想させるためです。


《西日》油彩, キャンバス 91.0 × 116.7 cm 2014 photo: Kei Okano

《西日》
油彩, キャンバス
91.0 × 116.7 cm
2014
photo: Kei Okano

一般的に、絵画作品が物語を感じさせる造形的な要因としては、複数の登場人物、人物の表情やしぐさ、特異な場面設定などが挙げられます。複数の人物はその相互関係や役割を、表情やしぐさはその理由や結果を、特異な情景はその原因や次に起こるべき事態をそれぞれ想像させます。もっとも、西村の絵画では、複数の人物が描かれることは稀です。また、その表情やしぐさが強調されることも、突拍子もない場面や奇抜な情景が描かれることもありません。西村が提示する場面は、ふだん私たちが目にする何気ない行為や光景がほとんどです。

50号以下の比較的小さいサイズのものが多いことも西村の作品の特徴ですが、共通する簡潔で瀟洒な描写は、どこか小説の挿絵にも似た雰囲気があります。実際には同じ物語を描いているわけではないのですが、少女や青い自動車などのモティーフを好んで繰り返し取り上げることも、そうした誤解を招く一因になっています。また、犬とヘビの目の表現、犬が戯れるボールと夜道を走る自動車を煌々と照らす満月の球形、画面の基調色となる緑やグレーなど、あえて共通点や類似点を複数の作品に忍び込ませていることも同様でしょう。こうして、異なる作品同士がモティーフや造形表現の共通性、類似性を通じて結びつき、本来存在しないはずの物語がそこにあるかのような錯覚を与えるのです。


《葉擦れ》油彩, キャンバス 91.0 × 116.7 cm 2015 photo: Kei Okano

《葉擦れ》
油彩, キャンバス
91.0 × 116.7 cm
2015
photo: Kei Okano

さりげなくもちいられるホワイトも、作品における物語性の生成に大きく貢献しています。《西日》では、全体に一見無造作に塗られたホワイトが、午後の陽光や、そよぐ風の気配や空気感をも感じさせるとともに、鑑賞者の視線を画面手前の自転車に巧みに導いています。薄いヴェールのようなホワイトが、個々のモティーフを緩やかに関係づけて一つの情景を構成し、親密で繊細な絵画空間を生み出しています。こうして作品に独特の空気感、動性、時間性がもたらされ、物語のための〈場〉が用意されるのです。

誤解を怖れずにいえば、西村の作品が物語性を感じさせるのは、ひとえにその不完全さゆえではないでしょうか。曖昧で、どこか素朴な稚拙さを湛えた画面は、みる者に積極的な解釈を促す、きわめて豊かな表現世界になっているからです。鑑賞者は、画面には明確に示されていない何かを敏感に感じ取り、想像力を働かせてその欠落を埋め合わせようとします。決して壮大なものでも感動的なものでもないかも知れませんが、西村有の絵画の前に立つことは、その未完の物語を各自の想像力を駆使して補筆完成することにほかならないのです。



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

西村有 NISHIMURA Yu
1982 神奈川県生まれ
2004 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業
神奈川県在住
   
主な個展
2010 「はるひ絵画トリエンナーレ アーティストシリーズVol.65 西村有展」, 清須市はるひ美術館, 愛知
2013 「TWS-Emerging 202 運ばれる景色」, トーキョーワンダーサイト本郷, 東京
   
主なグループ展
2009 「第6回はるひ絵画トリエンナーレ」, 清須市はるひ美術館, 愛知
2011 「YOKOHAMA2011 みなとみらい展」, 横浜市民ギャラリー, 神奈川
2012 「トーキョーワンダーウォール2012入選作品」, 東京都現代美術館
2013 「シェル美術賞2013」, 国立新美術館, 東京
2014 「FACE 2014 損保ジャパン美術賞展」, 損保ジャパン東郷青児美術館, 東京
「富士吉田芸術倉びらき 2014」, 大野智史オープンアトリエ, 山梨
「Some Like It Witty」, ギャラリーEXIT, 香港
   
受賞
2009 第6回はるひ絵画トリエンナーレ 奨励賞
2013 シェル美術賞2013 保坂健二朗審査員奨励賞
2014 FACE 2014 損保ジャパン美術賞展 優秀賞


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2015.7.18[土]─ 9.23[水・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日、ただし9月22日は開館)、8月2日[日](全館休館日)
入場料:企画展「鈴木理策写真展 意識の流れ」、収蔵品展052「水につながる」の入場料に含まれます。

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)