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無からの創造 |
舟越保武(1912-2002)は、清新な造形のなかに深い精神性をたたえた数々の作品によって、日本の近代彫刻史に大きな足跡を残しました。作風の重大な転機は戦後まもなく、長男の急死を契機にカトリックの洗礼を受けたことでした。その8年後の1958(昭和33)年《長崎26殉教者記念像》の制作に着手、完成までに4年半を費やし、後年「作家生命を賭けるつもり」だったと述べるこの作品によって、第5回高村光太郎賞を受賞。以後、島原の乱の舞台・原城跡で着想を得た《原の城》やハンセン病患者の救済に命を捧げた《ダミアン神父》をはじめ、キリスト教信仰やキリシタンの受難をテーマにした数々の名作を制作します。

《聖フィリッポ・デ・ヘスス》
木炭, 紙
51.0×36.0cm c.1958-62
長崎県美術館蔵
キリシタン26人が長崎、西坂の丘で殉教したのは1597年2月5日(慶長元年12月5日)、ゴルゴダの丘に似ているという理由でこの地が選ばれたといわれます。処刑は凄惨をきわめ、中央にペトロ・バプチスタ以下6人の外国人宣教師、その左右に10人ずつ日本人キリシタンが一列に磔刑にされて聖歌を唱えるなか、心臓を槍で突かれて絶命したといいます。
《長崎26殉教者記念像》のためのデッサンは98点を数えます。像主の聖人の名前が記されたものもあり、21人の名前が確認できます。いうまでもなく、写真はおろか、26人の容姿を伝える絵画資料等は一切ありません。舟越は、それぞれのイメージを、国籍、年齢、経歴等の記録、あるいは伝来するエピソードから想像して作り上げました。それは文字どおり、無からの創造と呼べる営為でしょう。
像主によってデッサンの数にばらつきがあります。散逸なども考えられますが、ルイス・フロイスが残した『日本二十六聖人殉教記』(結城了悟邦訳、聖母の騎士社、1997年)などに、殉教者たちが生前書き記した手紙や処刑の際の様子が紹介されており、こうした情報の多寡が点数に反映するのかも知れません。十字架の上から民衆にキリストの教えを説いたというパウロ三木は強い信念をもつ逞しい青年として描かれ、司祭が捕縛されたときに自分も捕らえるように願い出て、刑場で「自分の十字架はどこ」と尋ねたという最年少12歳のルドビコ茨木の面立ちにはあどけなさが漂います。また、喜びの涙を流し、讃美歌を歌いながら絶命したというフィリッポ・デ・ヘススの顔貌には安らぎと希望が感じられるでしょう。このように、残された記録などから個々の人物の性格や内面を捉え、それに応じた的確な造形がなされたことが残されたデッサンから窺われます。

《モニュメントのための習作》
鉛筆, 紙
30.0×41.5cm 1959
個人蔵
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展示風景 |
■インフォメーション
会場:ギャラリー3&4(東京オペラシティ アートギャラリー 4F)
期間:2014.4.19[土]─ 6.29[日]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし、4月28日、5月5日は開館)
特別展示入場料:200円
(企画展「幸福はぼくを見つけてくれるかな? ─ 石川コレクション(岡山)からの10作家」のチケットでもご覧いただけます)
主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団
協賛:日本生命保険相互会社
お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)