収蔵品展048 みずのすがた わが山河 Part V 2014.7.12[土]─ 9.21[日]
大野俊明《風の渡る道》顔料,紙 160.0 x 390.0cm 1993 photo: 斉藤新

大野俊明《風の渡る道》
顔料,紙 160.0 x 390.0cm 1993
photo: 斉藤新


日本の風土と水の諸相 あるコレクターの視点から

「わが山河」は、当館収蔵品の寄贈者であるコレクター寺田小太郎氏とともに作品を選定する展覧会シリーズです。寺田コレクションの根底を流れる「日本的なるもの」とは何か、という問いを様々な視点から検証してきました。第五回となる今回は、「みずのすがた」と題して、日本の自然と風土における「水」の諸相、すなわち雪景色や水田の風景、川や滝、海、霧や雲などを描いた日本画を中心に紹介します。

寺田氏は、若き日に敗戦を迎え、その後の価値観の転換やそれにつづく世相の変転のなかで、たえず時流と距離をとる一方、この国の豊かな自然、景観とのふれあいを心の糧にして生きてきたといいます。そして寺田氏の自然と風土への愛は、つねに「日本的なるもの」とは何かという問い、とりわけ日本の基層文化への問いと不可分に結び合ってきました。なかでも寺田氏が、日本の基層文化を考えるうえで重要な要素のひとつとして注目してきたのが、日本の風土における豊かな水と湿潤な空気、そして稲作を中心とする農耕形態です。「みずのすがた」という本展のテーマは、こうした寺田氏の着眼に寄り添うかたちで展開されます。

展示はまず、雪景色を描いた作品群から始まります。寺田氏は、雪山がもたらす豊富な雪解け水がこの国の稲作を支えているという事実を踏まえ、雪山を日本の大切な原風景のひとつにあげています。

大野俊明《銀嶺》は、冠雪した高山を遠望しつつ、手前には雪のない丘陵の秋を配しています。季節の移り変わりがのどかで穏やかな空気とともに描かれていますが、そこには、長い冬へと向かう一抹の緊張感もまた込められているようです。中路融人《伊吹山》は、滋賀県と岐阜県の境に位置するその巨大な山容を、南の関ヶ原の側からのパノラマとして捉えています。中景に小さく描きこまれた民家は、自然と人間の営みとの対比を感じさせます。寺田氏で十六代を数えるという寺田家が近江出身ということもあり、この山は寺田氏にとってひときわ寄せる思いの強い山ですが、寺田氏は、その山容が、西側斜面における石灰石の採掘によって大きく損なわれつつあることを深く憂慮しているといいます。並木功《北信濃》は、雪に覆われた林を小川が流れるさまを描いています。薄陽が射しこむなか、樹の幹のまわりは雪解けがひときわすすみ、流れを増す青々とした小川が、春の訪れが近いことを告げています。重岡良子《春萌野》は、同じく雪の林を描いています。すでに季節はすすみ、水芭蕉が咲き、木々の若葉が自然の息吹をまぶしいほどに謳歌しています。

並木功《北信濃》顔料,紙 173.0 x 352.0cm 1999

並木功《北信濃》
顔料,紙 173.0 x 352.0cm 1999

第2室の冒頭では、豊かな水の恵みによって育まれる水田や畑を描いた作品を紹介します。

相嶋崇人《晨》は、山間の農村の夜明けを描いています。ひんやりとした山間の湿潤な空気の感覚までもが捉えられていて、すべてを育む水の豊かさへのオマージュとなっています。秦誠《棚田》は、琵琶湖西岸の高島市にひろがる棚田の実景をもとに描かれています。急峻な山地を切り開いて築かれる棚田は、先人たちの苦労の結晶であり、自然の厳しさをも含意するといえますが、水がはられた棚田に、霧にけぶる大気が映りこむさまは、どこまでも穏やかで私たちの郷愁をさそうでしょう。

秦誠 HATA Makoto《棚田》顔料,紙 116.0 x 79.0 cm 2002

秦誠《棚田》
顔料,紙 116.0 x 79.0 cm 2002

展示のしめくくりは、湖と海を描いた作品群です。大野俊明《風の渡る道》は、琵琶湖を俯瞰的に捉え、近江富士として知られる三上山を対岸に遠望します。湖岸地域にひろがる黄金色の大地は、水の恵みが育んだ田畑の豊穣を暗示するとともに、ゆったりと広がる湖面とあいまって、この地を吹き抜ける風の薫りをも感じさせます。西田俊英《飄々海々》は、白く泡立つ日本海の海原を、風雪に耐える松林とともに描いています。ここでは人間の日常的な営みは描かれていませんが、波濤のクローズアップと松林との組み合わが、海原に向きあうわれわれ人間の立ち位置を強く意識させます。そして風に舞う一羽の鳶には、自然に対する畏怖の念と、高揚する作家の精神が仮託されているでしょう。

展示の一部を紹介てきましたが、出品作はいずれも、寺田氏のみならず多くの人にとっても、日本の原風景といってよいものばかりではないでしょうか。とはいえ、寺田氏の眼差しは、たんなる自然愛好や郷土愛ということだけでなく、経済優先をひた走ってきたこの国のあり方を憂える批判精神に強く裏打ちされていることも指摘しなければなりません。本展が、見る人それぞれの「原風景」を探るきっかけとなり、またこの国のいまを考える一つの手掛かりとなれば幸いです。


ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

■インフォメーション

会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2014.7.12[土]─ 9.21[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日:月曜日(祝日の場合、翌火曜日)、8月3日[日](全館休館日)
収蔵品展入場料:200円
(企画展「絵画の在りか」のチケットでもご覧いただけます)

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:ジャパンリアルエステイト投資法人、NTT都市開発株式会社

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)