収蔵品展051 3O+A 2015.4.18[土]─ 6.28[日]
奥山民枝《シリーズ ゆらぐ:山季》油彩,キャンバス 88.0 x 129.0cm 1993 photo:斉藤新

奥山民枝《シリーズ ゆらぐ *:山季》
油彩,キャンバス
88.0 x 129.0cm 1993
photo:斉藤新


大地につらなり,大地から発する
有元容子 小川待子 岡田伊登子 奥山民枝


 

本展覧会のタイトル「3O+A」(スリー・オー・プラス・エー)は、本展に出品する作家4名の姓の頭文字です。日本画、陶、油絵と、制作の技法や扱う素材を異にするこの4作家を、「大地」というキーワードをもとにつなぎ、同時に紐解こうとするのが本展の試みです。そして、ここにつらなるもうひとりの存在が当館収蔵品のコレクター寺田小太郎氏です。彼のコレクション形成に対する思いもまた「大地」のキーワードに結びつくもので、その存在を本展の通奏底音としてとらえることにより、4名の作家の旋律はよりあざやかに浮かび上がってくるでしょう。


小川待子《95-N》陶 45.0 x 34.0 x 31.0cm 1995 photo:斉藤新

小川待子《95-N》

45.0 x 34.0 x 31.0cm 1995
photo:斉藤新

展示の順を追って各作家の作品を観ていきます。第一展示室は奥山民枝の油絵と小川待子の陶で構成しています。奥山は、1960年代の制作初期から一貫して自然の生命力や宇宙の神秘を探り続けてきた作家ですが、本展ではその画業のなかで繰り返し描かれてきた山の作品を選びました。初期のそれは肉感的でやや擬人化され、植物などとともに描かれることでどこか寓話的な趣きが感じられますが、80年代末に手掛けたシリーズを境として、説明的な要素を排した抽象画ともとれる作品へと移行しました。とはいえ、奥山にとってこれらは「ごく普通のリアリズム」(*註1)でした。海外を旅していた時期に「山脈の姿を見て地球自身を生きもののように感じているうちに、空も山も大地も、風景と自分が一体化するような体験」(*註2)をしたという奥山が、その時に見えたままを描いたこれらの作品が〈シリーズ:ゆらぐ *〉です。「山のように動きそうもないものも動く」の意をもつ字を冠したこのシリーズをはじめ、時間も空間もすべてが共有されてわたり合っている「今ここ」を描いた〈シリーズ:わたる *〉にいたっても、風景や宇宙といった自身の外側とされるものと自身の中が自由に行き来し、それぞれの命が交わっている状態を描くことによって、万物の本質、根源にリアルに迫ろうとしています。

有元容子《静かな時》顔料,紙 144.0 x 89.0cm 2002 photo: 斉藤新

有元容子《静かな時》
顔料,紙
144.0 x 89.0cm 2002
photo: 斉藤新

小川待子の場合、その制作とは大地の声を全身で聴き取ることです。学業を終えたばかりの20代に、伴侶とともにアフリカに暮らした小川にとって、制作は材料を探しだし、地面から掘り起こすところから始まりました。土を捏ねて形づくり、掘り出した鉱物を釉薬にして焼き上げる過程は、「そこにあるもの」の声を聴き、その本質を謙虚に受け入れた上で、新たな命を吹き込んでかえすという循環の中にあります。小川の作品に見られる緻密さとおおらかさの共存は、こうして大地と対話する作家の姿勢そのものの現れでしょう。また、「水でも花でも食べ物、人の想いでも、他者と一体になって何かが成り立つということのすばらしさ、〈うつわ〉というのはそういう可能性をもっているんです」と語るとおり(*註3)、その対話は作品を前にする観客に対しても開かれています。

第二展示室は前半を有元容子、後半に岡田伊登子の作品を展示し、風景を描く日本画家二人の空間としました。有元容子は奥山と同様に山を描いた作品が多いのですが、そのほとんどが日本各地の固有の山をモチーフにしたものです。とはいえ、それらは山の姿の写実的な再現というより、大胆なデフォルメによって抽象化された量塊の表現といってよいでしょう。画面のもうひとつの特徴として見られるのが、山の麓の描き方です。屹立する単独峰はいずれも山腹から上のみが描かれており、水平に広がる山脈風景での麓は平地にあたる部分とのつながりがあいまいです。そのため画面の山は安定を得られないかわりに動きをはらみ、量塊が不動のものではないことを感じさせます。作品を前にした私たちは、人間の一生をはるかに超える長い年月を単位に大地も動き、生きていることに思い至らざるをえなくなるのです。

岡田伊登子《那智89-1》顔料,紙 182.0 x 199.0cm 1989 photo:早川宏一

岡田伊登子《那智89-1》
顔料,紙
182.0 x 199.0cm 1989
photo:早川宏一

岡田伊登子の作品もまた、実際の場所に取材して描かれた風景画です。那智、華厳、天橋立といった、本人いわく「日本人の最大公約数」であるこれらの名所は、信仰と結びつけられたことで人々が強く意識する対象となり、美術や文学の歴史においてもさまざまな文脈を与えられてきました。生前の岡田自身、名所を描き始めた当初はそれらが記号として表す要素にひかれたものの、次第に単なる形としておもしろさを感じるようになったと語っています。一度文脈を離れて対象に向き合う時を経て、「自分にとっての真実」へ辿り着こうとする軌跡が、ここに展示された風景画です。壁一面を埋める数の那智滝図は、曇りない眼で真実を見たいという岡田の執念が描かせたものでしょう。このような強い意志が一枚一枚の作品に込められていることは、おだやかで平明に見えるその画面からは想像がつきません。和紙を天井から吊し、力を加えればふわりと押し流されてしまう画面にそっと筆を当てて描くというこの技法では、なにかに抗ったり押しつけたりすることなく、あるがままに身を預けながら一筆一筆を進めていきます。この強さとおだやかさの両立が岡田の作品の特徴であり、冒頭に述べた5人目の存在、寺田小太郎氏がコレクションを通じて「日本的なるもの」を探求する姿勢と響き合ったのでしょう。自身/日本/世界/宇宙を知ろうとする4人の作家とひとりのコレクターの共鳴は、大地を拠り所にすることから発しているのです。


(*1)奥山民枝「談 I」,聞き手・谷川俊太郎,『ゆらぐ わたる * 奥山民枝』,美術出版社,2000

(*2)「談 II」,前掲書

(*3)「小川待子インタビュー」,聞き手:天野一夫,『小川待子|生まれたての〈うつわ〉』,
豊田市美術館,2011,p.21

 
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
2015年4月18日[土]─ 6月28日[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日(ただし5月4日は開館)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「高橋コレクション展 ミラー・ニューロン」のチケットでもご覧いただけます)

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社
協力:相互物産株式会社

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)