projectN 05:蛯名優子 EBINA Yuko

2001.1.12[金]─ 3.18[日]


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2001年最初のproject Nは、蛯名優子(えびな・ゆうこ/1970年生まれ)展で幕を開けます。

蛯名の描く作品には、どことなく有機的なかたちが浮遊し、柔らかさとゆったりとした動きが感じられます。その動きは例えば空にぽっかりと浮かんで形を変える雲や、ゆるやかに流れる水面を思い起こさせ、日々疾走して過ぎゆく時間をスローモーションへと変えます。


《Untitled 00-e-28》
《Untitled 00-e-28》
水彩絵具、紙、鳩目鋲
52.5×38.0cm
2000


作品がもつ独特の浮遊感は、一つには水分をいっぱいにたたえ、滲ませた色使いによる画面のためでもありますが、実際の制作においても彼女は、「霧吹きで充分に湿らせた綿布や、パネルに水張りした画用紙に、たっぷりの水で溶いた絵具を垂らしこんで、顔料を染み込ませるようにして色を塗っていく」(コメント「水の記憶」より/『アクリラート別冊2000』、p.41)といいます。浮き沈みしているようにも見えるかたちは、水面を覗きこむようにして描かれています。また、それらのかたちは単に表面に描かれているのではなく、周りから塗り残され、時にはさらにそのうえにも色が乗せられることによって形成されており、まさに画面の「内部」、水と色が混ざってできた幾重かの層の「内部」に位置しています。それが、水中から何かが浮かび上がってくるかのように、画面の奥から表面にイメージを浮上させているのです。


《Untitled 97-12》
《Untitled 97-12》
アクリル絵具、綿布
112.0×145.5cm
1997


1999年以降、制作の主を占めるようになった水彩による作品では、色層の境界が滲んで混ざり合い、より瑞々しさを増しています。色が塗られた部分は、奥へ奥へと私たちの視線を誘う深みをもっていますが、ところどころスッパリと切り抜かれた穴のような部分から見える紙の白は、思いきりの良いコントラストを生み出すと同時に、言うなれば水面で漂っている状態のように、そのかたちが表面にも属していることを思わせます。

今回の展示では、水彩画とアクリル画を初めてほぼ同じ比率で織り交ぜ、意識的に両方で一つの空間となるように構成しています。そうすることによって、蛯名がこれまでアクリル画で表現してきたイメージと水彩画との関係性が、よりはっきりと浮かび上がってくるでしょう。
水彩では作品と作品の間隔をほんの少しだけ離して展示をすることによって、各々の画用紙の白が繋がり、軽やかなリズムと連続性が生み出されます。そこには数点ずつから成る緩やかなシリーズとしてのまとまりが感じられますが、紙の四隅を鳩目鋲で留めることで、それらが綴じられる可能性、つまり一冊の本を構成し得る可能性をもった1ページとしての、個別の存在であることも示唆しています。


《Untitled 00-e-29/Untitled 00-e-27》
《Untitled 00-e-29/Untitled 00-e-27》
水彩絵具、紙、鳩目鋲
71.5×56.0/71.5×26.5cm
2000


身体が包み込まれるような大きなアクリル画に比べ、水彩画の場合は逆に作品が身体のなかに収まるサイズのため、個々の作品から発せられるイメージやそこから紡ぎ出される物語は、幾分小さく、親しみを感じさせるものかもしれません。ですが、どの作品も等しく私たちに語りかけ、想像力を喚起することから、それらが同じ重要度でもって制作されていることが伝わるでしょう。水彩画は決してアクリル画のためのエスキースや習作に位置しているのではないのです。蛯名が述べていた「水彩画の制作は、もともとアクリル画の背景にあったものを描き出すニかもしれない」という言葉からは、一つのイメージであっても、例えばアクリル画のようにそれが全体を象徴するものとして作品に顕れることもあれば、また水彩画のように個別の表情をとらえた表現として描かれることもあることが窺えます。

蛯名の作品を見ながらコリドールを歩いていると、山の奥深いところで静かに流れる細流のような、幽寂な一筋の流れが感じられます。水が見るものによってその表情を変えるように、その流れは時に水彩画として、また時にはアクリル画として私たちの目前に現れ、展示の構成に新たなリズムを生み出しました。そうして緩やかに動き始めた作品に、私たちは蛯名の表現の幅と次なる流れを見ることができるでしょう。



蛯名優子 EBINA Yuko
1970 岩手県生まれ
1991 「第27回神奈川県美術展」神奈川県立近代美術館賞受賞
1993 多摩美術大学美術学部二部絵画学科卒業
1995 多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻(日本画)修了
1999 第13回ホルベイン・スカラシップ奨学生
「第2回国際ハンドメイドペーパー・アート・シンポジウム・ワークショップ」参加、ペローヤ、リトアニア
現在、神奈川県在住

個展
1995 ルナミ画廊、東京
1996 ルナミ画廊、東京
1997 「SESSION 97」、スカイドア・アートプレイス青山、東京
1998 「解放された視野・II '98」、ルナミ画廊、東京(カタログ)
1999 バードソング・カフェ、東京
2000 トキ・アートスペース、東京

主なグループ展
1991 「第27回神奈川県美術展」、神奈川県民ホール・ギャラリー、横浜(カタログ)
1997 「三人展」、十和田松木屋、青森
1999 「第2回国際ハンドメイドペーパー・アート・シンポジウム展」、カイレ・デシネ、ヴィリニュス、リトアニア(カタログ)
2000 「第2回国際アーティスト・ブック・トリエンナーレ」、コンテンポラリー・アートセンター、ヴィリニュス、リトアニア/ギャラリー5020、ザルツブルク、オーストリア(カタログ)

参考文献
◎「蛯名優子 イメージをすくいあげる」(インタヴュー)、『コンテンポラリー・アーティスツ・レヴュー』、スカイドア、
no.26、1997年12月20日、pp.1-3
◎池上ちかこ(作品解説)、『SESSION 97 Part2 Catalogue』、スカイドア、1998年2月3日、p.21
◎「水の記憶」(コメント)、『アクリラート別冊2000』、ホルベイン工業株式会社、2000年9月20日、pp.41-43


インフォメーション
場所:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2001.1.12[金]― 3.18[日]
開館時間:12:00 ― 20:00(金・土は21:00まで、入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、全館休館日(2月11日)

入場料:企画展「出会い」展、収蔵品展006「人のかたち」の入場料に含まれます。
主催:(財)東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:東京オペラシティアートギャラリー Tel.03-5353-0756