プロジェクトN

project N 59 河合真里 KAWAI Mari 2015.1.17[土]─ 3.29[日]
《静物画》油彩,キャンバス 65.2 x 91.0 cm 2014 photo:早川宏一
《静物画》
油彩,キャンバス
65.2 x 91.0 cm
2014
photo:早川宏一
かたちを待つ人

河合真里の描くかたちはどこか奇妙です。誰もが見知っている何かのように見えて、どこかが違います。その蛍光がかった色彩や、立体と平面の中間にあるような平板な表現のために、自然物のようでありながら人工的に見え、モチーフは堂々と画面の中央に置かれているのに地面に着地していないため、ふわりと宙に浮いたような軽さがあります。それが何であるかを読み解こうとしても、手掛かりらしきものは見当たりません。どうにも名づけることのできない何か、なのです。同系色の背景からくっきりと浮かび上がってくるかたちや補色に近い色彩同士の切り抜き効果によって、強烈にあらわれ出るかたち。たどたどしい筆の運びを重ねながら、河合はそれらをたしかな存在感を放つものにしています。
一体どのようにしてこのようなかたちが形成されるのでしょうか。河合にたずねてみると、その答えは意外にも「何でもない普遍的なものを描いているつもり」だというのです。

 

《flying (yellow)》油彩,キャンバス 97.0 x 145.5 cm 2014 photo:早川宏一

《flying (yellow)》
油彩,キャンバス
97.0 x 145.5 cm
2014
photo:早川宏一


河合によれば、日常の中で見たり聞いたりするさまざまな事象が絵画のもとになるといいます。鉢植えの植物、エンタシス様式の柱、ぽっかり空いた穴から立ちのぼる煙——視覚的なひっかかりや日々飛び込んで来るニュース、ちょっとした違和感がそのまま蓄えられ、長い時間を経たのちに意識にのぼってくるのだそうです。たとえば羽根の生えたバナナのような《flying (yellow)》は「黄色くて長いもの」のイメージ(消えたマレーシア航空機のニュースを耳にするうち心に浮かんだといいます)がもとになっています。ただし思い浮かんだイメージがそのまま絵画になるわけではなく、複数のイメージを思い浮かべて「磨いていく」のだそうです。それらが頭の中で作り上げられたフィクションではないことを確認するかのように、河合は注意深く、根気強く、描くことによって一つのものに収れんさせるのです。

 

《bellflower》油彩,キャンバス 65.2 x 53.0 cm 2014 photo:早川宏一

《bellflower》
油彩,キャンバス
65.2 x 53.0 cm
2014
photo:早川宏一

あるイメージが思い浮かぶといった、いわば瞬間的なひらめきは、あくまでも画家の内側で起こる個人的なできごとだといえるでしょう。しかしそのできごとをさまざまな角度から見つめ、描いて(磨いて)いくことで、イメージはよりたしかなかたちを得ていくのです。視覚や言葉にたよらないものの存在、そのたしかさを、絵画によって見る者と共有できると信じているのでしょう。河合があらわしたいのは私たち一人ひとりが純粋な感覚でとらえる、呼び名をもたない何かの存在なのです。
「急いで形を作らず、無理に名付けてしまうことをせず、時にあいまいさを残しながら時間をかけて向きあう」* という言葉どおり、河合の絵画は何かが何かになる途中の時間を内包しているようです。河合にとって描くこととは、私たちが世界を知覚し始めるその途中経過のありさま−−私たちの誰もが経験しているのに、見ることができずにいるその状況を加工せずに、ありのままを取り出して見せることなのです。そうして目に見えるものとなったかたちは、はじめて世界に生まれ出るプリミティブなものとして、見る者に鮮烈な驚きと困惑をもたらすのです。


* 河合真里「アーティスト・ステートメント」,『2013年度TWS若手アーティスト・リポート』,公益財団法人東京都歴史文化財団トーキョーワンダーサイト,2014,p.42



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

河合真里 KAWAI Mari
1987 兵庫県生まれ
2010 武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻卒業
2012 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了
現在,東京都在住
   
個展
2013 「トーキョーワンダーウォール都庁2012」,東京都庁第一本庁舎3階南側空中歩廊
「TWS-Emerging 210:河合真里『層の記憶』」,トーキョーワンダーサイト本郷,東京
   
主なグループ展
2010 「平成21年度武蔵野美術大学卒業制作・修了制作優秀作品展」,武蔵野美術大学,東京
2011 「理化学研究所展示プロジェクト2011」, 独立行政法人理化学研究所 横浜研究所,神奈川
2012 「トーキョーワンダーウォール公募2012入選作品展」,東京都現代美術館
2014 「膜をほどこす」,橘画廊,大阪
   
受賞
2010 武蔵野美術大学卒業制作 優秀賞受賞
2012 トーキョーワンダーウォール公募2012 準大賞受賞
   
参考文献
アーティスト・ステートメント/保坂健二朗「層の記憶」,『2013年度TWS若手アーティスト・リポート』,公益財団法人東京都歴史文化財団トーキョーワンダーサイト,2014,p.42


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2015.1.17[土]─ 3.29[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)


休館日:月曜日、2月8日[日](全館休館日)
入場料:企画展「スイスデザイン展」、収蔵品展050「木を彫る」の入場料に含まれます。

 

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

 

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)