作品がもつ独特の浮遊感は、一つには水分をいっぱいにたたえ、滲ませた色使いによる画面のためでもありますが、実際の制作においても彼女は、「霧吹きで充分に湿らせた綿布や、パネルに水張りした画用紙に、たっぷりの水で溶いた絵具を垂らしこんで、顔料を染み込ませるようにして色を塗っていく」(コメント「水の記憶」より/『アクリラート別冊2000』、p.41)といいます。浮き沈みしているようにも見えるかたちは、水面を覗きこむようにして描かれています。また、それらのかたちは単に表面に描かれているのではなく、周りから塗り残され、時にはさらにそのうえにも色が乗せられることによって形成されており、まさに画面の「内部」、水と色が混ざってできた幾重かの層の「内部」に位置しています。それが、水中から何かが浮かび上がってくるかのように、画面の奥から表面にイメージを浮上させているのです。 |