プロジェクトN

project N 54 大垣美穂子 OGAKI Mihoko 2013.10.11[金]─ 12.23[月・祝]
《Star Tales −white floating III》水彩,アクリル絵具,雁皮紙 サイズ可変 2013
《Star Tales −white floating III》
水彩,アクリル絵具,雁皮紙
サイズ可変
2013
大垣美穂子のメメント・モリ 生きることの表現

《Star Tales −bone constellation II》雁皮紙,膠,ワイヤー,針金,釣糸 サイズ可変 2013

《Star Tales −bone constellation II》
雁皮紙,膠,ワイヤー,針金,釣糸
サイズ可変
2013

透けるように薄い雁皮紙のドローイング。コリドールの全長を使って一列に吊られた40点近くの大きなドローイングが、歩みを進めるごとにふわりとたなびきます。空間を一気に静謐なものに変えるこの繊細なインスタレーションはしかし、大垣美穂子の「生と死」をめぐるダイナミックな経験と思考の結晶です。「生きること」とはなにか。この壮大な問いが大垣の制作活動に一貫したテーマであり、それを問い続けることが大垣の生の証なのです。

生と死は、すべての人に等しく与えられるものです。とはいえ死はこの世の誰も経験したことがなく、しかし確実に訪れるものであるという点で、人種を超えて共有可能な概念です。デュッセルドルフに留学し、長くドイツで暮らした大垣が生と死、とりわけ死を扱った作品を制作し始めたのは、それがあらゆる人にとって不可避の問題であり、誰も経験したことがないからこそ想像でしか語り得ないという一種の「余剰」を含んでいるからでした。その余剰は、大垣の作品、たとえば当地のメルセデス・ベンツを解体/装飾し、かつて日本で多用されていた宮型霊柩車に仕立てたものの内部に鑑賞者が「死体」として身を横たえる《before the beginning – after the end #2》といった作品を経験することで、鑑賞者が口々に自分の考える「死」を語り出したという話からわかるとおり、誰もが参加可能で正解のないトピックになり得るのです。大垣の作品は、自らの死生観の確認/表現手段であると同時に、観る人すべてを議論に巻き込むための装置でした。ドイツ在住時は大型の立体作品を手掛けることが多かったこともあり、制作を手伝ってもらう多くのスタッフの陣頭指揮をとっていた大垣にとって、死をテーマとしながらもその作品制作は生のダイナミズムそのものだったのです。

《Star Tales −Greek Myths》ミクストメディア 85.0 x 85.0 x 104.0 cm 2010

《Star Tales −Greek Myths》
ミクストメディア
85.0 x 85.0 x 104.0 cm
2010

2010年に日本に帰国したこと、またその後大垣の身に起こったいくつかのできごとは、大垣の作品の基本方針を変えることはなかったものの、制作の方法や作品との向き合い方に少なからぬ影響を与えました。まず、制作の拠点がドイツから日本に変わったことで、素材と技法に関する新しい視点が生まれました。正確には関心を持たざるを得なかった、といったほうが正しいかもしれません。日本では発表できる立体作品のサイズが限られること、ドイツで立体と並行して行っていたドローイング作品を持ち帰ったところ湿度の高い日本でカビが生えてしまったという経験から、紙という素材への興味が生まれ、自分一人の手で全過程をまかなえるドローイングが現在の大垣にとって「もっともしっくり来る」技法となりました。今回のproject Nの展示はドローイングによるインスタレーションを中心に展開しているが、まるで呼吸するかのように湿気を吸い、放出する雁皮紙のしなやかな強さは、現在の大垣の姿と重なりあいます。
というのも、制作に取りかかろうとした今年前半、大垣はくも膜下出血で倒れ、入院即手術の後1週間意識を失っていました。3年前、帰国して早々の時期には伴侶が癌を宣告され、無事に手術を終えて回復したばかりというタイミングです。文字通り生死の境をさまよう人生の一大事を立て続けに経験した大垣は、体力が戻るとすぐに《Star Tales –white floating III》の制作に取りかかりました。自身の体をモチーフにしたドローイングを一枚ずつ描くことは、大垣にとって「死を思うこと(メメント・モリ)」が「生きていることの実感」と表裏一体であることの確認となっていきました。今日も一枚描けた。私は生きている。自身と、そして素材と対話を重ねながら描くそのドローイングはまた、歴史上に存在した天文学的な数にのぼるすべての生と死に思いを馳せて描かれたものでもあります。作品のシリーズ名を「Star Tales」としたことや、人体が天体図によって構成されている点は、始まりも終わりも解明され尽くされていない宇宙というマクロな視点を意識させると同時に、人間の命という極めて個人的でミクロな事象が宇宙と同等の規模を持ちうることを感じさせるものです。

コリドールで実際に作品を展示し始めた際、大垣と、展示を手伝ってくれた大垣のパートナーとこんな会話がありました。5年後はどんな作品を作っているだろうね。大垣は、きっとまた全然ちがう作品を作っていると思うよ、と笑いました。しかし私は確信しています。作品の形はさまざまでも、きっとこの人は「生きること」の表現を探求し続けるにちがいない。生きることの美しさを確かめ、分かち合うために。



ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
ギャラリー展示風景 ギャラリー展示風景
展示風景

大垣美穂子 OGAKI Mihoko
1973 富山県生まれ
1995 愛知県立芸術大学美術学部油画科卒業
2004 デュッセルドルフ芸術アカデミー立体専攻修了
現在,茨城県在住
http://www.mihoko-ogaki.com/
   
主な個展
2006 「vor dem anfang – nach dem ende」,ガレリー・フォス,デュッセルドルフ(カタログ)
2007 「Quality Street」,ファインアートフェア・フランクフルト
2008 「Milky Ways」,ガレリー・フォス,デュッセルドルフ
2012 「Star Tales -white floating」,ガレリー・フォス,デュッセルドルフ
「Milky Way -drawings」,Mori Yu Gallery,東京
   
主なグループ展
2009 「ACAW09」,アジアン・コンテンポラリー・アートウィーク,ニューヨーク
「The Crisis of the Genre」, 第16回ポズナン国際彫刻トリエンナーレ,ポーランド
2010 「Real Presence 2010」,在セルビア・イタリア大使館,ベオグラード
2011 「第14回岡本太郎現代美術賞展」,川崎市岡本太郎美術館,神奈川
2012 「Theatre of life」,現代アートセンター,トルン,ポーランド
「2:46 and thereafter」,ペプコ・エディソン・プレイス・ギャラリー,ワシントンDC
   
主な参考文献
「大垣美穂子WHO」,WHO,2013


■インフォメーション

会場:東京オペラシティ アートギャラリー 4Fコリドール
期間:2013.10.11[金]─ 12.23[月・祝]
開館時間:11:00 ─ 19:00(金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)

休館日 :月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
入場料:企画展「五線譜に描いた夢 ─ 日本近代音楽の150年」、収蔵品展「聖と俗」の入場料に含まれます。

主催:公益財団法人 東京オペラシティ文化財団

お問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)